恋色模様

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+野白

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 俺、野白侑麻のじろゆうまは今年から社会人になった。同期の連中とはまとめ役の人間がいたお陰で、比較的早く連帯感もできている。
 中でも同じ部署へ配属となった赤堀夏月あかぼりなつきは俺と真逆のタイプなのに波長が合うのか、話もよくするし気が楽な存在だった。ああ少しだけ賑やかなタイプといえば似ているのかもしれない。自然と一緒に飯を食う回数も増えていったし、そんで何故か懐かれた。

 で。基本的に平和に過ごせる方が好きだ。当たり前だけど。わざわざ物事を荒立てる趣味もなければ俺自身関わらずに済むならそれに越したことはないのだが。どうにも生まれ持った性質ゆえ長男という立場で育ったせいなのか、聞き役だったり仲裁という面倒くさい役回りがやってくる。

 まあいいよ、係の長だとか代表だとか名前が付くものはやりゃいいんだ。ちょっとした手間が掛かるだけだ。言われたことさえやっとけば終わるんだから。
 だけどよ、他人の感情と感情の問題は本人同士で解決してくれって言いたい。俺関係ある?ないよね?お前が言ったからこうなったとか詰め寄られても責任取れないから。聞いてくれって話は聞いてやるさ。聞くだけな。
 だけど、どうしたらいいかって話はこうかもしれないあーかもしれないって憶測でしか言えないし、いわゆるアドバイスじゃなくて案なら言ってやれるよ?こういうのはどうだ、みたいなやつ。選ぶか選ばないかはあなた次第。そう、決めるのは最終的に本人だからな。喧嘩だろうと仕事だろうと恋愛だろうと。

 それでさ、聞くことは聞くけど。ちょっと飽きたかもしれない……あ、いや、ごめん。ちゃんと聞いてる、聞いてますって。

「そーれーでぇ、ねえ、聞いてる?」

 隣の席に人いるからって話しかけるな。その人他人な。むやみに絡んだらダメ。
 あ、すいません。コイツ酔っ払ってて~適当に笑ってさり気なく引き剥がす。赤堀一人で飲ませたら絶対ダメなタイプ。どうやら学生時代に呑んでこなかったらしく、社会人デビューがアルコールデビュー。そりゃ飲むんじゃなくて呑まれるわな。ついでにお前は簡単に喰われるぞ。

「ほら、こっち飲め。もう酒はおしまいな!飲むんじゃねぇ」

「えー、やらよぉ」

「はいはい、それ寄越せ。こっちの方がうまいぞ?」

「そうなん?じゃ、それのむー」

 ああ、面倒な同期に懐かれてしまった。別に嫌だとは思っていない。面倒といっても嫌悪の面倒じゃなくて、心配が耐えないというか。親心的な?違うか、兄目線みたいな、やつなんだろう。
 もう放り出すことはできないし、仕方なく……うーん、面倒見てやるしかないよなあ。どこまでだよ。

「聞いてるー?あのねぇ、青山が、えっとー……、何だっけ」

「うん、荷物持ってくれた話だろ?」

「そおそお!落ちそうで、落ちそうな、落ちてぇ……んー、」

「助けてくれて?」

「うん、かっこ、よかったなぁ…」

 思い出しているみたいで、赤堀はふふふっと笑っていた。その無邪気な笑い方があまりにも嬉しそうで無防備で、こんな擦れてない大人なかなかいねえよなって思った。

 本人に隠すつもりがあったのかなかったのか知らないが、同期の青山宗士あおやまそうしを見ているときの赤堀は目がキラキラしていた。それは恋愛とかいうものとも違うような、そう、例えるなら好き光線でも放っているような。うーん、最初は憧れとか尊敬みたいなものでLOVEじゃなくてLIKEだと思ったんだけどなあ。

 それがいつの間にか、おやおや?と思ったときにはもうそれただの好きじゃないよなって気付いたわけだ。別に偏見もないしだから何ってわけでなく事実確認みたいな軽い気持ちで『お前、青山のこと好きだろ』って訊いたら赤くなって動揺してた。
 何で知ってるんだ青山にまでバレたらどうしようって言うから、俺からするとわかりやすいだけでたぶん大丈夫だろたぶん、って答えてやった。
 でもきっと青山は気付いているんじゃなかろうか。アイツ自分に無頓着じゃないし、たぶん気のせいじゃなく俺敵視されてないか?赤堀といつもいるのは不可抗力だぞ。コイツ一人にしたら結果はどうなるか明らかだ。

