【完結】騎士団でいつの間にか外堀埋められ陥落した話+その後の話

文字の大きさ
11 / 46
陥落するまでの話

11.逃亡

しおりを挟む

 団員寮の荷物を整理しておけば発つ予定が早まったとしてもすぐに対応できるし、何より退路を塞いでしまいたかった。だからさっさと辺境領へ持参するものをまとめようと思っていた。

 踵がカツカツ立てる音はどこか重い。
 魔獣討伐の傷は軋む程度になりはしたものの、まだ痛みが残っている。騎士団の事務所から通路を一歩一歩進むたび、ツキツキ感じる鈍い感覚。これは本当に傷の痛みなのか。

(ここへ来た日に戻ったと思えば……なかったことになる)

 忘れるんじゃない。何もなかった、会わなかった。そうすれば、俺の中から消えるのだ。すべて──

 ひとつひとつの記憶を封印するように、声も仕草も、穏やかに笑う顔も。思い出しては塗りつぶしていく。そうやってレオンという存在から離れようとした。

「アルフォンス?」





 それが──

 どうしてこうなった?
 あの低音に名前を呼ばれ、もちろん誰が呼び止めたのかわかっていて声の主を確かめた。振り返ってみれば、やはり思い浮かべた人の顔があって。
 と同時に、いつも輝いていた碧眼とは違い、見たことのないドロドロした瞳の色と目が合った。俺が何かを言うより先に、それこそレオンの名前を口にしようとしたとき、全身を奇妙な痺れが襲った。
 何をされたのかわからないまま体が崩れ落ち、けれど地に膝を着く直前で受け止められた。意識はそこで暗転し、その後……気が付いたらここにいたのだ。

 知らない部屋の寝台の上。
 俺を見下ろしているのは、レオンだ。あのドロドロした瞳のままで。

「何でっ」

 声は出せる。笑えるくらい弱々しいが話すことはできた。
 ただ体を自由に動かすことができなかった。レオンの手によって、頭上で両腕を戒められている。脇や腹を晒す無防備な体勢は心許なく、不安が増していく。いや、まさか。傷つけられることはないと信じたいが、それでも、何故こんなことに……疑問ばかりが浮かんだ。

「おかえり。大変だったね、アルが大怪我を負ったと聞いて心配していたよ。本当はすぐに駆けつけたかったんだけど、そうもいかなくて。こういうとき面倒だよね、統括団長なんていう役目があると」

 辞めたら好きなようにできるかな──有り得ないことを言いながら寝台に腰を掛けているレオンは押さえつけていないほうの手で、俺の左頬をそろっと撫でた。まるでここにいることを確かめているようにも思える。が、指の動きはそれだけではない。
 頬から顎先まで辿り、首筋をつつーっと爪でなぞられる。尖った爪の動きにぞわっと肌が粟立った。

「帰ってきたら話そうと思っていたのに、まさか辺境領へ逃げようとするなんて……自由にさせすぎたかな?」
「……っ!」

 その言葉にハッとする。何故レオンが知っているのか。つい先ほど、俺の意思が変わっていないことを伝えたばかりだというのに。フェリクス団長から誰にも話はいっていないはずだ。
 しかも単なる団員の身でしかない。俺がいなくなったところで影響もなく、何ら問題はないはずだ。ここを発った後、姿が見当たらないことで退団の話は上がるかもしれないが、それくらいの存在だと思っていた。

 辺境伯領へ着いたら王立騎士団の魔法騎士としてではなく、一人の騎士としてやっていくつもりだった。
 それが逃げることに当てはまるのかわからないが、距離を取るための行動であることに変わりない。

「レオン……俺は、ただ」
「ただ、旅に出る──なんてこともないでしょ? 戻るつもりがないんだから。こういうことはね、割と勘がいいんだ。まさかと思って驚いたよ」

 口調は変わらず落ち着いたままで、驚いたと言いながらそんな様子はまったく感じられない。むしろ落ち着きすぎるほどに声音は冷静だ。
 首筋を辿った指は上衣の一番上にあるボタンをプチッと外し。その下も、次も……外気に晒された肌が震えたのは、寒さのせいじゃない。そんな俺の様子を見ていたレオンの口角は僅かに上がっていた。

 上衣の前を左右に割り開かれ、脇にそっと触れられる。ビクッと大きく反応したことに碧眼は細められ、仄暗いものを孕んだ。

「まだ痣が残っているけれど、無事でよかった。大切にしてくれないと……君のものであり俺のものでもあるんだから」

 ね、って言いながら脇腹をことさら執拗にいじりまわす。一本だけだった指が二本、三本に増え、ぐりぐりと何かを塗り込むかのように何度も円を描いた。
 これまでのレオンとは違う様子に、俺は本能的に拒んだ。もちろんこんなことは今までない。無意識に魔力が高まっていた。けれど、俺より遥かに強いレオンが俺の動きを見逃すわけもなく、瞬時にして重ねるような冷気で押さえられてしまった。

「覚えてもらおうかな。しっかり、身体で」

 低い声音に含まれた劣情。明らかに灯された瞳の欲。

 ああ、喰われる──

 まるごと飲み込まれる感覚がした。それなのに、俺は目を見開きながら、恐怖の中でもどこか喜んでいる感情を自覚していた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...