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揺らぎのなかで、恋が芽吹く
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その日、朝から霧が出ていた。
森の奥は真っ白に煙り、どこか幻想的な風景に包まれていた。
私は小屋の前で摘み取ったハーブを編みながら、静かにその景色を眺めていた。
「……似合ってるな」
突然、背後からフェイの声がして、私はちょっとだけ驚いた。
「なにが?」
「……その編み物と、あんたの手元の仕草。落ち着いてて、静かで……見てると、変な気持ちになる」
「変な気持ちって?」
「……悪い意味じゃない」
フェイは、それだけを言って、もぞもぞと薪を積みに戻っていった。
私の中に残ったのは、言葉よりも――彼の“視線”の温度だった。
*
彼は、変わらない。
無駄な言葉は少なく、黙々と動き、必要なときだけ私の側に立つ。
それがフェイで、私にとってはとても安心できる“空気”だった。
でも、少しずつ何かが違ってきていた。
夜、焚き火を囲んで湯を飲むとき、彼の視線が長く私に留まるようになった。
「……何か、顔についてる?」
「いや」
「じゃあ、なに?」
「見てるだけ」
そんなふうに、時折、不意打ちのようにまっすぐな言葉を投げてくる。
私の胸が、思わずどきんと高鳴ってしまうのは、きっと気のせいではなかった。
*
ある日の夜。
月が明るくて、私は眠れずにいた。
寝台から抜け出し、小屋の外に出ると、フェイがひとり、星を見上げていた。
「起きてたの?」
「ああ。あんたの足音、いつもより軽いから」
「ふふ、よく聞いてるのね」
私は彼の隣に立った。
月明かりに照らされた横顔は、どこかいつもより柔らかく見えた。
「……揚羽」
「なに?」
「お前、ここに来る前、寂しかったのか?」
「どうして、そんなことを?」
「たぶん……俺と似てるから」
静かな声だった。
私は、少しだけ考えて、それから小さく頷いた。
「うん。寂しかったと思う。気づかないふりしてただけ」
「……今は?」
「今は……誰かと一緒にいるって、こういうことなんだなって、思ってる」
フェイは何も言わず、けれどその視線が優しくなったのがわかった。
「俺……お前のそばにいて、初めて落ち着いたんだ」
「……フェイ」
「最初は命令に従ってただけだった。でも、今は……違う」
彼の言葉が、まるで私の胸にそっと触れるようで、思わず手を握りしめた。
この人は、変わった。
私のそばにいて、変わってくれた。
そして、たぶん私も――
変わり始めている。
*
それは、まだ“恋”とは呼べなかったかもしれない。
でも、フェイが私を見つめる目の奥にあるものを、私はたしかに知っていた。
それがやさしくて、少しだけ痛くて――
とてもあたたかかった。
森の奥は真っ白に煙り、どこか幻想的な風景に包まれていた。
私は小屋の前で摘み取ったハーブを編みながら、静かにその景色を眺めていた。
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突然、背後からフェイの声がして、私はちょっとだけ驚いた。
「なにが?」
「……その編み物と、あんたの手元の仕草。落ち着いてて、静かで……見てると、変な気持ちになる」
「変な気持ちって?」
「……悪い意味じゃない」
フェイは、それだけを言って、もぞもぞと薪を積みに戻っていった。
私の中に残ったのは、言葉よりも――彼の“視線”の温度だった。
*
彼は、変わらない。
無駄な言葉は少なく、黙々と動き、必要なときだけ私の側に立つ。
それがフェイで、私にとってはとても安心できる“空気”だった。
でも、少しずつ何かが違ってきていた。
夜、焚き火を囲んで湯を飲むとき、彼の視線が長く私に留まるようになった。
「……何か、顔についてる?」
「いや」
「じゃあ、なに?」
「見てるだけ」
そんなふうに、時折、不意打ちのようにまっすぐな言葉を投げてくる。
私の胸が、思わずどきんと高鳴ってしまうのは、きっと気のせいではなかった。
*
ある日の夜。
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寝台から抜け出し、小屋の外に出ると、フェイがひとり、星を見上げていた。
「起きてたの?」
「ああ。あんたの足音、いつもより軽いから」
「ふふ、よく聞いてるのね」
私は彼の隣に立った。
月明かりに照らされた横顔は、どこかいつもより柔らかく見えた。
「……揚羽」
「なに?」
「お前、ここに来る前、寂しかったのか?」
「どうして、そんなことを?」
「たぶん……俺と似てるから」
静かな声だった。
私は、少しだけ考えて、それから小さく頷いた。
「うん。寂しかったと思う。気づかないふりしてただけ」
「……今は?」
「今は……誰かと一緒にいるって、こういうことなんだなって、思ってる」
フェイは何も言わず、けれどその視線が優しくなったのがわかった。
「俺……お前のそばにいて、初めて落ち着いたんだ」
「……フェイ」
「最初は命令に従ってただけだった。でも、今は……違う」
彼の言葉が、まるで私の胸にそっと触れるようで、思わず手を握りしめた。
この人は、変わった。
私のそばにいて、変わってくれた。
そして、たぶん私も――
変わり始めている。
*
それは、まだ“恋”とは呼べなかったかもしれない。
でも、フェイが私を見つめる目の奥にあるものを、私はたしかに知っていた。
それがやさしくて、少しだけ痛くて――
とてもあたたかかった。
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