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第57話 静寂の廃病院、そして呼び声
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――凛子さん、どこにいるの……。
胸の奥がざわつき、不安と焦りが押し寄せる。
皆で手分けして探し始めてから時間が経つけれど、まだ見つからない。太陽は雲に隠れ、昼間なのに薄暗く感じる。耳に入るのは、自分の呼吸と靴底が砂利を踏む音だけ。
「天音、無理はするなよ」
通信越しに紫苑さんの落ち着いた声。
「はい……でも、絶対に見つけます」
自分の声が震えているのを感じる。焦り、恐怖、守りたいという強い思いが交錯する。
そんな時、道端で見つけた古ぼけた看板が目に入った。
《〇〇総合病院》と、錆びついた文字がかすれている。
使われなくなって何年も経ったらしい。雑草が生い茂り、無人の建物がどっしりと構えている。
――何故か、この場所に引き寄せられる。
深呼吸をして、決めた。
「こちら天音です。廃病院のような建物を見つけました。中を確認します」
通信の向こうから、紫苑さんの声が強まる。
「待て、天音! 一人で入るな! 危険だ、すぐに戻れ!」
「天音ちゃん気をつけて。あそこは良くない予感がする……」
通信の中で千歳さんが優しく諭す。千歳さんの言葉に、緊張が高まる。
「ありがとうございます……でも、すみません……少しだけ」
つぶやくと、廃病院の錆びた鉄扉を押し開けた。
「天音、戻れ!」
紫苑さんの声が通信越しに何度も響く。
「無理です、紫苑さん。今、ここに凛子さんがいるかもしれません」
震える声で答えながら、慎重に足を進める。
足元のガラス片を踏まないように気をつけながら、闇の中を進む。
心臓が鳴り止まない。息を呑むたびに胸が苦しくなる。
通信は繋がったまま。紫苑さんたちの声が交互に聞こえる。
「天音、気をつけろ。何かあったらすぐ報告しろ」
「了解。見つけたらすぐ連絡します」
錆びた鉄の扉を押し開けると、埃っぽい空気と静寂が私を包んだ。
廊下の壁には剥がれかけたペンキと割れた蛍光灯。足音だけが響く。
「紫苑さん、廃病院に入りました。通信は繋いだまま行きます」
「……分かった、何かあったらすぐ連絡しろ」
紫苑さんの冷静な声が心強い。
ゆっくりと進みながら、まず病室を覗く。朽ちたベッド、散乱したシーツ。誰もいない。
「誰もいない……」
思わず呟く。凛子さんの面影はどこにもない。
「こっちにも、居ない……捜索範囲を広げる」
通信で煌さんが声を上げる。みんなが必死に探している。
次にナースステーションへ。割れた窓の向こうに夕暮れがぼんやり見える。
散らばるカルテ、空になった薬瓶。ここも静寂だけが支配していた。
「何か手掛かりが欲しいのに」
心の中で呟きながら、目を閉じる。凛子さんの穏やかな笑顔が浮かぶ。
診察室も同じだった。壊れた医療機器、埃をかぶった診察台。
ここに凛子さんがいるはずがないと分かっているけれど、探さずにはいられなかった。
通信からは仲間の焦りが伝わってくる。
「異常なし。捜索範囲を広げてる」
水輝さんの焦った声。
「わたし……どうしても見つけたい」
独り言のように呟くと、胸の痛みが増した。
そして、歩みを進めて辿り着いたのは手術室の重い扉。
深呼吸をして、手術室の扉に手をかける。
「凛子さん……ここにいますか?」
そっと扉を押し開けた。
そこには――
「⸺凛子さんっ!!!!」
胸の奥がざわつき、不安と焦りが押し寄せる。
皆で手分けして探し始めてから時間が経つけれど、まだ見つからない。太陽は雲に隠れ、昼間なのに薄暗く感じる。耳に入るのは、自分の呼吸と靴底が砂利を踏む音だけ。
「天音、無理はするなよ」
通信越しに紫苑さんの落ち着いた声。
「はい……でも、絶対に見つけます」
自分の声が震えているのを感じる。焦り、恐怖、守りたいという強い思いが交錯する。
そんな時、道端で見つけた古ぼけた看板が目に入った。
《〇〇総合病院》と、錆びついた文字がかすれている。
使われなくなって何年も経ったらしい。雑草が生い茂り、無人の建物がどっしりと構えている。
――何故か、この場所に引き寄せられる。
深呼吸をして、決めた。
「こちら天音です。廃病院のような建物を見つけました。中を確認します」
通信の向こうから、紫苑さんの声が強まる。
「待て、天音! 一人で入るな! 危険だ、すぐに戻れ!」
「天音ちゃん気をつけて。あそこは良くない予感がする……」
通信の中で千歳さんが優しく諭す。千歳さんの言葉に、緊張が高まる。
「ありがとうございます……でも、すみません……少しだけ」
つぶやくと、廃病院の錆びた鉄扉を押し開けた。
「天音、戻れ!」
紫苑さんの声が通信越しに何度も響く。
「無理です、紫苑さん。今、ここに凛子さんがいるかもしれません」
震える声で答えながら、慎重に足を進める。
足元のガラス片を踏まないように気をつけながら、闇の中を進む。
心臓が鳴り止まない。息を呑むたびに胸が苦しくなる。
通信は繋がったまま。紫苑さんたちの声が交互に聞こえる。
「天音、気をつけろ。何かあったらすぐ報告しろ」
「了解。見つけたらすぐ連絡します」
錆びた鉄の扉を押し開けると、埃っぽい空気と静寂が私を包んだ。
廊下の壁には剥がれかけたペンキと割れた蛍光灯。足音だけが響く。
「紫苑さん、廃病院に入りました。通信は繋いだまま行きます」
「……分かった、何かあったらすぐ連絡しろ」
紫苑さんの冷静な声が心強い。
ゆっくりと進みながら、まず病室を覗く。朽ちたベッド、散乱したシーツ。誰もいない。
「誰もいない……」
思わず呟く。凛子さんの面影はどこにもない。
「こっちにも、居ない……捜索範囲を広げる」
通信で煌さんが声を上げる。みんなが必死に探している。
次にナースステーションへ。割れた窓の向こうに夕暮れがぼんやり見える。
散らばるカルテ、空になった薬瓶。ここも静寂だけが支配していた。
「何か手掛かりが欲しいのに」
心の中で呟きながら、目を閉じる。凛子さんの穏やかな笑顔が浮かぶ。
診察室も同じだった。壊れた医療機器、埃をかぶった診察台。
ここに凛子さんがいるはずがないと分かっているけれど、探さずにはいられなかった。
通信からは仲間の焦りが伝わってくる。
「異常なし。捜索範囲を広げてる」
水輝さんの焦った声。
「わたし……どうしても見つけたい」
独り言のように呟くと、胸の痛みが増した。
そして、歩みを進めて辿り着いたのは手術室の重い扉。
深呼吸をして、手術室の扉に手をかける。
「凛子さん……ここにいますか?」
そっと扉を押し開けた。
そこには――
「⸺凛子さんっ!!!!」
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