【完結】騎士団でいつの間にか外堀埋められ陥落した話+その後の話

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陥落したその後の話

10.改変

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 俺は事務官がいた魔術師団の建物を抜け、研究室と呼ばれている別棟を目指す。敷地全体がで囲まれており、いくつかの研究室が建てられている。また何もない広く開けた場所もあった。そこで魔術師たちが新しく考えた様々なことを試しているのだ。

 カミルは室内の閉塞感を嫌って、外にあるテーブルをよく使っていた。陽の明るさや開放感が好きなのだとか。

「カミル」

 少し離れたところからでもカミルの姿が見え、そこから声を掛けた。考えに没頭していると目の前へ立っても気づかない。到着を知らせるためには肩を叩くしかなく、それだと『ぎゃあ!』と騒ぐものだから、驚かせないように配慮してのことだ。けれど、あまり効果がないこともわかっている。没頭しているのだから俺の声なんて届きはしないのだ。
 案の定、声をかけてもカミルは気づいた様子はない。いつものように手元の作業へ集中しているようだ。
 俺は息を吸って再び声を掛けた。もちろん自分なりに精一杯の大きさで。

「カ、ミ、ルッ!」

 あまり使うことがない大きな声で名を呼んだ。しかも、わかりやすく一音ごと区切るように発してだ。今日はそこまで難しいことを考えていなかったのか、カミルは『ん?』といった様子で意識を現実に戻した。きょろきょろ周りへ視線を動かし、俺の存在を捉えた。

「あっ、アルフォンス!」

 嬉しそうに、ぱっと笑顔が浮かんだ。そんな反応をされれえば無反応だったことくらい許せてしまう。俺も表情を和らげ、カミルが座っているテーブルへ近づく。

「来てくれてありがとう。ひとつ新しい回路を追加したくて。この間渡したばかりだけど、アルフォンスの回路いじってもいい?」
「どうぞ」

 待ち切れないとばかりに着いて早々に、もう魔術の話が始まった。こうなると他の話題をしても無駄だ。
 俺は余計な力を抜いて、カミルが魔術回路をいじりやすいように防御する意識を解く。それから目を閉じた。

 身体の中をちくちくというのか、ざわざわと表現すればいいのか。くすぐったいわけでも痛いものでもない感覚が駆け巡る。
 カミルが俺の中にある魔術回路をいじるとは言うが、実際どのようなことをされているのかはわからない。形あるものではない魔術式を書き換えているらしいが、それはほんの一瞬ですぐに終わってしまった。
 あまりの短い時間にこれで変わったところがあるのか疑いたくなるほどだ。

「はい、おしまい」

 カミルの声で閉じていた瞼を開けた。

「ユリウスから短時間でアルフォンスの魔力を上げられるように改変してほしい、みたいなことを言われたんだよね……これですぐ全力に近いことができると思うけど、魔力もそれなりに消費するから気をつけてね?」
「ユリウス魔術師団長が……」

 何か裏があるようで、きな臭い。レオンの呼び出しといい、俺の魔術回路改変が重なったこともそうだ。やはり何かが起きているのだろう。
 ただ騎士団の団長でもない俺の魔力などたかが知れている。レオンは桁違いで比べるまでもないとして、あくまで魔法騎士にしては多いのであって、団長たちのような立場の方々とは違った。そこまでの膨大さはない。

「アルフォンスって攻撃力を上げればいいわけじゃないと思うんだよ。魔力の質が違う。まだそこの解析が出来てなくて、他にも気になるところがあるし……うーん、悔しいことにどうしてもわからないんだよなぁ。そこを解明したいのに」

 俺はカミルの向かいにある椅子を引いて腰をおろした。初めて会ったときと違い、今では遠慮のない口調と態度に変わっている。対等というよりも、どちらかといえばカミルに懐かれているような気がした。俺のどこを気に入ったのかはわからないが、三男として育った環境のせいか、弟と思えば悪い気はしない。
 年齢を尋ねたらカミルは俺よりもひとつ年下だった。みっつは下だと思っていたからこれには驚きだ。

「これでも充分だと思うけど?」
「いや! 気に入らないままなんてよくないよ。それって、できるはずのことができてないってことじゃん。諦めたくないもん」

 頭を使うと糖分が欲しくなる、と言いながらカミルはテーブルの上にある山盛りの菓子を摘んで口へ放っていく。まるでうまくいかない苛立ちをまぎらわせるように、菓子は次から次へと口の中へ消えていった。その様子を見ているだけで俺は胸が焼けそうだ。

 こうして俺と話をしているだけでも、カミルは情報を得ているらしい。癖や感情も大切な要素になるそうだ。そういうところも調整して折り込む方が、より繊細で精密なものとなり本人に適した魔術に仕上がるらしい。魔術のことはよくわからないが、そういうものだと説明された。

「カミル、アルフォンス」

 そこへ、ルーカス第一騎士団長の声が響いた。低くはない清らかな声音。二人で同時に振り返る。顔を会わせるのは俺が第一騎士団へ異動したときの挨拶以来だ。
 ルーカス団長は王族警護を担う第一騎士団に相応しく、騎士団長の中で最も華やかで美しいと言われている。それは女性的という意味ではなく、繊細で立ち居振る舞いの所作に品があるからだろう。

 何故その第一騎士団長がここにいるのか、俺には理由がわからなかった。

 だがルーカス第一騎士団長がさっと身を控えたことでそばにいる人物に気づき、すぐさま俺たちも立ち上がりこうべを垂れる。

「いいよ、公式じゃない」

 声の主はアレクシス・シュトルツ王太子殿下だった。許しが出たことで姿勢を正す。
 王太子殿下に直接お会いしたことなどもちろんない。厳格な階級制度ではないここシュトルツ国だとしても、王族に対する忠誠、敬意は当然ながら有しているし、滅多に言葉を賜ることも拝謁することもかなわない方だ。

 だというのに、どうしてその王太子殿下がここに──

「レオンの伴侶だよね? 会わせてくれって何回も言っているのに、忙しいだの何だの理由をつけて連れて来てはくれないからさ」
「王太子殿下におかれましては……」
「ああ、そういうのはなしで。魔術師団は僕の管轄機関なんだけどね、ちょっとお願いがあってアルフォンスに会いに来たんだ」
「私に、ですか?」
「そう。君に頼めないから」

 アレクシス王太子殿下は穏やかに、けれどとても綺麗な笑顔を浮かべ俺へ告げた。
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