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陥落するまでの話
7.動揺
しおりを挟む現地へ向かう道中、団員同士で作戦の確認や状況把握の話を交わす。が、現地を見ていない俺たちが事前にできる話は限られる。せいぜい誰が右から攻めるか左から行くか。配置の並びはどうするか。
そのうち小声で雑談が始まり、討伐が終わったら飲みに行って何をするだとか今は関係ない恋愛事情、騎士団員の裏情報といったものまで始まった。こうなれば俺は早々に話の輪から離脱する。
「そういやさー、統括団長の噂聞いたぜ」
聞くつもりはなかったが、話に出てきた人物が思ってもいなかった人で、つい耳をそばだててしまった。
俺の後ろを歩く、第五小隊の騎士たちだ。
「噂がないときの方が少ないだろ。相手に不自由してなさそうだし。侯爵家の出身であの顔、あの魔力、しかも肩書は我が国の騎士団統括団長。今さらじゃねえか?」
「王女殿下との話を断ったって噂もあるくらいだしな。いやそれがさ、本人が話してるの聞いたってヤツがいて、婚姻を結ぶってよ」
「マジか!? いやいや、『話してるのを聞いた』って本当は違うのがオチだろ。定番定番、噂の定番だな」
婚姻……俺の頭に殴られたような衝撃が襲った。なんだこれ。どうして俺はこんなに狼狽えているんだ? 何に対して驚いているんだろう。自分のことなのにわけがわからず、肌がピリピリと粟立った。
前を歩く俺のことなどお構いなしに、騎士たちはその話題を続けた。
「一夜の相手はしても特定の相手って聞いたことないよな。釣書も毎日のように届くんだろ? それが最近じゃ婚姻を結びたい相手がいるから、色んな誘いを断ってるらしいぞ」
「へえ、とうとうか。あの統括団長を射止めたのはどこの誰なんだろうなあ。それって……」
より一層声を潜めてはいるもののその声は俺まで届き、『よほど具合がいいのか』などという下品な笑いが続いた。
もう俺にそいつらの話が入ってくることはなく、レオンには婚姻を考える相手がいて、あの人の隣に誰かが収まるという事実に打ちのめされていた。
何故そんなことを思うのか。俺が傷付く立場じゃないのに、何を勘違いしそうになっているんだ。まだ大丈夫。今なら平気だ、気付かないふりをしろ──俺はもたげそうになっている何かを必死に押し込めた。
「どうした、アルフォンス?」
「いえ、何も」
「もうすぐ現地だな。短時間で片付けよう」
「はい」
前方の魔法騎士から声をかけられる。今は討伐のことを考えなければならないのだ。そう、他のことに気を取られている場合ではない。
現実に引き戻され、余計なことは頭の中から消し去った。
空気の澱みを感じながら歩を進める。
そして討伐の地に着くと、団員たちの纏う雰囲気は戦う騎士のものへ変化していた。誰もが軽口を並べていたときとは違い、真剣な顔をしていた。
「全員配置に着け。無理と判断したときは深追いせず、引くように」
フェリクス第二騎士団長から実行の合図が出た。俺も自分の配置に着く。短期決戦。事前に掴んでいた情報から、一気に攻撃をしかける。
(ここか……)
組んだ第三騎士団の魔法騎士と気配で攻撃のタイミングを計る。お互い小さく頷き討伐は始まった。
魔獣を相手に俺は無心で攻撃を打ち込んだ。この魔獣の弱点は頭部だ。隠しようもなくわかりやすい。が、ときどき妙な動きをする。
違和感がありながらも、俺は攻撃を続けた。このままにしておくことはできず、とにかく伐たねばならない。しかも他の魔法騎士と合わせてだ。
(次だ……剣で刺す)
確実に一撃で終わらせようと剣を振りかざしたとき、余計な思考が一瞬掠めた。
伐つときは躊躇うな、と。そして自分の直感を信じろとも。何故かこのときレオンの言葉を思い出したのだ。
きっと、そういった助言もなくなる。
「アルフォンスッ!」
おかしいと思った違和感。察知していたくせに、自分の直感を信じなかった。
そうだ、そう言われていたじゃないか。どうして俺はレオンの言うことを守らなかったのだろう。
全身に衝撃が走る。
俺は魔獣の尾に吹っ飛ばされ、意識を失った。
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