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陥落したその後の話
13.顛末
しおりを挟む「………」
「ごめんね」
「………」
「機嫌を直してくれないかい? アル……」
威厳も精悍さもない統括団長のレオンが寝台に腰を掛け、俺にひたすら許しを乞う。三日ばかり昏々と眠り続けた俺は、ようやく意識を取り戻した。
クッションを重ねたヘッドボードへ背を預け、どこにも怪我のない姿で起きてはいる。気分が悪いということもない。ただ、むすりと不機嫌を露わにしているたけだ。俺はじっとりレオンを見詰め返した。
ちなみに部屋の中には壁際に侍女たちが控えている。俺が眠り続ける間、レオンに代わってそばにいてくれたのは彼女たちだ。その侍女たちもじっとりレオンを睨んでいた。この邸の主なのに……
レオンの態度は繕っているわけではないだろうがやや大げさな気もして、本当に反省しているかどうかはあやしいものだ。事情があるためすべてを話せなかったと理解は示せても、だからといって気分のよいものではなかった。騙すつもりなど毛頭なかったらしいが、俺からするとそれに近い。
「いいですよ、もう……」
「アル、ごめんね。ありがとう」
ぎゅっと腕の中へ抱き込まれる。『無事でよかった』その言葉も偽りない本音だろうから。何日が振りに包まれた暖かさとレオンの匂いに、俺は仕方ないなと簡単に許してしまった。
侍女たちからは、『アルフォンス様、甘いですよ』と小さな抗議が聞こえたものの、こればかりは仕方がない。相手がレオンだから。
それにアレクシス王太子殿下が関わっていたとなれば、レオンだって反対しきれなかったのだろう。
少し前の時刻──
瞼を持ち上げた俺の前には心配顔の侍女たちがおり、すぐさま甲斐甲斐しく世話を焼かれた。気を失って三日経っていたことには驚いたが。どこにも怪我はなく、消耗の激しかった魔力が戻るまで時間を要しただけで、身体は気怠いながらも動かすことはできた。
口にしやすいなめらかなスープが運ばれるやスプーンで口元まで差し出され、身体を清めることから髪を梳かれるやら、自分でできると言っているのにすべて却下された。
随分と心配をかけたこともあって彼女たちの気が済むまで任せることにした。
ぽつぽつと話を聞くに。どうやら侍女たちは意識を失くして運ばれた俺のことを、それはそれは心配してくれたらしい。伴侶であり騎士団の責任者でもあるレオンに怒り心頭の様子だ。常より時間をかけて支度をしているのは、どうやら部屋へ通されるのを待つレオンへの、せめてもの抗議なのだろう。収まらない気持ちゆえの態度かもしれない。俺に対してそこまで仕え思ってくれていることをくすぐったく感じた。
『私たちはアルフォンス様の味方ですから』
身体が少し落ち着いた頃、レオンを通す前にヘレナがそのようなことを口にしていた。彼女たちの中では、このような無理をさせるなんて! とすっかりレオンが悪者になってしまったようだ。
まだ件の詳細を知らない俺は首を傾げるばかりだったが、レオンから事の顛末を聞き、なるほど侍女たちの怒りもわからないではなかった。
『ユリウスからの報告でアルフォンスなら対処できることがわかっている。アレの魔力は消失の資性を持っているね。私にも同じような性質はあるが、何せ立場が自由にはできないから。じゃあそういうことでアルフォンスにやらせよう』
『は? 何を馬鹿げたこと言ってるんです。できるならご自身でやってくださいよ』
『これ決定だよ。あれだけの魔力持ちならできるだろう? いい機会じゃないか、あの子が周りの気持ちを知るのに』
『嫌ですよ』
王太子殿下とレオンの攻防はこうして始まったらしい。
あの魔術紋……攻撃すれば同等の被害が周辺へ及ぶこと。結界で抑えてはいたが暴発までの猶予がないこと。攻撃することはできないが消し去ることは可能であること。これらを踏まえ、対処の実行が可能な人物……それはアレクシス王太子殿下と俺だった。
コンラート第三隊長は俺の魔力に特異性があることを察知し、行動を共にしながら内偵していたらしい。だからどこか警戒しているような近寄りがたい雰囲気だったのだ。
ちなみにアレクシス王太子殿下は俺のように魔力が枯渇することなく対処できるとのこと。とはいっても命の危険があることに変わりはない。王族であることを加味すれば、俺の役目となることは必然だった。
ただ気を失うほどの魔力を使うとなれば危険性も高まる。当然レオンは最後まで渋った。更に俺がどこまで魔力を注ぐか未知数なことも懸念していた点だ。性格上、自分くらいで済むなら安いものだと安易に身を差し出すことを危惧したらしい。必要なのは魔力てあってその身ではないというのに。
俺はどうやら自分自身にあまり執着心がないようで。人から向けられる好意にも鈍く、感情の動きが乏しいそうだ。そう言われても思い当たることがない。『ほら、そういうところだよ』と寂しそうに指摘された。そこで俺の感情を揺さぶるためにレオンを利用したようだ。
彼を犠牲にしたくないという想いを煽り、『戻っておいで』と伝えることで、生きることを俺に望ませた。その言葉がなければ、ただ命を投げていた可能性だってある。
すべてはアレクシス王太子殿下の策らしいが、何かあればすぐ私が対処すると押し切られたそうだ。レオンとて王族に逆らうことは難しかったのだろう。それでも、いざとなればアルフォンスを優先しすべてを吹っ飛ばしますよ、と告げたことは後から聞いた話だ。レオンの桁違いの魔力とは、それほどなのだろう。
ならば成功させるためにもしっかりアルフォンスを誘導しろ、と。そこは射抜くように命じられたそうだ。
「アルに無理をさせたくはなかったけれど。アレクシス王太子殿下に貸しができたかな」
君の顔が見られて安心した。そう言って頬へ口づけると離れようとしたレオンを、つい掴まえてしまった。
「アル?」
「……そばに、……もう少し、……」
あまり普段口にしない言葉だった。寂しいものとは違う、離れ難い気持ちが湧いていた。もっとレオンの体温を感じていたい、そう求めていた。欲のあるものではなく触れていたい、近くにいることを確かめたいと願った。
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