恋色模様

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恋情模様

「はいはい~もうコイツ飲めないから、勘弁してやってな」

 赤堀と同じ部署の野白だ。来たときもそうだったが、やたら二人は仲が良い。自然と隣りにいることが多いようにも思うし、赤堀がよく懐いていると見えなくもないが、友人なのかそれ以上の関係なのかは測りかねた。

 クイッと赤堀のことを引き寄せ、絡みついていた腕を外させた。それからぐだぐだと力の抜けている本体ごと、ほらしっかりしろと声を掛けながら抱える。
 俺がやろうとしていた役回りを目の前で奪われてしまい、たが何もできなかった自分が情けなくも感じて苛立った。そうしているうちにこちらの方へやってきて、ちょっとココ使うなーと俺の隣の空いている角席へ赤堀を連れてきた。

「少し寝かせてやって。酒は一杯にしとけって言ってるんだけどさ、今日は周りに飲まされちゃったかなあ」

「……そうみたいだな」

「はー、俺も座っていい?そっち詰めてよ」

 野白は座布団で枕を作り壁際へ赤堀を寝かせるとそばへ座るのではなく、何故か俺を詰めさせ反対側へ腰を下ろした。

「そんな警戒しないで。別に赤堀へ手を出すつもりないし、同じ部署だから仲いいだけだし」

 すいませーん、ビールふたつくださーい。
 どういう意味で言ってきたのかわからず、警戒するなと言われてその通りにするつもりはなかった。
 これは牽制か。それとも他意があるのか真意を掴みかねる。そもそも俺に対して内心まで踏み込んでくる奴は珍しい。対外的に着けた優踏生の仮面には騙されなかったらしい。飄々として無害そうに見えるが、油断ならない奴だ。

「えーっと。俺さ、結婚する予定の彼女いるから」

 ほら、と言ってスマホの画面に彼女だという女性とのツーショット写真を出してきた。どうやらこれで信じろということらしい。真偽はわからないが野白の言うことを疑うつもりはなかった。人の本質を見極めることは得意だ。その俺の本能めいたものががコイツは問題ないと判断している。
 ただ友人であることがわかっても、それとは別の勝手に湧く感情はどうにもならなかった。

「それで?」

「ははっ、ちゃんとしてくれた?」

「何が言いたい……」

 届いたビールふたつのうちひとつを俺に渡し、じゃ俺たちの友情にかんぱーい、と勝手にジョッキを鳴らした。こちらを見ている目が意味ありげで、だが不思議とすんなり受け止められた。

「俺の勘がさ、お前とは長い付き合いになるって言ってるわけよ。それだけ」

「なるほど」

 お前すげー睨んでたよ。こえーよ。友人としてはいいけどどこがいいんだか俺にはわからん。赤堀の趣味悪いな。

 まあわからなくはない。言語化できない感覚的なものは、本人にしか理解できない範囲だろうから。野白の感じたものと似たような感覚が俺にもあるわけだから、互いに認める存在でありつつもどうやら同族嫌悪で無意識に警戒しているのかもしれない。

「コイツ…赤堀は何ていうか…弟みたいな?すげえ無邪気なんだよ。大人なのに」

「そうか…」

 よく笑うとは思っていたが話したことすらない。どういう性格なのか、好むものや他の何一つとして知らないのにその話に納得した。

「何回か飲んだりしてんだけど、酒弱いくせに自覚してなくてさ。絡むんだわ、その辺のヤツに。しかも、普段はぼやっとしてるクセに、なんてーか、あー…妙に艶っぽくなる?みたいで。危ねえの」

「は?」

 もちろんそれを聞いて俺は詳細を訊ねた。
 どうやら一杯で済めばほろ酔い程度で記憶もしっかりしているし応答も問題ないらしい。ところがそれ以上酒が進むと酩酊状態になり、会話が成り立たなくなる上、無意識に人肌を求めてしまうのか近くの人物へ絡むようだ。

 酔っ払っている様を面白おかしく見ているうちはいいのだが、邪な目で見る奴らにはそう映らない。隙を見て思うように誘導してしまえば、好き勝手してしまえるのだ。

「目を離せないのか……こういう同期会なら俺も出れるが、職場内や友達となるとそうもな…」

「気分はもう赤堀の兄貴だからさ。アイツが同意もなくどうこうされるのは嫌なわけよ。で、俺一人じゃ限度もあるし協力してくんない?」

 こうして、野白とは同盟関係を築くことになった。俺からすると赤堀から妙な連中の目を遮るという野白の存在は有難いが、逆にどういったメリットを求められているのか謎だった。何かがなければ無益なことはしないはずだ。腹の中のことは言わないかもしれないと思いながらそこを指摘すると『そのうち返ってくる恩恵の先行投資かなあ』という曖昧でいておそらく、何倍にもして絞り取られるであろう厭な言い方だった。
『お前でも赤堀を泣かせたら許さんからな』という念押しはされた。

 実際俺が野白に協力する事態が起きるのは数年後のことになると、このとき思ってもいなかった。



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