恋色模様

文字の大きさ
4 / 17
恋情模様

しおりを挟む
「はいはい~もうコイツ飲めないから、勘弁してやってな」

 赤堀と同じ部署の野白だ。来たときもそうだったが、やたら二人は仲が良い。自然と隣りにいることが多いようにも思うし、赤堀がよく懐いていると見えなくもないが、友人なのかそれ以上の関係なのかは測りかねた。

 クイッと赤堀のことを引き寄せ、絡みついていた腕を外させた。それからぐだぐだと力の抜けている本体ごと、ほらしっかりしろと声を掛けながら抱える。
 俺がやろうとしていた役回りを目の前で奪われてしまい、たが何もできなかった自分が情けなくも感じて苛立った。そうしているうちにこちらの方へやってきて、ちょっとココ使うなーと俺の隣の空いている角席へ赤堀を連れてきた。

「少し寝かせてやって。酒は一杯にしとけって言ってるんだけどさ、今日は周りに飲まされちゃったかなあ」

「……そうみたいだな」

「はー、俺も座っていい?そっち詰めてよ」

 野白は座布団で枕を作り壁際へ赤堀を寝かせるとそばへ座るのではなく、何故か俺を詰めさせ反対側へ腰を下ろした。

「そんな警戒しないで。別に赤堀へ手を出すつもりないし、同じ部署だから仲いいだけだし」

 すいませーん、ビールふたつくださーい。
 どういう意味で言ってきたのかわからず、警戒するなと言われてその通りにするつもりはなかった。
 これは牽制か。それとも他意があるのか真意を掴みかねる。そもそも俺に対して内心まで踏み込んでくる奴は珍しい。対外的に着けた優踏生の仮面には騙されなかったらしい。飄々として無害そうに見えるが、油断ならない奴だ。

「えーっと。俺さ、結婚する予定の彼女いるから」

 ほら、と言ってスマホの画面に彼女だという女性とのツーショット写真を出してきた。どうやらこれで信じろということらしい。真偽はわからないが野白の言うことを疑うつもりはなかった。人の本質を見極めることは得意だ。その俺の本能めいたものががコイツは問題ないと判断している。
 ただ友人であることがわかっても、それとは別の勝手に湧く感情はどうにもならなかった。

「それで?」

「ははっ、ちゃんとしてくれた?」

「何が言いたい……」

 届いたビールふたつのうちひとつを俺に渡し、じゃ俺たちの友情にかんぱーい、と勝手にジョッキを鳴らした。こちらを見ている目が意味ありげで、だが不思議とすんなり受け止められた。

「俺の勘がさ、お前とは長い付き合いになるって言ってるわけよ。それだけ」

「なるほど」

 お前すげー睨んでたよ。こえーよ。友人としてはいいけどどこがいいんだか俺にはわからん。赤堀の趣味悪いな。

 まあわからなくはない。言語化できない感覚的なものは、本人にしか理解できない範囲だろうから。野白の感じたものと似たような感覚が俺にもあるわけだから、互いに認める存在でありつつもどうやら同族嫌悪で無意識に警戒しているのかもしれない。

「コイツ…赤堀は何ていうか…弟みたいな?すげえ無邪気なんだよ。大人なのに」

「そうか…」

 よく笑うとは思っていたが話したことすらない。どういう性格なのか、好むものや他の何一つとして知らないのにその話に納得した。

「何回か飲んだりしてんだけど、酒弱いくせに自覚してなくてさ。絡むんだわ、その辺のヤツに。しかも、普段はぼやっとしてるクセに、なんてーか、あー…妙に艶っぽくなる?みたいで。危ねえの」

「は?」

 もちろんそれを聞いて俺は詳細を訊ねた。
 どうやら一杯で済めばほろ酔い程度で記憶もしっかりしているし応答も問題ないらしい。ところがそれ以上酒が進むと酩酊状態になり、会話が成り立たなくなる上、無意識に人肌を求めてしまうのか近くの人物へ絡むようだ。

