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リオン市
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クルーの言う通り大人しくしていようというゼシカの言葉に従って、あたしたちは宿に留まって剣を研いたりしながら時間を潰した。
お昼も宿の人がうどんを用意してくれてそれを食べながら待っていた。
「昼過ぎだから……そろそろかな?」
あたしが言ったと同時位にドアをノックする音がした。
「はい?」
「クルーの連れだけど……」
クルーの名前に油断してドアを開けてしまった。
入ってきたのは2人の兵士だった。
「やっぱりいたな!アドレイ家の裏切り者たちめ!!」
そう言って向かってくる兵士に驚いた。
あたしは室内にいたから剣を携帯しておらず窓際に置いていた。
「お嬢様!」
素早くゼシカが飛刀を投げて一人の兵士の腕に命中した。
怯んだすきに窓際に走り剣を抜いた。
剣技で兵士に負ける気はしなかった。
「女が……手加減すると思うなよ!」
そう言って向かってくる相手の剣を受け流せた。
そしてがら空きになった左側に剣を突き付けた。
―――――手に嫌な感覚がした。
目の前には倒れた兵士……動かない。
あたしの剣は血がついている。
横を見たらゼシカの飛刀を顔に当たった兵士が倒れていた。
「あ……あたし」
思わず剣を落として膝をついた。
身体が震えて止まらない。
あたしが、人を殺した。
はじめて、殺した。
「お嬢様……」
アベルが隣に来てあたしを抱きしめてくれた。
「大丈夫です……大丈夫ですよ」
アベルの言葉はいつも不思議。
アベルに大丈夫と言われたら少し安心できた。
身体の震えが止まったのがわかった。
きっと彼はまだ傷が痛むはず。
もしかしたらあたしを抱きしめたりしたら傷口が開いたかもしれない。
でも今は、彼の優しさに甘えたかった。
騒ぎに気づいた宿の店主はすぐに兵士の遺体を片付けて部屋を変えてくれた。
あたしはずっと動けずに、部屋の移動の際にやっと立ち上がれた。
「お嬢様……剣の鞘を」
ゼシカがあたしの剣を持っていた。
拭いてくれたようでもう血はついていなかった。
「あたしが持つから、大丈夫」
そう言って受け取り、鞘に納めた。
お昼も宿の人がうどんを用意してくれてそれを食べながら待っていた。
「昼過ぎだから……そろそろかな?」
あたしが言ったと同時位にドアをノックする音がした。
「はい?」
「クルーの連れだけど……」
クルーの名前に油断してドアを開けてしまった。
入ってきたのは2人の兵士だった。
「やっぱりいたな!アドレイ家の裏切り者たちめ!!」
そう言って向かってくる兵士に驚いた。
あたしは室内にいたから剣を携帯しておらず窓際に置いていた。
「お嬢様!」
素早くゼシカが飛刀を投げて一人の兵士の腕に命中した。
怯んだすきに窓際に走り剣を抜いた。
剣技で兵士に負ける気はしなかった。
「女が……手加減すると思うなよ!」
そう言って向かってくる相手の剣を受け流せた。
そしてがら空きになった左側に剣を突き付けた。
―――――手に嫌な感覚がした。
目の前には倒れた兵士……動かない。
あたしの剣は血がついている。
横を見たらゼシカの飛刀を顔に当たった兵士が倒れていた。
「あ……あたし」
思わず剣を落として膝をついた。
身体が震えて止まらない。
あたしが、人を殺した。
はじめて、殺した。
「お嬢様……」
アベルが隣に来てあたしを抱きしめてくれた。
「大丈夫です……大丈夫ですよ」
アベルの言葉はいつも不思議。
アベルに大丈夫と言われたら少し安心できた。
身体の震えが止まったのがわかった。
きっと彼はまだ傷が痛むはず。
もしかしたらあたしを抱きしめたりしたら傷口が開いたかもしれない。
でも今は、彼の優しさに甘えたかった。
騒ぎに気づいた宿の店主はすぐに兵士の遺体を片付けて部屋を変えてくれた。
あたしはずっと動けずに、部屋の移動の際にやっと立ち上がれた。
「お嬢様……剣の鞘を」
ゼシカがあたしの剣を持っていた。
拭いてくれたようでもう血はついていなかった。
「あたしが持つから、大丈夫」
そう言って受け取り、鞘に納めた。
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