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第21話 決闘前夜 その1
しおりを挟む──レックスがジャイアヌスと決闘することになり、その日に向けて準備を進める中でソフィは心配をする。
幾ら準備を整えようともレックス君の心に宿る不安を拭うことは出来ない。
ジャイアヌス様の圧倒的な自信に押し潰されると、勝負にならずに負けてしまうこともあり得る。
「レックス様、少しいいですか?」
「はい」
周囲の目があるなかでは本当に思っていることが言えないので、他の人の目が届かないレックス君の部屋に移動し、励ますことにしたのだ。
私とレックス君の二人しかいない室内は少し照れくさいが、こんな時でもなければ伝えることが出来ないこともある。
「レックス君、いよいよ明日だね」
「はい……でも、本当に僕がジャイアヌス様と闘って勝てるのでしょうか……」
あの日以来、レックス君はジャイアヌス様と相対することが無かった。
だからレックス君の中でジャイアヌス様に対するイメージが大きくなっているのだろう。
それに、そもそも貴族を相手にすることなど無かったのだから不安に駆られるのは仕方ない。
「聞いて、レックス君。私はあの時、ヴィエンヌの町の片隅で君に出逢えて本当に良かったと思ってるの」
「はい、僕はソフィに出逢えたからこそ、こうして生きていられます」
レックス君の言葉に私は小さく頭を振るう。
「ううん、違う。もちろん、君の命を助けられたこともそうだけど、私はあの時に出逢えたのが他でもない君で良かったと思っているの」
「はい、ヴィエンヌの町ではオットーさんニコライさん、そしてシュティーナさんと色々な人に助けられましたが、あの時あの場所で出逢えたのがソフィで本当に良かったと思います。僕が王子だなんて未だに信じられませんが、あの時の誓いの通り必ず恩を返します」
……私が熱にうなされている間に、忠誠を誓われたことを後から聞いたのだが、私が言いたいことはそうではない。
「これは君が王子だと分かったからとかでは無くて、心優しい君だからそう思うの。それに君とあの町で過ごした日々は楽しかったし、かけがえのないものだと思う」
「はい、僕もソフィの側にいるだけで笑顔になれました」
「うん、だからね……もう私のために頑張ろうとしなくていいんだよ?」
「えっ……」
「ああ誤解しないでね。別に私の為に頑張ってくれることが嫌な訳ではないんだよ。でも君が元気になって私のために必死に努力してくれることは嬉しいけど、もう私の為にではなくて自分の為に頑張って欲しいの」
「それは……何か違うのでしょうか?」
……ああそうか、レックス君にとっての願望も私に仕えて守ることになってるんだった。
「全然違うよ。私がでは無くて君の為に、えっと……あれなんだっけ?」
レックス君が余りにも当たり前に、返してくるから何を言えばいいのか分からなくなってきちゃった……。
「とにかく君が望むことの為に、それだけに頑張ればいいの! 他の人の目なんか関係無い、君は君なんだから!」
自分でも何を言っているのか分からなくなってくるが、何となく言いたいことがレックス君には伝わってくれたみたいだ。
でもクスッと笑われるとは思っていなかった。
「ソフィもそんな風に取り乱すことがあるんですね」
「当然だよ、特に君のことになると慌ててばっかりだよ」
「そうだったんですね…………ソフィ、僕が望むことを頑張ればいいんですよね?」
「うん」
「なら、僕は君を守る騎士としてこれからもずっと側にいたい」
「うん」
「そのためなら僕は何だってする。それを邪魔するのが、たとえジャイアヌス様であろうと関係無い」
「そうだね」
「僕は必ず勝って、ソフィが正しいことを証明してみせるから。ずっと君の側にいさせてください」
「はい。よろこんで」
私は跪きこちらを見上げてくるレックス君の額にキスをする。
照れくささが込み上げてくるが、今はまだこれだけでいい。
運命は全て、明日に決まるのだから。
こうして二人の距離が少しだけ縮まったのであった。
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