8 / 32
閑話 穏やかな日常
しおりを挟むオルタスの町にやって来たばかりのエリスとラインハルトは、町の中を散策する。
新しい町に慣れるため、そして掃除ばかりで疲れた気分転換にとエリスが誘ったのだ。
そして自由に町を歩くなどこの世界に来て出来なかったエリスは、侯爵令嬢であることは忘れ思いっきり羽根を伸ばす。
「んーん、これ、美味しいわね!」
エリスは出店で売っていたホロホロ鶏の串焼きを頬張り、舌鼓をうつ。
しかしながらラインハルトは、その串焼きを手に持ったまま口にしていない。
「どうしたの? 食べないと冷めてしまうわよ?」
「そうかもしれないが、立ったまま食べるというのが……本当に良いのだろうか?」
(そっか……ラインハルトも貴族出身だし、食べ歩きなんてしたことないよね……)
執事として侯爵家に仕えるためには、それに相応しいよう厳しくテーブルマナーを仕込まれる。
ラインハルトも当然ながらに、それに相応しい以上のマナーを身に付けているのだ。
「私たちは平民ですから、ためらう必要なんてありませんよ? それに要らないなら私が貰います!」
エリスはラインハルトの持つ串焼きに一口かぶり付き、美味しそうに食べる。
ラインハルトはそれを見て驚き、おもわず笑ってしまう。
そして自分だけが躊躇っているのが馬鹿らしくなり、串焼きに思いっきりかぶり付く。
「うん、美味しい! こんな食べ物が、この国にあったのですね……」
貴族の普段は、一流の料理人が調理した上品な食べ物しか食べない。
だからこそ庶民的で大雑把な、ガツンと旨味を感じる料理など口にしないのだ。
「おお、兄ちゃん、いい食べっぷりだねぇ! これもオマケしてあげよう!」
「いいのか?」
「ああ、それだけ美味しそうに食べてもらえると、この商売をして甲斐があるってもんよ!」
「そうか、有難う」
思いっきりかぶり付き頬を膨らましたラインハルトを見て、店の店主が更に香りの強い香草を使った串焼きを手渡してくる。
そしてラインハルトは食べ終わった串から、そちらに持ち変えてかぶり付く。
「うん、旨い!」
ラインハルトの良い食べっぷりを見ていると、不思議と物凄く美味しそうに見えるのだ。
エリスもつられて串焼きにかぶり付く。
そしてエリスとラインハルトは食べ歩きを始めるのだが、その姿を行き交う人達が見る。
それを見た人達が出店に向かい、店主はてんてこ舞いになったことを二人は知らない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,167
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる