八咫烏 〜神になるか、人として戦うか〜

秀零

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第94話 救いの腕に抱かれて

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刀を振り抜いた瞬間、眩い閃光が空間を切り裂いた。
ひび割れが一気に広がり、風が吹き抜ける。

「――開けぇっ……!」

喉が裂けそうになるほど叫んで、渾身の力を込める。
亀裂が音を立てて弾け、白い空間が砕け散った。

目の前に広がったのは――神界の庭園。
空は鈍色に沈み、遠くで雷鳴が響いている。
息を飲むほど静謐で、冷たい世界。

(出られた……! やっと……!)

膝が崩れそうになるのを必死に堪えた、その瞬間――
空気が凍りついた。

「……やはり来たか」

低い声。
振り返った先、そこに立っていたのは最高神代理だった。

白い衣を纏い、背後の空間がゆらゆらと歪む。
その存在だけで、足元の空気が重く沈み、心臓がひりついた。

「逃げられると思ったか?」

次の瞬間、風が裂けた。
彼の指先から放たれた光が、私の足元を抉る。

「――っ!」

飛び退くと同時に、刀を構える。
心臓が早鐘を打つ。
もう言葉はいらない。
ここで戦わなければ、二度と外には出られない。

私は駆け出し、全力で刀を振るった。
最高神代理は一歩も動かず、指先で刃を止めた。

甲高い金属音が響き、腕に衝撃が走る。

(止められた……!?)

骨が砕けそうなほどの衝撃に歯を食いしばる。
それでも、押し込んだ。

「はあああああっ!!」

一瞬、刃が彼の頬をかすめた。
血の筋が、白い肌を伝って落ちる。

最高神代理の瞳が、わずかに細められた。

「……なるほど」

次の瞬間、体が宙に浮いた。
見えない力に弾かれ、背中から地面に叩きつけられる。

「――ぐっ!」

肺から空気が抜ける。
視界が滲み、呼吸ができない。

「人間のお前ごときが、私に傷を……滑稽だ」

冷たい声。
指先がゆっくりと私に向けられると、重力そのものが増したような圧が走り、体が地面に押しつけられた。

(動けない……っ!)

視界が暗くなる。
手から刀が滑り落ちた。

「殺しはしない……次はもっと深い闇の中に幽閉するだけだ」

彼の掌に、光が集まる。

(――ここで、終わる……?)

息が詰まる。
もう一度だけ、誰かの顔を思い浮かべた。
紫苑さん……皆……!

その瞬間――

「――天音っ!!」

鋭い声が空間を裂いた。
黒の閃光が走り、最高神代理の腕が弾かれる。
時間が止まったみたいに、世界が静止する。

「……紫苑、さん……!」

声がかすれた。
次の瞬間、紫苑さんが私のすぐ前に降り立つ。

「よく耐えたな」

短い言葉。
けれど、その声音に胸の奥が熱くなる。

紫苑さんが刀を抜いた瞬間、神界の空気そのものが震えた。
冷たい世界が、一瞬で研ぎ澄まされた刃のように変わる。

最高神代理が口元に薄い笑みを浮かべる。

「また現れたか、お前はいつも私の邪魔を……!」

「言葉はいらない」

紫苑さんが地面を蹴った。
二人の刃がぶつかり、凄まじい衝撃波が広がる。

(……すごい……!)

光と音が入り混じり、何も見えない。
けれど紫苑さんは、一歩も引かなかった。

「――今だ、天音!」

叫びと同時に、紫苑さんの腕が私を抱え上げる。
その瞬間、胸の奥が熱くなった。

(助かった……! 本当に……!)

次の瞬間、視界がぐにゃりと歪む。
世界が反転し、音も色も弾け飛んだ。

気がついた時には、森の匂いが鼻をかすめていた。
紫苑さんが私を地面に降ろし、周囲を警戒する。

「……はぁ……はぁっ……!」

息が乱れ、体が震える。
でももう、神界の重苦しい気配はなかった。

紫苑さんが私の顔を覗き込んだかと思ったら
一瞬で紫苑さんの腕の中に居た。

「……無事でよかった……」

その言葉に、涙が堪えきれなくなる。
必死に頷いた瞬間、力が抜けて意識が闇に沈んだ。
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