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後章
調整者の慈悲
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~調整者の慈悲~
《消えた。
目の前で、光が消えた。
私は見たんだ。隣には悠太だって、誠だって、卯月さえもいた。まだ起きていないけど、クラスメイトだってそばにいた。
なのにいきなり光に包まれて、次の瞬間には見えなくなった。
「光!?」
「な、なんだ今の…まさか赤弓が!?」
「そんなはずない、こんな魔法みたいな…」
「なあアリス、さっきまで赤弓がいたところにいたんだろ!?案内しろ、行くぞ!」
「そのつもりだよ!こっち!」
案内するほどでもないけど、そんなことより私は早く弓子の部屋へ向かう。
おそらくあの部屋だと思う扉の前にたどり着くと、悠太は私の前に出た。
「お前は下がっとけ!」
同時に、悠太は扉を蹴破る。鍵はついていたはずだけど、一度開けたら暫くは鍵はかからないようだ。
扉が開くのさえ、焦れったく感じる。
ゆっくり開いた。
――開かれた扉の先には、倒れた弓子がいた。
悠太にいわれたことも忘れ、私は悠太がスルーした弓子に近づく。
「どういう…正と空は?いるはずだろ!?」
「弓子さん、息してるけど意識はないみたい!だ、だけど、正ちゃ達の姿、は…」
何もない。
どうしよう?
頭が真っ白に…
そんなとき、悠太はあきれたような声で私を咎めた。
「ばっ、入るなっつったろ…しかしこいつを縛ってから叩き起こしてこの現象について突き止めるか。大丈夫、なんとかなるさ。」
あ、そっか。
悠太、私に気がついて…
私は頬を叩くと、悠太の優しさに答えるために気を取り直して辺りを見渡す。
「縛るもの…縄とかないかな?」
「この部屋には無さそうだな。もっと別の…」
その時、悠太は緩やかに倒れていった。
スローモーションのように。
悠太は辛うじて倒れずに膝をついた。
「ゆ、悠太!?」
慌てて駆け寄ると、悠太はこちらに青ざめた顔で笑いかける。酷い顔色だ。
「あ、ああ、悪い。ちょっと足がもつれただけだ。」
「嘘、倒れたじゃん!」
「そんなことより縄と正達探すぞ。とりあえず赤弓は…そうだ、あのパソコンのコードでくくっとくか。」
悠太は立ち上がろうとするが、中々立てない。
私は代わりにコードで弓子の両手を縛ると、悠太の肩に潜り込んで立ち上がる。
「うわっ」
「いきなりごめん!でも、悠太もう戻るよ!」
「なんでだよ、赤弓に…」
「自分の体調くらいわかんないの!?」
「俺は強いんだぞ!」
「そんなの関係ないし!!」
「関係はあ…ウッ」
「ほら、この様子じゃ頭も痛いんじゃない!?」
「…頭はなんか、怖いくらい大丈夫なんだ」
「それ以外は駄目じゃない!」
私はそのまま立ち上がると、とりあえずこの部屋から出ることにした。弓子の完全なテリトリーであるこの部屋には、弓子がいるだけで罠になり得るものが多くあるだろう。今の弱った悠太じゃ、駄目だ。
悠太は抵抗する気力もないようで、黙って私と足並みを揃えてくれた。
懐かしいいつもの喧嘩っぽい言い合いに、少しだけ私はいつもの冷静さを取り戻せた、と思う。
私たちはその後もう一度部屋に戻った。
私はやっと携帯があったことを思い出し、手っ取り早く電話で警察と救急車を呼ぶ。
それを待つ間、光を心配する誠と弓子の部屋へもう一度おとずれたが、弓子は死んだように気絶したままで、起きる気配は一向になかった。》
「あー、ようやく皆揃った?やっぱり転移魔法って難しいね、四人もすればタイムラグが大きいや」
まさに歩こうとしてた時、声が脳に響きながら、突如として空中から女性が現われた。
――調整者だ。
「うわあ!!」
「え、なになに、そんなに驚いてくれるの?総ってばリアクション最高だよー」
「いや誰っすか!?」
「調整者だよ」
自分が呟くと、調整者は満面の笑みで頷いた。
「ピンポーン!私は調整者、君達を異世界に連れてきた本人だよ~」
ずいぶんと呑気な人物だ。
出会った時のような強者感は微塵も…
あ。
その時、思い出した。
そうだ、自分は『代償を払う』と言ったんだ。
ユミユミの話とノートから、異世界にいけば空の復活が期待できるということは知っている。
ならば、異世界に呼ばれたのは代償ではなく願いを叶える過程の出来事だ。
問題なのは、なぜ総達がこの場にいるのか…さっきまでは後で話そうとしていたことだ。だけど、『代償』…それが深く関わるのなら。
なんで、そこに頭がまわらなかったんだろうか。
