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陥落するまでの話
8.決心
しおりを挟む体が重く、呼吸が苦しい──
意識があるのかないのか、それすら曖昧だ。瞼を持ち上げようとしている自分に気づき、そこでようやく寝ていたのか、と理解した。
酷く緩慢に目を開け、何回か瞬きをしてから『どこだここ?』と、まず視界が捉えた見慣れない天井に疑問がわく。敵はいない。気配でそれだけはわかる。警戒して全身に入っていた力を抜いた。
室内だ。どこの?
背中の感触から寝具の上であることもわかった。捕らえられているわけじゃない。見回すために首を動かそうとしたら、そこかしこに割れるような痛みが走った。
「………っ つぅ」
そこで瞬時に記憶が蘇る。
寝ていたんじゃない。気を失っていたんだ。討伐で魔獣に吹っ飛ばされたところで記憶は途絶えている。
けっこうな衝撃だったから、肋骨あたりが折れたのだろう。吹っ飛んだ後どうなったのか暗転した俺は顛末を知らない。生きてここにいるということは、討伐は無事に終えているのだ。
ほっとすればいいのか失態に焦ればいいのか。投げやりな気分でゆっくり室内を見回す。体を動かしても割れるような痛みはなかった。
外の明るさからして日中らしい。陽が傾いた頃の色合いとは違っていた。朝ということもないだろう。どれだけの時間、気を失っていたのかもわからない。下手したら数日経っている可能性もあるが、近くに誰もおらず、すぐに知ることはできそうにない。
各地に騎士団が所有している館があり、派遣された団員の食事や滞在、俺のような怪我人の手当てに対応できる者が常駐している。おそらく討伐現場の近くにある館へ運び込まれたのだ。俺の治療も館の者に施されたのだろう。
折れた骨は治癒の魔術でついているようだが、治療処置は最低限のみで小さな傷や全身の痛みはそのままだ。魔術による治癒魔法は治癒師の魔力消費を考慮し、怪我人に対して治癒できる限度がある。当然、倫理的にも可能な範囲は決められていた。
それに他の負傷者の手当てで忙しいのだろう。大怪我の治療だけで手いっぱいになる。
(しくじった………)
はぁと吐き出したため息には失態に対する情けなさと、こうなってしまった原因に思い至り、今まで自覚したことのなかった感情が入り混じっていた。
仕留められるはずだった魔獣を倒し損ねた上、いつもなら躱せた攻撃を食らうほどだ。チラリとよぎった顔も、考えないようにした噂話も、これまで一緒に過ごした日々も。触れられた温もり。注がれた言葉たち──
(どうしろっていうんだ)
ぐちゃくちゃでまとまらない。
これまでどおり振る舞える気がしない。
何もなかったように? 部下として任務は淡々とこなせるだろうが、レオンが想う誰かがいるとわかっても俺のこの感情を殺せるのか……
気付かないふりをしたところで隠しようのない動揺が顕著に表れているじゃないか。現にこうして怪我を負っている。
(自分でどうにもならないなら……)
俺はこれからどう動くべきか。選択肢はいくつもない。その中からひとつの決断をする。
伝手を辿る算段と国境までの道のり、そこまでかかる日数や頼る人物のことを考え、頭の中をそのことだけで埋めることにした。
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