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陥落したその後の話
15.対策
しおりを挟む俺が眠り続けている間に、魔術紋を体内へ忍ばせた敵対者──件の騒動を踏まえ、隣国との検閲所にそういった魔術紋を感知する仕組みが推進された。攻撃性のある危険因子侵入を防ぐことが目的だ。
事の経緯と俺の特異性を把握しているカミルが、数名の魔術師と共に展開する魔術構築担当にあたってくれた。秘匿しなくてはならない事項を伏せながら作業を分担するためには必然である。
アレクシス王太子殿下や俺の魔力性質については、まだ解明できていない点が多々あるらしい。が、そもそも存在自体の重要性からして、公にされることはないだろう。騒動に関わった騎士団の者たちには箝口令が敷かれているし、単に俺が膨大な魔力で対処したと思われているかもしれない。
とはいえ、同様の手口がいつ起きるかわからない。懸念を払拭するためにも、早急に対策を講じる必要があった。
カミルは思うところがあるようで、担当者たちと連帯して数日のうちに仕上げてみせると躍起になっていたそうだ。その結果、『三徹で頭の中身が出てきそう……』と弱音を漏らしつつ、研究室に詰めていると聞いた。それを耳にした俺は邸の料理人に頼み、片手でも食べられる軽食や甘い焼き菓子の差し入れを頼んだ。
感知する魔術が完成したと報告を受けたのは、つい先程のこと。携わってくれた魔術師たちが屍のようにそこかしこで寝ている惨状らしい。
その後、俺の体力も無事に回復した。溜まっているであろう雑務と予定の確認をするため、騎士団本部へ顔を出すことに。明日からは通常の職務にあたるつもりだ。
事務室へ入るとフェリクス第二騎士団長とコンラート第三師団長の姿。俺の顔を見て、フェリクス第二騎士団長が笑顔で迎えてくれた。人のことをとやかく言えないが、コンラート隊長は相変わらず表情が乏しい。いつもより眉尻が動いているかもしれないが、気づかない程度だ。
「アルフォンス、ご苦労だったな。体調はもういいのか?」
「はい、ご心配おかけしました」
あの場にいたフェリクス第二騎士団長は経緯を目にしている。何が起き、どういったことがなされたのか、おそらく詳細もレオンから聞いているだろう。騎士団に入団してからずっと俺を気にかけてくれている人だ。殊更心配をかけたに違いない。
「無理はするなよ。また飯でも食いにいこう」
「ありがとうございます」
一回り以上年上で面倒見の良いフェリクス団長に、兄のような親しみを覚えている。もちろん騎士団内の規律を乱すつもりはないから馴れ馴れしくしようとは思わない。ただ辺境への相談をできるくらいには、信頼関係を築けているのではないか。
すると珍しくコンラート隊長からも声がかかった。
「アルフォンス……悪かったな、探るような真似をして」
「いえ、魔力のことは自認していなかったことですから」
「アレクシス王太子殿下はああいう方だが、先見の明がおありだ。この国は更に栄えるだろう。そうなれば稀有なお前の存在が知られ、狙われる可能性はある。油断しないことだ」
「はい、心得ております」
コンラート隊長は何を考えているのか伝わりにくいと思っていたが、話してみれば嫌われていたわけではないと知れた。言葉少なであること、あまり動かない表情のせいなのだろう。もう少し感情豊かに話せば……いや、俺の乏しい表情も似たようなものかもしれない。
ぶっきらぼうな物言いではあっても、どうやら心配されているらしいのだ。横からフェリクス団長に『コンラートなりに案じてる』とこっそり教えられた。
(これから、か……)
周辺国へ魔力の特異性を知られてしまうと、俺を標的とした侵入者が増える可能性はある。捕えて連れ帰れば、いかようにも利用できるのだ。最悪の事態を想定するに、俺がこの国の脅威となる可能性も大いに有り得る。もちろんそうなった場合、俺は、俺の手で決するつもりではあるが。そうならないためにも改めて自分の立場を認識した。
その懸念もあり、今後は魔術師団の魔術回路開発にも少なからず関わることになった。代わりがいないからこそうまく開発が進めば、ひいては自分を守ることにも繋がる。
今日はゆっくり休めと労いの言葉をもらい、俺はいくつか書類を片付け数日分の予定を確認してから騎士団の事務室を出た。
件の騒動は騎士団全体にも警戒を強めなければならない情報として伝えられたようだ。もちろん詳細は省いているだろうが、騎士団本部はどことなく落ち着きのない緊張感が漂っていた。
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