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陥落したその後の話
14.深層
しおりを挟むいつの間にか部屋は二人きりとなっていた。俺はレオンの手を引いて、彼の掌を自分の頬へ押し付ける。その上から自分の手を重ね、存在を確かめたくて。
レオンはいつも俺を支え、包み、繋ぎ止めてくれる人だ。この手と同じように、いつも温かい。
「ちゃんと戻ってきましたよ。ご褒美をいただけますか?」
「そういうことをされたら、俺は遠慮なんてしないよ? でも、今日はさすがに無理はできないからね」
できないと言いながら両手で頬を挟まれ唇が下りてきた。優しく食みながら味わうようにされれば、自然と笑みが浮かぶ。
「アルフォンス……」
いつもより幾分甘く、そして真摯に名を呼ばれた。何かを伝えるための前触れなのだと、俺は少しだけ身構える。
「君のことが大切だ」
「レオン……」
「それなのに……俺はアルを危険に晒す。それでも、近くにいてほしい……アルを手放せない」
コツリ。額と額を合わせ、息がかかる距離。近すぎて、レオンの表情はぼやけて見えない。
「いくらでも俺を理由にしていいから。つらいことも苦しいことも、俺のせいにしていい。でも、必ず生きて」
「あ……」
「俺を欲しがって……全部あげるから。そばにいて」
身を差し出すことを厭わない俺に、レオンを求めればいいと言う。まるで俺が空虚になることを恐れているような、そんな言い方だ。もしも空いた隙間をレオンで埋め尽くすことができるなら、どうなってしまうだろう。そんなありもしないことを考えるなんて、どうかしている。
今でも充分甘やかされていると思うが、これ以上レオンを欲しがったら、彼なしでは生きていられなくなってしまうんじゃないか。それが少し怖いような気もして、無意識に自分の中で気づかぬふりをしている部分があった。
「アルが言ったんだ、『一緒に』幸せになろうって。君が瞳を閉じる瞬間まで、共にいるよ」
俺はその言葉に瞠目し、合わせていた額から少し離れてレオンを凝視した。
例え俺がいなくなったとしてもレオンは一人で生きていける。悲しみや絶望を抱えても、それでも立っているだろう。
けれどレオンがいなくなったら、おそらく俺の足元は崩れる。過ぎ去る時間に身を任せ、空の器になった俺に、色褪せたこの世界で生きることは無意味だ。
だから、一瞬でいい。レオンが姿を消すのなら、どうか俺が瞳を閉じた後に。
「んっ、レオンが……ほしい」
ああ、認めたくなかった。
俺の中に育ってしまった、こんなにも大きな存在を。知ってしまった温もりも、この腕も、もう離せないんだ。欲しがるだなんて、そんなきれいな言葉じゃ足りない。きっと、もっと、醜くて伝えられない激情だ。
そんな俺でもいいとあなたが望むなら、『幸せ』を探すのも悪くない。
俺はレオンの口内へ舌を押し入れた。熱いものを求め舌先で触れる。中でぬちぬち動かしていると、圧倒的な力強さで舌を絡め取られた。
「んんぅ、っ」
引き抜かれそうになって慌てて戻ろうとしたら、余計に強く吸われた。知られている弱い場所を嬲られ、ふるりっと身体が快感を拾う。くちゅくちゅ水音が耳に届けば余計に煽られた。
飲み下せない唾液が口角から垂れ落ち、首筋を伝う。レオンから解放されると熟れた息が漏れ、口元にちゅうっと吸い付かれてから舌先が溢れた唾液の跡を辿った。
首筋の柔らかい場所に赤い跡を残し下方へ向かうが、鎖骨のくぼみを舐められた。くすぐったくて肩を上げると、浮いた骨を噛まれた。
「………つ、っ」
痛みにぎゅっときつく瞼を閉じる。それさえレオンから与えられたものだと思えば喜びに変わった。