 酔っ払っている様を面白おかしく見ているうちはいいのだが、邪な目で見る奴らにはそう映らない。隙を見て思うように誘導してしまえば、好き勝手してしまえるのだ。

「目を離せないのか……こういう同期会なら俺も出れるが、職場内や友達となるとそうもな…」

「気分はもう赤堀の兄貴だからさ。アイツが同意もなくどうこうされるのは嫌なわけよ。で、俺一人じゃ限度もあるし協力してくんない?」

 こうして、野白とは同盟関係を築くことになった。俺からすると赤堀から妙な連中の目を遮るという野白の存在は有難いが、逆にどういったメリットを求められているのか謎だった。何かがなければ無益なことはしないはずだ。腹の中のことは言わないかもしれないと思いながらそこを指摘すると『そのうち返ってくる恩恵の先行投資かなあ』という曖昧でいておそらく、何倍にもして絞り取られるであろう厭な言い方だった。
『お前でも赤堀を泣かせたら許さんからな』という念押しはされた。

 実際俺が野白に協力する事態が起きるのは数年後のことになると、このとき思ってもいなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

酔った俺は、美味しく頂かれてました

雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……? 両片思い(?)の男子大学生達の夜。 2話完結の短編です。 長いので2話にわけました。 他サイトにも掲載しています。

俺より俺の感情が分かる後輩は、俺の理解を求めない

nano ひにゃ
BL
大嫌いだと思わず言ってしまった相手は、職場の後輩。隠さない好意を受け止めきれなくて、思い切り突き放す様なことを言った。嫌われてしまえば、それで良かったのに。嫌いな職場の人間になれば、これ以上心をかき乱されることも無くなると思ったのに。 小説になろうにも掲載しています。

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

【本編完結】おもてなしに性接待はアリですか?

チョロケロ
BL
旅人など滅多に来ない超ド田舎な村にモンスターが現れた。慌てふためいた村民たちはギルドに依頼し冒険者を手配した。数日後、村にやって来た冒険者があまりにも男前なので度肝を抜かれる村民たち。 モンスターを討伐するには数日かかるらしい。それまで冒険者はこの村に滞在してくれる。 こんなド田舎な村にわざわざ来てくれた冒険者に感謝し、おもてなしがしたいと思った村民たち。 ワシらに出来ることはなにかないだろうか? と考えた。そこで村民たちは、性接待を思い付いたのだ!性接待を行うのは、村で唯一の若者、ネリル。本当は若いおなごの方がよいのかもしれんが、まあ仕方ないな。などと思いながらすぐに実行に移す。はたして冒険者は村民渾身の性接待を喜んでくれるのだろうか? ※不定期更新です。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。 ※よろしくお願いします。

ワンナイトした男がハイスペ弁護士だったので付き合ってみることにした

おもちDX
BL
弁護士なのに未成年とシちゃった……!?と焦りつつ好きになったので突き進む攻めと、嘘をついて付き合ってみたら本気になっちゃってこじれる受けのお話。 初めてワンナイトした相手に即落ちした純情男 × 誰とも深い関係にならない遊び人の大学生

【完結】幼なじみが気になって仕方がないけど、この想いは墓まで持っていきます。

大竹あやめ
BL
自身に隠した想いと過去の秘密……これはずっと表に出すことは無いと思っていたのに……。 高校最後の夏休み、悠は幼なじみの清盛と友人の藤本と受験勉強に追われながらも、充実した生活を送っていた。 この想いはずっと隠していかなきゃ……悠はそう思っていたが、環境が変わってそうもいかなくなってきて──。 スピンオフ、坂田博美編も掲載した短編集です。 この作品は、ムーンライトノベルズ、fujossy(fujossyのみタイトルは【我儘の告白】)にも掲載しています。

アズ同盟

未瑠
BL
 事故のため入学が遅れた榊漣が見たのは、透き通る美貌の水瀬和珠だった。  一目惚れした漣はさっそくアタックを開始するが、アズに惚れているのは漣だけではなかった。  アズの側にいるためにはアズ同盟に入らないといけないと連れて行かれたカラオケBOXには、アズが居て  ……いや、お前は誰だ?  やはりアズに一目惚れした同級生の藤原朔に、幼馴染の水野奨まで留学から帰ってきて、アズの周りはスパダリの大渋滞。一方アズは自分への好意へは無頓着で、それにはある理由が……。  アズ同盟を結んだ彼らの恋の行方は?

溺愛じゃおさまらない

すずかけあおい
BL
上司の陽介と付き合っている誠也。 どろどろに愛されているけれど―――。 〔攻め〕市川 陽介(いちかわ ようすけ)34歳 〔受け〕大野 誠也(おおの せいや)26歳

処理中です...