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陥落したその後の話
11.献身
しおりを挟む──城下街の一角
俺は現場から少し離れた建物の影に身を潜めた。レオンに姿を見られないよう、アレクシス王太子殿下からの指示があったからだ。
『君は静かに待っておいで』
ここからは辛うじて全体の様子を見ることができそうだが、騒動となっている現場へは伴ってもらえなかった。俺がここに控えていなければならない理由は教えられていない。アレクシス王太子殿下にそう言われてしまえば、臣下の俺は従うしかない。
アレクシス王太子殿下とルーカス第一騎士団長が混沌としているその場へ近づく。俺は様子を目で追った。二人の気配を察した面々へ手を軽く払い、そのまま続けろと指示を出している。
遠目からでもそこが事態の根源であることは察せられた。異様な光景と気配、緊張感。ゾワッっと背筋が震える。
視界に捉えた瞬間、思わず俺は息を呑んだ。
騎士たちが数名と隊長や団長たちの姿。知った顔ばかりだ。皆で円を描くようにそれを取り囲み、中心を向いている。
同じ騎士として剣術を得意とする仲間たちの実力は熟知していた。決して弱いなんてことはない。だというのに、防ぎきれず所々切りつけられた傷からは赤い血が流れていた。それも一人だけではなく、ほぼ全員が何かしらかの攻撃を受けている。
ここにいるのは何も魔法騎士だけではない。隊長や団長たちだって顔を揃えていた。それなのに苦戦したことを伺わせる状態なのだ。今までどんなに強敵な魔獣が相手だったとしても、彼らが傷を負った姿など見たことがなかった。
(レオン……っ!)
はっとして俺は姿を探す。
どこ……どこにいる? 彼が出て行ったのはこのためなんじゃないのか? まさか安全な場所で指示を出しているだけということはないだろう。きっとこの場にいるはずだ。
巡らせた視界からの情報。彼はどうなっているのか。厳しくも情が深いあの人は無事なのか──
恐らく元は人であったのだろう肉片と無惨な状態になっている衣類。皆が向いている方向にあるものだ。その残骸を中心として地面には禍々しい魔術紋が画かれていた。
(何だ……あれは……?)
溢れそうな悪意の根源を、フェリクス第二騎士団長や魔力が高いと言われている魔法騎士たちが半球状の結界で抑え込んでいた。その面々の中には探していた姿も──レオンだ。
いくつかの基点を繋ぎ、地に画かれているその魔術紋を覆っている状態だ。
頬に切り傷はあるものの、しっかりと立つレオンの姿に思わず止めていた息を吐く。
「いつまでもこのままとはいくまい……」
フェリクス第二騎士団長が言葉を発した。おそらくだが、この状況は咄嗟の判断なのだろう。地に画かれている魔術紋
の展開が完成し、発動しないよう結界で防いでいる。よくこの結界を張る判断ができたものだ。相当の強固な結界状態で張られていた。もしかしたらレオンが張った結界なのかもしれない。
静かに保たれている均衡がいつ崩れるのかは誰にもわからない。体力と同じように、使えば増えることなく減る一方の魔力だ。誰かが尽きれば膠着状態が傾く。集中力だって維持し続けなければならないのだ。フェリクス第二騎士団長が言うように、このまま維持はできないということだ。
「随分と手の込んだことをしてくれたよ。体内に魔法紋を仕込んで、自決と同時に展開させる術式とはね」
「入国の際、鑑定を抜けるための策なのでしょうけど……数時間後には暴発する可能性が高いかと」
聞こえてくるアレクシス王太子殿下とユリウス魔術師団長の話から、経緯を推し測ることができた。
国境を通る際にこの者の侵入を防げなかったのは、特殊な魔術が施されていたからだ。まさか体内に保持しているとは思わないし、命をもって発動させる人間がいることは想定していない。
身を捧げたその決意に込められた想いとは何だったのか。愛国心からなのか、それとも脅されやむなく実行したのかはわからない。が、あまりにも異例な事態に胸が痛む。
「王城から離れてはいるが、このままでは城下街の広範囲が巻き込まれるな。貴族街も一部入る。避難させるにしても今からでは時間が足りない……」
「だからといって攻撃して吹き飛ばすのは得策じゃないだろ。倍となって返される可能性もあるぞ」
もしも発動させてしまえば民が巻き込まれる。魔術紋を排除しようとしても同じような結果になるのだろう。どちらにしても猶予はそれほどなく、早い対応が望まれる。
「ひとつ、……方法がなくもないよ」
アレクシス王太子殿下が、ふむっと顎へ手を充てながら誰とはなしに向けて策の存在を口にした。折に触れて次王になってもこの国は安泰だと耳にする。王太子殿下が優秀であることを表した言葉だ。
そのアレクシス王太子殿下は既にこの顛末が見えているらしいが、俺はまだその一端を知らされているだけだ。そのためにこうして身を潜めている。
全容はこれから明かされるとしても、アレクシス王太子殿下の企みじみた言い方に嫌なものを感じ取った。
「魔力ではなく彼ごと贄にしてしまえば、解決できるんじゃないかと思うよ。ただね、この中でそれができるのは……一人だけかな」
チラッとアレクシス王太子殿下が視線を向けた先にいたのは、レオンだ。
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