笑っている気がして閉じていた目を開けてみれば、やはり碧眼は細められていた。レオンの思う通りの反応をしてしまったのだと知り、少しだけおもしろくない。何か意趣返しできないものか考えても妙案なんて浮かばず、俺はレオンの首に腕を巻きつけた。
「レオン……」
身体の中を埋めてほしい。すべて奪ってほしくて、今はどうなってもいいからレオンに貪ぼられたかった。
レオンを失うかもしれない恐怖と、自分自身を投げ出してもいいと思えた切迫感。そして自覚したレオンへの深い恋情と、与えられたこの先の約束。感情がぐちゃぐちゃになる。
受け止めきれずに興奮している身体は、レオンを求めた。
ゆっくりベッドへ横たえられ、真上からとろりと蕩けた瞳で見つめられる。顔中にキスが降り、唇は寛げた胸へと触れる先を移動していった。
幾度も肌を強く吸われては朱印が付けられる。執拗にその行為は続けられ、チクリとする感覚がそこかしこへ散っていた。
いつも以上に優しく扱われ、胸への愛撫も丹念に施された。かえって刺激が弱くもどかしい。何度もレオンに愛されているうち、身体はすっかり作り変えられてしまったようだ。
焦れったさに腰が揺れ、もっと酷くしてほしいような、直接的な刺激を求めてしまう。淫らに強請る俺の様子に、レオンが仕方ないとばかりに小さく笑った。
「一回だけしようか」
それは濃厚な情事からすると、とても足りない回数だ。互いを求め何度も吐精しぐちゃぐちゃになり、俺は意識を保てないこともあるというのに。
一回という制約で、熱くなっている身体の欲が満たされるのかと疑問に思ってしまう。
すると俺の身体は横向きに変えられた。何をするのかわからず身を任せていると、背後から腕が回った。それから俺の太腿の隙間へ、レオンの猛った肉棒が突き入れられた。
「っひ……っ!」
ぬぽぬぽ出し挿れされているうちに、互いの先走った体液で徐々に動きは加速していく。隙間からレオンの雄が突き出るたび、俺の陰茎にも刺激が与えられた。
普段とは違う昂り方と裏筋の誘引に、快感が広がった。
「んっ、これっ、いつもと……ちがっ、あっ」
「気持ちいい?」
「ぅんっ、きもちぃ」
身体の負担を考えてくれてのことなのか、挿入することなく昂められる。初めての行為は淫猥でまた違った体感になった。
太腿を擦る熱さや感覚、突かれて擦れるという陰茎への刺激。レオン自身で奥孔を埋められるときは全然違う。それなのにもたらす快感はたまらない。
「レオ、んっ、……っ」
これだとキスができない。背後から抱き込まれるような体勢で難しい。顔が遠くて近くに寄ることはできなかった。いつもは塞がれるために、くぐもって漏れない喘ぎ声も、ひたすら俺の口から溢れていく。
手の甲で塞ごうとしたがうまくいかず、ひっきりなしに甘ったるい声が続いた。ゆさゆさ揺られるたびに、張りつめた先端からも蜜が伝い落ちる。
「あっ、もうでる……っ」
「イっても、いいよ?」
「ふっぁ、ァ……っうん……っ!」
前に回された手の扱く速度をあげ、達くことを促された。耳元から聞こえるレオンの息も荒くなり、共に白濁の液を吐き出す。俺の腹や足に二人分の精液を撒くことになり、青臭さと欲の熱量が漂った。
互いの整わない息が交差する中、俺は背後へ身をよじり、最中にしてもらえなかった口付けを強請る。
「ん、っ」
舌を絡ませ何度も吸い付いた。それでもまだ足りなくて、手を伸ばし縋って引き寄せ、いつの間にか寝落ちるまでレオンの存在を貪った。
他のことは何も考えられなかった。レオンだけに満たされたとき、ここにいればいいと、ただそれだけしか思えなくて──
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