祷雨(とうう)の巫女はまだ決断できない~雨は祈りか、絶望か~

カノンみわ

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第1話 ハローワークで異世界求人!?

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「サライ・ミナ・トゥエナ ハシリ・ノア・イリヤ!」

 お腹の底から声を絞り出した瞬間、空気がパシン!と割れ、室温が一気に下がった。

 鳥肌がぶわりと立ち、視界が歪む。

 意味の分からない言葉なのに、世界が反応している。

 面接官の三人は息を呑み、ある人がモニターを指さした。

 ​「見て下さい。ソル値が振り切れてます。龍声紋りゅうせいもんの波長が確認できてます」

 ​ソル値? リュウセイモン?

 ​そのうちの一人のクールな雰囲気の女性がこちらを見た。

 ​「早川はやかわさま。ありがとうございます。最後にひとつお聞きしたいんですけど」

 ​状況が飲み込めないまま、私は聞き返した。

 ​「はい、何でしょう?」

 ​「龍に抵抗ないですか?」

 女性は表情も変えず淡々と聞いてくる。

 この時まさに、異世界への扉がゆっくりと開き始めていた。

 けれどその本当の意味を、そしてこれまで平凡だった私の人生が大きく変わることを

 この時の私はまだ分かってなかった─────



 ─────────────────────


「お姉ちゃん。私、結婚決まったよ」

 ある日、妹のヒロミから届いたLINE。

 ヒロミには付き合って3年になる彼氏がいた。

「よかったね。20代のうちに結婚したいって言ってたもんね」

 そう返すと、ヒロミは嬉しそうに返事を返してきた。

「かなりプレッシャーかけたからね。29歳の誕生日で何も言ってこなかったら別れるって匂わせたから、焦ったみたいよ」

 ヒロミは実の妹ながらしっかり者で、自分の意見をはっきり持っている。
 3つ下だけど、いつも現実的で私とは大違いだ。

「お姉ちゃん、再来月でダメな日ある? 今度、家族で顔合わせの食事会を開きたいと思ってるから、是非出席してほしいんだけど」

「今のところ週末なら大丈夫だよ。日取り決まったら教えてね。改めておめでとう!」

 最後にスタンプを添えて、会話は終わった。


 スマホを置いたあと、私は一気に脱力感とむなしさに襲われた。

 ヒロミが結婚かあ…

 ついに妹にまで結婚を抜かされた。
 最近は友達の結婚出産報告が重なっている。
 そうやって周りは、どんどん女性の幸せをつかんでいっていた。

 なのに私は、置いてきぼりを食らってる感がどうしてもぬぐえない。

 もちろん結婚が幸せの全てではないし、おひとり様を楽しんでいる人もいる。

 でも…の考えが頭のなかで堂々巡りだ。

 このままずっと1人なのかな…

 その不安がどうしても抜けなかった。


 ────────────────────


「え、人員整理?」

 お昼休みに洗面所で化粧直しをしてると、隣の部署の女性たちがヒソヒソ話しているのが聞こえてきた。

 思わず耳をそばだてる。

「ほら、この間の新規事業、採算が取れなくて撤退になったでしょう? あれで大幅に赤字が出て、財務的にかなり厳しくなったみたい。多分部署の整理とか、早期退職を募る可能性もあるって」

「やばいじゃん…そういうのって、事務とか総務が真っ先に対象になるんじゃないの? 確かにここのところ、見通しが暗い話は聞いてたけどさ」


 あまりじっくり聞いていても不審に思われるので、私は化粧直しもそこそこに切り上げてその場を離れた。


 確かに経営不振の話は、私の耳にも入っていた。

 この間のボーナスは大幅に減額されたし、会社全体もどんよりとした雰囲気が漂っている。

 私がいる営業二部は大きな部署ではないのに、先月は2人も自己都合で辞めた。


 結婚できる宛もないなか仕事は頑張りたいと思ってたけれど、この会社にしがみついたとしても未来は暗いかもしれない。

 会社が早期退職者を募り始めたのを機に、私は仕事を辞めることにした。


 ─────────────────────


 その後、すぐに始めた就活は苦戦続きだった。

 世の中人手不足だとは言うけれど、私が希望する事務や総務は倍率が高く、書類選考でことごとく落とされる。

 やっぱり企業は若い人の方がほしいのかもしれない、思いきって異業種に飛び込むか…

 そう考え、検索項目から事務をはずした時だった。




 異世界で働きませんか?

 契約期間は半年
 報酬は500万円
 仕事内容は主に龍の世話と儀式の補佐


 思わず目が点になる。

 異世界? 龍の世話? 何これ……

 明らかに怪しい冗談かと思ったけど、ここはハローワークだ。
 モニターに映っているのはフォーマットに従った求人票。
 雇用主は日本でも名だたる大企業が明記されている。

 何が書かれてるのか一瞬飲み込めず、一瞬固まったあと我に返り、思わず周りをキョロキョロ見渡す。

 ここは何度も来ているハローワーク。
 窓口に座ってる人も、係の人もいつもの人だ。

 私は今確かに、現実にいるはず。

 でもこの求人気になる…

 思わず私はこの求人票を印刷していた。

 相談窓口にドキドキしながら求人票を渡すと、係員の人は顔色を変えず淡々と事務処理を始めた。

「紹介状を発行しますね。それを添付して、こちらの送付先に履歴書と職務経歴書を郵送してください。事前連絡は不要とのことなので」

 今まで、何度もやり取りされた手続き。

 あまりにも普通で、私はいつも通りの就活と変わらない気がしてきた。



 でも今、私が応募しようとしている就職先は、間違いなく異世界なのだ。

 現実味は全くないけど、これが私にとって大きな転換点になるかもしれない。

 何となくそう感じた。
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