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陥落するまでの話
10.報告
しおりを挟む騎士団本部へ顔を出してから寮へ帰ろうと思い、俺は第二騎士団の事務所へ向かった。おそらく討伐の事後処理班が到着したことは本部にも伝わっている。ということは一緒に俺も戻ったと判断されるが、自分で帰還の報告をしたほうが良いだろう。特に今回は。
何しろあの失態はあまりにも不甲斐ない。
事務所へ近づきたくないというのが本音だがそうも言ってられない。顔を見れば決断した気持ちが揺らいでしまいそうで、レオンの不在を願った。
ゆらゆら揺れ相反する感情の折り合いがつかないまま、第二騎士団事務所の前に着いてしまった。
迷っていても仕方がない。短く息を吐いてから、意を決して事務所のドアを開けた。
視線を動かし室内にレオンがいないことを確認する。ほっとしつつ姿を探してしまった自分に呆れた。
「アルフォンス、ご苦労だったな。怪我はもういいのか?」
「はい、ご迷惑をお掛けしました。先ほど無事帰還しました」
執務をしていたフェリクス第二騎士団長に声を掛けられ、俺は礼を返した。団長の執務机の前まで進んで経緯や報告を済ませる。
他の在席していた事務官からも『おかえりなさい』という声が聞こえてきた。どう返せばいのかわからず『ただいま戻りました』くらいしか言葉は浮かばなかった。それでも事務官たちに安堵の様子が滲んでいたことがわかり、心配されていたことを知った。
「悪かったな、無理して連れ帰るより回復を優先させた。ここのところ忙しかっただろ、お前。休暇も取らないからな」
「……今回のことは自分のミスです」
「あまり己を責めるな。お前のあの姿を見て肝が冷えたぞ」
「すみません」
掠り傷程度のものは無数にあっても、これまで意識をなくしたことはなかった。それなりに高い魔力を保有している自覚はあったし、傲ることなく技術を磨いてきたつもりだ。自信はあっても過信することなく常に気を張っていたのだが、あれは失態以外の何物でもない。団長にも余計な心配をかけてしまった。
フェリクス団長からスッと真顔を向けられる。ここへ戻る前に俺はこれからのことを手紙に記し、先に伝えていたのだ。
「……お前の考えは変わらないのか?」
「はい」
声の大きさは抑えられている。二人だけにしか聞こえないし、内容も端的でなんのことか知られることもない。
そうか、と溜息混じりのフェリクス団長の声は、何を言っても無駄であると察してくれていた。
俺は王都の騎士団本部から離れたいと申し入れたのだ。もうここにはいられない、覚悟を決めたから。しかしアテのないまま彷徨っても生きていくことは難しい。王立騎士団という組織に属さない俺では信頼度も下がる。そこでフェリクス団長から辺境伯への口添えを頼んだ。
「一週間後を目処に準備してくれ。こちらもそのように話をつけておく」
「ありがとうございます」
無理な願いを叶えてくれたことに感謝の意味で深く礼をとって辞した。周りに聞こえていたとしても職務の話と思われただろう。
俺は自分の魔力と騎士団での経験を活かせる辺境伯領へ行くつもりだった。国境を守る辺境伯が長となるため王立騎士団とは別の組織となる。
あそこならば近くに出現する魔獣の討伐や、国境沿いの争いに駆け付けられるから。王都の騎士団とは違う形で、この国に尽力できればと思っていた。
それに様々な噂話も辺境伯領まで届くことはない。例えレオンが婚姻を結んだとしても、遠地であれば貴族の婚姻として紙面で伝わるはずだ。俺がわざわざ目にしようと思わない限り、そういった話題を知ることもない。騎士団ではないのだから王都のようにそこかしこで耳にすることはなくなる。
団員寮の荷物はそれほど多くはない。元々物欲はないし生活できる最低限の物しか私物を持っていないのだ。すぐに荷造りも終えるだろう。発つまでに一週間あるなら、他にもやっておくべきことができそうだ。
団長ならばともかく団員一人が辞めるくらいで、レオンにはいちいち報告は上がらない。
黙って騎士団から消えることになってしまう後ろめたさはあっても、後悔はしないと決めている。この気持ちごと辺境領へ連れて行き、いつか……想いが消えることを願った。
俺はぎゅっと手を握り締め、団員寮へ向かって歩き出した。
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