八咫烏 〜神になるか、人として戦うか〜

秀零

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第91話 囁く声、折れぬ心

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光のない空間に、どれほど閉じ込められていたのか、もうわからない。
刀を握りしめ、何度も壁を叩き、光のない虚空を切り裂いてきた。
けれど、何も変わらなかった。

(……出られない……っ……!)

時間の感覚がどんどん狂っていく。
目を閉じても、開いても同じ景色。
体は冷え切り、思考だけがやけに冴えていく。
やがて、頭の奥で誰かの声が囁くような錯覚が生まれた。

「無駄だ……」

(……!)

はっと顔を上げた瞬間、足元の光がふっと揺れ、目の前にあの男が現れた。
最高神代理――氷のような瞳が私を見下ろしている。

「まだ足掻いていたか……無駄なことを」

「……黙って……! 私は、ここから出る……!」

必死に睨みつけるが、彼はただ薄く笑った。

「全く……こんな事なら最初から、忌々しいあの男などに頼らず、こうしていればよかった」

「……あの男って……誰のこと……?」

私が問うと、彼はわずかに口角を吊り上げた。

「八咫烏頭領⸺紫苑。そして八雲」

その二つの名が空気を震わせた瞬間、胸の奥が凍りついた。

(紫苑さん……八雲さん……!?)

「お前が彼らに心を寄せるほど、愚かになるだけだ。彼らはもう、お前のために命を懸けはしない。所詮は一時の幻影だ。今頃は、お前の幻と笑い合っているだろう」

「……っ……!」

耳の奥で、何かがひび割れるような音がした。
脳裏に、仲間たちが笑い合っている幻がよぎる。
自分だけがここに閉じ込められているという現実が、鋭い針のように胸に刺さる。

(違う……違う……! 紫苑さんは……八雲さんは……そんな人じゃ……!)

必死に否定するけれど、声はどんどん心の奥へ染み込んでいく。
刀を握る手から、力が抜けていく。

(やめて……もう……考えたくない……!)

その時、胸の奥で、かすかな声が響いた。

『……耳を貸してはだめ……天音……』

天禰さんの声。
やさしく、でも確かな強さを持った声だった。

『あの人の言葉は天音の心を惑わすためのもの……全ては天音の心を折るためのものよ』

「……天禰さん……」

私は目を閉じ、心の奥でその声を抱きしめる。

『忘れないで……天音が選んだ仲間は、そんなに脆い絆じゃない……紫苑も、八雲も天音を見捨てたり絶対にしない……』

その言葉に、胸の奥で小さな炎がふっと灯る。
絶望で冷え切った心臓が、わずかに鼓動を取り戻す。

(……そうだ……紫苑さんは……八雲さんは……あんな顔で笑う人じゃない……!)

私は震える手で刀を握り直し、ゆっくりと目を開いた。

「紫苑さん……八雲さん……私は絶対に負けない……!」

その言葉は、誰に向けたものでもなく、自分自身への誓いだった。
最高神代理は何も言わず、ただ薄笑いを残して闇の中に溶けていった。

残されたのは、冷たい静寂と、私の荒い息だけ。
それでも、心の奥に宿った炎はまだ消えていなかった。

私は刀を胸に抱き、闇の中で膝をついたまま、小さく呟く。

(……絶対に、ここから出る……絶対に……!)

静かな空間に、私の決意だけが響いた。
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