 両想いじゃね?ってはっきり気付いたのは同期で集まったときだ。
 ある程度こなれてくると席の移動が始まる。赤堀のことは気にしつつも、俺だって万能じゃないしいろんな奴らと話をしていれば疎かになるわけだ。気付いたら大分飲まされてへろへれになっていた。ああそろそろ救出しとかないと。

「はいはい~もうコイツ飲めないから、勘弁してやってな」

 クイッと赤堀のことを引き寄せ、絡みついていた腕を外させた。それからぐだぐだと力の抜けている本体ごと、ほらしっかりしろと声を掛けながら抱える。

 これ、しょうがなくね?やっぱり青山が俺を睨んでる。たぶん睨んでる。見てるだけにも思えるけど、ちょっとその目の奥にあるご立腹なの消してもらえませんかね。そっち連れて行くからさ、勘弁してくれ。

「ちょっとココ使うなー」

 青山の隣に空いている角席があったから、そこへ赤堀を連れていった。

「少し寝かせてやって。酒は一杯にしとけって言ってるんだけどさ、今日は周りに飲まされちゃったかなあ」

「……そうみたいだな」

「はー、俺も座っていい?そっち詰めてよ」

 座布団で枕を作り壁際へ赤堀を寝かせてやる。その隣に青山、少し詰めてもらって俺はその隣に腰を下ろした。あー、これでいいだろ?そんな訝しんで見ないでくれよ。

「警戒しないでよ。別に赤堀へ手を出すつもりないし、同じ部署だから仲いいだけだし」

 すいませーん、ビールふたつくださーい。って新しいの頼んだ。せっかくなら冷たい方がいい。酒でも酌み交わそうぜ。だからその警戒心取っ払ってくれ。

「えーっと。俺さ、結婚する予定の彼女いるから」

「それで?」

 おっ?いい感じの反応だな。懐とまではいかないが、せめて許容範囲まで入れてくんねえかなあ。

「ははっ、ちゃんと認定してくれた?」

「何が言いたい……」

 届いたビールふたつのうちひとつを青山に渡し、じゃ俺たちの友情にかんぱーい、と勝手にジョッキを鳴らした。
 うん、まあコイツたぶんこれまで色々あったんだろうなって想像はつくよ。見目いいし能力だって優秀だろうし、勝手に寄ってくるだろうからなあ。俺もそのうちの一人だと思われても仕方ない。まあ密を吸うつもりなんて元々ないから、さっさと手の内を明かしてやった。

「俺の勘がさ、お前とは長い付き合いになるって言ってるわけよ。それだけ」

「なるほど」

 あ、納得してくれた?ちょっと警戒心解いてくれたみたいだな。友人としてはいいけどこんな面倒そうな奴どこがいいんだか俺にはわからん。大変だと思うよ、たぶん。赤堀の趣味悪いな。いや、本人には言えないけど。

「コイツ…赤堀は何ていうか…弟みたいな?すげえ無邪気なんだよ。何回か飲んだりしてんだけど、酒弱いくせに自覚してなくてさ。絡むんだわ、その辺のヤツに。しかも、普段はぼやっとしてるクセに、なんてーか、あー…妙に艶っぽくなる?みたいで。危ねえの」

「は?」

 あ、やっぱ不機嫌になった。うんうん、青山くんまだまだ青いね、青山だけに。なんていうオヤジギャグを内心で思いながら、これまで俺がそれとなく見守ってきた様子を聞かせてやった。

「こういう同期会なら俺も出れるが、職場内や友達となるとそうもな…」

「気分はもう赤堀の兄貴だからさ。アイツが同意もなくどうこうされるのは嫌なわけよ。で、俺一人じゃ限度もあるし協力してくんない?」

 返ってきたのはもちろん『是』だ。こうして青山と、赤堀をこっそり見守る会を発足することになった。会員二名。少数精鋭、増える予定なし。

 お前に何のメリットがあるんだと問われ、『恩恵の先行投資かなあ』と返しておいた。縁というものはどこに落ちているかわからない。特にこういう人間とは繋がりと信用が大事だ。うん。さっさとこちらに裏がないことを見せておく必要がある。まあたぶん腐れ縁みたいな関係になるだろう。

 ああ、そうだ。ひとつだけ念押しとかないと。

「お前でも赤堀を泣かせたら許さんからな」

「当たり前だ」

 そうだろうけどよ、未来なんて誰にもわからない。二人が上手くいこうと例え離れようと、それは本人たちが決めたことなら仕方がないことだ。ただ不誠実なことはするなよ、という意味で青山にはちゃんと向き合うことを誓わせた。



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