【完結】騎士団でいつの間にか外堀埋められ陥落した話+その後の話

文字の大きさ
10 / 46
陥落するまでの話

10.報告

しおりを挟む

 騎士団本部へ顔を出してから寮へ帰ろうと思い、俺は第二騎士団の事務所へ向かった。おそらく討伐の事後処理班が到着したことは本部にも伝わっている。ということは一緒に俺も戻ったと判断されるが、自分で帰還の報告をしたほうが良いだろう。特に今回は。

 何しろあの失態はあまりにも不甲斐ない。

 事務所へ近づきたくないというのが本音だがそうも言ってられない。顔を見れば決断した気持ちが揺らいでしまいそうで、レオンの不在を願った。
 ゆらゆら揺れ相反する感情の折り合いがつかないまま、第二騎士団事務所の前に着いてしまった。
 迷っていても仕方がない。短く息を吐いてから、意を決して事務所のドアを開けた。

 視線を動かし室内にレオンがいないことを確認する。ほっとしつつ姿を探してしまった自分に呆れた。

「アルフォンス、ご苦労だったな。怪我はもういいのか?」
「はい、ご迷惑をお掛けしました。先ほど無事帰還しました」

 執務をしていたフェリクス第二騎士団長に声を掛けられ、俺は礼を返した。団長の執務机の前まで進んで経緯や報告を済ませる。
 他の在席していた事務官からも『おかえりなさい』という声が聞こえてきた。どう返せばいのかわからず『ただいま戻りました』くらいしか言葉は浮かばなかった。それでも事務官たちに安堵の様子が滲んでいたことがわかり、心配されていたことを知った。

「悪かったな、無理して連れ帰るより回復を優先させた。ここのところ忙しかっただろ、お前。休暇も取らないからな」
「……今回のことは自分のミスです」
「あまり己を責めるな。お前のあの姿を見て肝が冷えたぞ」
「すみません」

 掠り傷程度のものは無数にあっても、これまで意識をなくしたことはなかった。それなりに高い魔力を保有している自覚はあったし、おごることなく技術を磨いてきたつもりだ。自信はあっても過信することなく常に気を張っていたのだが、あれは失態以外の何物でもない。団長にも余計な心配をかけてしまった。

 フェリクス団長からスッと真顔を向けられる。ここへ戻る前に俺はこれからのことを手紙に記し、先に伝えていたのだ。

「……お前の考えは変わらないのか?」
「はい」

 声の大きさは抑えられている。二人だけにしか聞こえないし、内容も端的でなんのことか知られることもない。

 そうか、と溜息混じりのフェリクス団長の声は、何を言っても無駄であると察してくれていた。
 俺は王都の騎士団本部から離れたいと申し入れたのだ。もうここにはいられない、覚悟を決めたから。しかしアテのないまま彷徨っても生きていくことは難しい。王立騎士団という組織に属さない俺では信頼度も下がる。そこでフェリクス団長から辺境伯への口添えを頼んだ。

「一週間後を目処に準備してくれ。こちらもそのように話をつけておく」
「ありがとうございます」

 無理な願いを叶えてくれたことに感謝の意味で深く礼をとって辞した。周りに聞こえていたとしても職務の話と思われただろう。

 俺は自分の魔力と騎士団での経験を活かせる辺境伯領へ行くつもりだった。国境を守る辺境伯が長となるため王立騎士団とは別の組織となる。
 あそこならば近くに出現する魔獣の討伐や、国境沿いの争いに駆け付けられるから。王都の騎士団とは違う形で、この国に尽力できればと思っていた。

 それに様々な噂話も辺境伯領まで届くことはない。例えレオンが婚姻を結んだとしても、遠地であれば貴族の婚姻として紙面で伝わるはずだ。俺がわざわざ目にしようと思わない限り、そういった話題を知ることもない。騎士団ではないのだから王都のようにそこかしこで耳にすることはなくなる。

 団員寮の荷物はそれほど多くはない。元々物欲はないし生活できる最低限の物しか私物を持っていないのだ。すぐに荷造りも終えるだろう。発つまでに一週間あるなら、他にもやっておくべきことができそうだ。

 団長ならばともかく団員一人が辞めるくらいで、レオンにはいちいち報告は上がらない。
 黙って騎士団から消えることになってしまう後ろめたさはあっても、後悔はしないと決めている。この気持ちごと辺境領へ連れて行き、いつか……想いが消えることを願った。

 俺はぎゅっと手を握り締め、団員寮へ向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...