祷雨(とうう)の巫女はまだ決断できない~雨は祈りか、絶望か~

カノンみわ

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第38話 愛するもの

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大量破壊兵器のある国を壊滅……

あまりのことに言葉がでない。

セイランさんが最悪の場合って言ってたけど、それが現実化している。

不穏な動きを見せている国があると言っていたけど、まさかここまで事態が悪化していたなんて……。

それを考えると冷や汗が背中を伝うのを感じた。


すると斎藤さんは、少し口調を穏やかにして続けた。

「最初の会議の時に、リョウガさんがシオガは平和で安定しているって言っていたでしょう?」

その言葉に、固まっていた頭が少し動く感じがした。

そう言えば、そんなことを言っていた。

「シオガはカーランティの中でも特殊で、気候も温暖で技術も発展し、経済も安定しています。
そんなシオガにほとんどの国は羨望の目を持ってハウエンのように友好的ですが、いくつかの国は面白くないのか敵対視してくるそうです。オルクほどではないにしろ、ちょっとした嫌がらせは頻繁だそうですよ」

「嫌がらせ?」

「ゴミを大量に送りつけたり、ここ数年で深刻化してるのは領空領海侵犯だそうです」

そこまで聞いて、私は思わず息をのんだ。

……それって、冗談じゃない。
まるで現実の国同士のやりとりみたいだ。


「なので私が『祷雨とううを再開して全世界に発信したら威圧になりますよ』って提案したんです。結果、面白いほどにパタッとやんだそうですけど」

少し苦笑する斎藤さんを、私は何とも言えない気持ちで見つめていた。

「私が提案したのはそこまでだったんですけど、ウラジオ国王とリョウガさんが、オルクへの制裁にも使えるんじゃないかって言い出して。
シオガ側にとってはそっちがメインになったみたいですね」

「でもそうしたら、オルクへも威圧になったんじゃないですか?わざわざ今、制裁を加えなくても……」

「もちろんシオガに対しては慎重になったと思います。ただオルクは、他の国にも攻撃を仕掛けると公言してるそうです。だからその前にオルクを叩く。それがシオガの『正義』のようですよ」


「……」


もうここまで来ると分からない。

起きるかも分からない戦争の前に、ある国を攻撃するのが正義なの?

「……でも、私には無理です。オルク国には無関係の民間人もいるんでしょう?その人たちまで巻き込むのは嫌です」

すると斎藤さんは軽く頷いた。

「それでいいです。早川さんはまた頼まれても断ってください。先ほども言いましたが契約条件はクリアしているし、これ以上は我々には関係ないですから」

斎藤さんのこのバッサリした割り切りは、寒々しくもあり頼もしくもある。

本当に不思議な人だ。



「斎藤さんって、愛国心強いんですか?」

突然の高坂さんの質問に、私は頭が「?」となった。

さすがの斎藤さんもキョトンとしている。

「いや、この祷雨計画が日本のためになると言うのは言ってましたけど。それさえ守れれば他はどうでもいいって感じたので。それだけ日本に対する気持ちが強いのかなって。やっぱり官僚だからですかね?」

すると斎藤さんは、久しぶりにフッと笑顔を見せた。

「高坂さんは、とんでもないところで勘がいいですね。はい、私は日本を守りたいんです」

「それはお仕事だから……?」

「それもありますけど」

一旦区切って、斎藤さんはゆっくりと言った。

「私はノンバイナリーでアロマンティックなので、結婚もしないし子孫も残せない。こういう形でしか日本を守れないなって思うんです」



─────────────────────



斎藤さんの思わぬ告白に、私は思考がフリーズした。

ノン…?アロ…って何だっけ……?

私が理解できていないを察してか、斎藤さんが説明してくれた。

「ノンバイナリーは、性自認が男性でも女性でもない状態です。私は体は女性として生まれましたけど、心の性別はどちらでもない。アロマンティックは私の場合は簡単に言うと、人を愛せないということです」

斎藤さんが最後に、少し目を伏せてこう付け加える。 

「だからと言うわけではないですけど、私が唯一愛しいと思うのは”日本”と言う国なんですよね。だから私は、この仕事を選びました」


その言葉はとても静かだったけど、斎藤さんの苦悩と孤独感が伝わってきた。

私も高坂さんも独身だけど、斎藤さんの場合は一生一人だと言う覚悟がある。

恐らくエリートで、端から見たら華々しい経歴を歩んできたであろう斎藤さん。

でもこの人なりに、悩んでもがいてきたのかもしれない。


私が想像もできないいろいろなものを、この人は乗り越えてきたんだと思うと、今まで斎藤さんに抱いてきた印象が少し変わってくるのを感じた。

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