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その後の二人
その後4
チェックインのときに『お好きな柄をお選びいただけます』という浴衣のレンタルサービスで青山が二人分選んでくれた。俺にはセンスもなければ特にこだわりもないからお任せだ。
白地に『ぬ』って書いてある柄と、紺地に馬の絵が描いてあるやつだった。へー。よくわからないけど、和柄って縦縞横縞みたいのだけじゃなくてこういう字もあるのか。やはり俺が選ばなくてよかったかもしれない。無難な無地とか縞模様になってただろうな。こういうところへ来たとき普段着ない柄を選ぶあたり、青山はセンスもあるのだろう。
うーん、今のところ俺に対して無言だよ。まだ怒ってるのかな。えー。
フロントでの説明はすべて終わり、特に案内はないようで自分たちで部屋へ歩いて行く。受け取ったキーを持ってエレベータに乗った。
俺たちが泊まる部屋の名前は『イチョウ』だ。どうやら木の名前で揃えているらしい。ほー。
ガチャリとドアの施錠が解かれ入室する。あの独特な自分の部屋とは違う匂いで、泊まりに来たんだなと俺は思った。
荷物を置いてとりあえず部屋の配置というか、トイレや冷蔵庫やここ何入れ?みたいな確認を済ませた。
探検楽しいよな。知らないとこをあれこれ見て回るのが好きだった。
「夕飯の前に風呂済ませとく?飲んだら行きたくなくなるかもしれないし。今なら空いてると思う」
「あ、うん。そうする?」
ようやく話してくれた青山は、俺の返事に大浴場へ行く支度を始めた。俺もタオルを持って、それから二人分の浴衣も手にした。
「青山、これにする?」
俺がそう尋ねたら機嫌降下から浮上したはずが、また下がったらしい。何でだよー。もう。
「……名前…また戻ってる」
うえー!そこ!そんなに苗字呼びはダメなのか。もう名前呼ばないで話そうかな、本題から言うことにしよう。
「宗士」
「うん。こっち俺ね、夏月はこれ」
「サイズとかあんの?何で俺がこっち?」
「んー、まあ。こっちの方が似合うと思って」
「ふーん?」
俺は『ぬ』が書かれている方だと言われたから、素直にそれを持った。あと『ぬ』以外に輪も描かれていた。どういう柄なのかよくわからん。もう機嫌は直ったのか普通に話してくれるから、まあいいか。
早い時間だからなのか大浴場も混んでなくて、大きな湯船を満喫できた。こういうときは意識もせず気にもせず、お互いの裸体はどうということはない。
風呂から上がって自販機でビールと緑茶を買って、それから部屋へ戻った。
「ふはー、満足満足~」
「いい湯だったね」
「あんまよくわかんないんだけどさ、やわらかいって感じがしたかなー」
温泉のことは熱いか白いか程度の感想しかない俺でも、今日は入っていて肌がキュッとならない気がした。
それから部屋に運ばれた夕飯も豪華で、昼飯も海鮮食べったっけなーなんて思いながら刺身を食った。大したことじゃないからそれくらいのこと気にしない。旨いもんは旨いからいいのだ。
腹一杯になってビールも飲んでるせいでやはり眠たくはなってくる。膳を下げてもらい布団が敷かれれば、後はもうだらだらテレビを見たりスマホをいじったり、いつでも寝る準備は万端だ。
敷かれた布団の上で大の字になり、ふはあ~と少し熱くなっている息を吐いた。ちょっと酔ってるかなー。
瞬きすると瞼を持ち上げるのが億劫になって、ウトッと寝かけた。
室内灯の明かるさを遮られたような気がして瞼の裏が暗くなる。一瞬寝たのか、現実とそうではない意識のハザマでよくわからなくなった。
何だろうと思いながら目を開ければ、上から見下ろす青山の顔があった。ついでに顔の両側に手を突いている。ううーん、檻のように囲まれた。
「誰と比べて長いとかでかいとか言ってたの?見たの?ソイツとシたわけ?」
あれ、その話は終わったんじゃないのか。え、また復活すんの?直ったはずの機嫌……いや、機嫌が悪い感じはしないから、何か不満のご様子らしき青山に問いただされる。ひー。
別に深い意味はなくって、ちょっと口走ったというか勢いで言ったというかそれくらいのもんですけどね。あなたさんがよーくよおーくご存知だと思うんですが、俺の初めては捧げましたがなにか?未開通が開通されたんです。その後も誰とどうこうするようなタイミングなかったですね。知ってますよね?ねえ?
「いやいやいや、ないし!宗士が初めてだし、誰ともヤってないしっ。他の誰がどうとかこうとかいうんじゃなくて!何ていうかちょっとだけ、形が似てなくもないのかもしれないのかなーなんて、ね。あの段差で突いたら感じるのか感じないのか、気持ちよかったりしたりすんのかなとかさっ、思ったり思わなかったり考えたり考えなかったりっ…ね?」
やはり感情を向けられるとこっちも必死になるわけで、それが怒りとか不機嫌とかマイナス要素だと余計に焦るし、まとまらないまま声に出せば意味不明なことしか言えない。
ただ言いたいことはひとつだけある。
決して誰かに身体を開いたことはない。そこを疑われるのは業腹だ。
「じゃあ、…俺だけ?」
「そうそう。宗士だけ」
俺が答えると青山がとてつもなくイヤな顔でにやりと笑った。ええー、悪魔?ねえ、それ善人の顔じゃないって。
「よかった。ねえ、気になってることあるなら、実地で確認してみようか」
「はっ?え、はぅんっ……」
大の字になっていた俺は、どうぞご自由に。といわんばかりの無防備な体勢で青山へ献上することになった。
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