【完結】運命なんかに勝てるわけがない

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本編

6.運命⋯?


 発情期の予兆があるからこそ、前もってそれなりの準備ができる。要は引きこもりの準備だ。アルファに頼るならまだしも、一人で過ごすとなると数日分の食料を買い込まねばならない。
 記憶は曖昧になるというのに、それでも不思議と体は勝手に動いて、最低限の飲み食いくらいはできるのだ。ピーク時は意識が飛んでいても、しみついた日常生活の行動をとるらしい。人間って逞しい。欲望に忠実だ。
 だとしても、それだって本当に最低限の範囲である。

 意識が戻ったタイミングでどうにかシャワーを済ませ、ぐちゃぐちゃになった部屋の片付けを大雑把にしておく。そうやって数日間続く発情期を、俺はどうにかこうにかいつも乗り切っていた。

 ところが。今回は徐々に高まっていくはずの熱を、一ノ瀬によって一気に煽られたのだ。
 余裕なんてものはなくなっている。
 既に目の前のアルファが欲しくてたまらない。他のことなんかどうでもいい。早くナカへ挿れて、気持ちよくしてほしい。
 本能が、求める欲が、俺を支配していた。

「一ノ瀬っ、ぁ、早く」

 自分からしがみつくなんてあり得ない。あの一ノ瀬にだぞ? 色っぽい雰囲気になんてなるわけないのに、俺は一ノ瀬へ手を伸ばしていた。

「さすがに素直」

 俺の髪にかかる一ノ瀬の吐息がクスリと笑った。これは素直なんていうかわいらしい呼び方は適当じゃない。本能だし性欲だし、そういうのやめてくれ。

 タクシーから降り、抱きかかえるようして連れてこられた場所。どこにいるのか意識が向かない。確かめるのも億劫で、一ノ瀬に促されるまま足を動かす。

 解錠したドアをくぐると、そこかしこから一ノ瀬の匂いがした。ああ、そうか。ここは──

「ぁ⋯⋯へや」
「そう。俺の家」

 親しくはあっても、二人きりになったことがなかった。さすがにアルファの自室へ一人で行くほど、警戒心が皆無というわけじゃない。多人数なら外で集まるし、一ノ瀬の部屋で二人きりになるようなシチュエーションにもならなかった。
 すっとぼけているだの、鈍感だの言われている俺だが、世間一般でいうところの常識くらいは持ち合わせていた。

 引きずられるように運ばれた部屋。中へ入り、トサッとベッドの上へ転がされる。ぼんやりしている俺に了承を得ることなく、一ノ瀬はコトを進めていく。
 ヤツの唇が俺の額や頬へ口づけていった。触れられたところから灯るように熱くなる。そうやって意識を削がれているうちに、着ているものは器用に剥がされていた。

 晒した肌を一ノ瀬の手が撫で、ゆっくりと快感を与えられていく。意識のどこかで『なんで』とか『どうして』とは思うのに、体がちっともいうことを聞かない。

「んっ、ぁっ」

 こぼれるのは甘えた喘ぎだ。
 耳の付け根や鎖骨のあたりを強く吸われ、首の周りをしつこく愛撫されていく。
 なぜそこばかりなのかと思えば、声を注ぐようにして、一ノ瀬が低い声で願ってきた。

「これ外して?」

 コツン。
 爪の先でソレをつつく。

「やだやだ、とらない⋯⋯だめ」
「な、いい子だから」

 俺は子どものように、イヤイヤと首を振った。一ノ瀬が外せと言ったのは、チョーカーのことだ。アルファに噛まれないようオメガの首を守るもの。
 一ノ瀬とイタしてしまってから、急ごしらえで着けたもの。それまで散々うなじを晒してきたというのに、もしも万が一なんて起きたら──そう考えると呑気にしていられなかった。

 まだかろうじて意識が残っている俺に、自分の意思で外させようとしている。今ならそそのかせば外すだろうという魂胆なのだ。きっと。
 俺は発情期が始まりふにゃふにゃ状態。だというのに頑として頷こうとしない。頭の片隅で、これだけはダメだという譲れない決意があった。

「──二葉、外して? これはいらないよ?」

 なんだよ、その声は。聞いたことがない。
 一ノ瀬は指の腹で俺の目元をやさしくさすり、何度も何度も唇や瞼にキスをして甘やかして囁く。

 そんなに優しくなんてするなよ。
 まるで本当に俺のことが好きみたいじゃないか。違うだろ。そうじゃないだろ。

 わけがわからなくなり、俺はぐずぐず泣き出していた。涙腺が緩んだことで、本音までもがポロポロ零れてしまう。隠しておきたかったのに、みっともない。

「だって、だってさぁ。捨てられたくないじゃん」
「は? 何バカなこと言ってんだ?」

 呆れたような声で、一ノ瀬は間近な距離から視線を合わせてくる。

「運命なんだから、そんなことするわけないだろ」
「運、命⋯⋯?」

 何バカなこと言ってんだはこっちのセリフだ。いくらぼやぼやしているからって、誤魔化されるわけがないだろう。
 運命だぞ、運命。奇跡のような確率で出会えるかどうかなんだぞ。俺たちが? んなわけあるか!

「そう。俺たち運命だぞ?」

 ところが、嘘でも勢いでもなく、本当のことであるかのように一ノ瀬は真剣な顔で伝えてきた。

(⋯⋯は?)

 いやいやいや。俺はまったくそんなもの1ミリも感じたことがない。
 勘違いか? 思い込みか? 適当か?
 まさかそんな。一ノ瀬はアルファだ。いくらなんでも運命の相手を間違えるわけがない。
 もしも万が一、億が一。俺たちが運命だと仮定しよう。だとしたら、これだけ近くにいたというのに俺は運命の相手に気付かないポンコツということになる。もしくはとんでもない鈍感。
 ただでさえ差を感じている一ノ瀬と番うなんて、やっぱり無理。そして何より、何よりさぁ。

「運命、ならやっぱり嫌」
「は?」

 一ノ瀬の声がめちゃくちゃ怖い。
 地を這うような声って、こういうのだ。
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