「調整者!まさか代償を背負うのはせーじゅじゃなく、総達がなんて言わないよね!?」
「代償?」
背後で総の声が聞こえたが、そんなのはお構いなしだ。
自分は調整者に歩み寄って問いただした。
「違うよね!?」
「ふふ、正珠が焦ってるなんて、珍し~い!シャシンに収めた~い…なーんてね?」
「うざっ…じゃなくて、答えて、調整者!なんで総達はここにいるのか、教えて!」
必死の形相で睨む。総達が代償を払うことになるのは許容できない。だってこれは自分が勝手に約束したものなんだ。出来ることなら、今すぐ皆は元居たところへ返してほしい。
そんな思いをにやけながら聞く不愉快な調整者は、ずっと大袈裟に頷いてわざとらしい顔をする。
だというのに、自分の質問は全く答えてくれる気配がない。
自分は自分の中の思いきりの形相で睨むと、やっと調整者は空中浮遊で自分の耳元まで近づいた。
「安心して?皆を異世界に連れてきたのは、私の意思。正珠との契約は君と私だけの約束だから、必然的に代償を払うのも君だけだ。」
「そう…良かった…」
安堵する。
けれど総達は全く理解できていないようで、さっきからずっと目を見開いたままだ。
調整者はそれに気がつき、とびきり口角を上げ、こう言った。
「じゃあ皆にも説明して上げるよ!ようこそ、『特質』の皆さん!」
「…つまり、空さんはあの時、亡くなって…調整者さんの召喚で異世界に飛ばされたのは特質って言う、特別な能力を持つ俺たち四人を空さんを生き返らせるように調整者さんが手伝いをしてくれた結果ってことですよね?」
「そうだよ、透!本当は素質人間なら誰でも良かったんだけど、特質人間の方が強いからね!」
調整者は案外簡潔に現状を説明してくれていた。
先程土の上にシートを作り出した調整者は、そこに五人円になって話をすると言って、実際その通りに座っているのだが、それはまるでピクニックみたいで緊張感がない。
そのお陰か、話も大分すんなりと頭に入ってきた。
空に関しては総と光はその事を全く知らず、暫く驚きと悲壮感を隠せないでいたが、しかしそれを今からどうにかするのだから、と今この状況をより前向きに考えてくれているようだ。透もしっかりは知らなかったようだけど、総達と同様、空を助けようと考えてくれている。呑み込みが早いな、皆。
それで、調整者曰く、自分達のクラスメイト全員はどうやら、異世界へ行く素質のある特別な人間、素質人間らしく、その中で特に特別な特質人間たるせーじゅ達が異世界へ行くに選ばれたってわけだ。
「ちょっといいか」
総はまっすぐ手を上げる。
「さっき代償とか言ってたが、あれは?」
あ、やべ、大声で話しちゃってたんだ。光の目がギラリと光った。まずいな、怒られそうだ。
言い訳を云々考えていた自分のとなりで、調整者は両手を叩く。
「あー、代償?あれは正珠と私の話~」
「でも、それが正にとって…
って、あれ?」
心配症の総が首をかしげ、いきなり声を止めた。
「なに、話してたっけ?」
「!?!?」
今の一瞬で、忘れた!?
総は透に何を言ってたか訊ねていたが、透も光も覚えていない。
調整者を見る。
調整者は…何食わぬ顔で話を変える。
「やだなあ、これからどうすれば良いか、でしょ?」
「あ、そうだった!なんで忘れたんだろ、俺」
――調整者が記憶を操った。
魔法が出てきて今更、驚くことはない。けれどそんな、いとも簡単に変えてしまうのか。
調整者は自分の視線に気がつき、バチンとウインクする。
「大丈夫、もう消さないよ。」と。
お化け屋敷の「怖くないよ」くらい信用ないけど…………今は信じるしかない、か。はぁと小さくため息をついてみたが、それは誰に向けていたわけでもない、単なる疲労からなるため息だ。
「じゃあ話すね。これからどうすれば良いかっていうのだけど、君達には王城に向かってもらいます!」
「王城?」
調整者は頷いて、自分達が進む予定だった道を指差す。
「あの方角へずっとずっと進んでいけば、この世界の中心のお城にたどり着く。王様に会いに行けば、きっと空は助かる。」「…………それだけでいいの?」
「うん、勿論。」
「タイムリミットは?」
「ないよ。けど早い方がいいでしょ?」
「わかった」
「理解が早くて助かるよ~」
とりあえず、向かうべき方角は決まったな。
ただ気がかりなのは、言葉とか文化の問題だけど…
「あ、そうそう、ちなみに君達はこの世界の住民と言葉が通じるようになってるからね」
ナイスタイミングで教えてくれた。
「…心の中、読み取った?」
「まさか。でも気になるだろうってね。洋服だって、衝撃吸収性の高い服をあげたんだよ。君達にある程度は尽くしているように、最低限のことは教えるんだよ、私。」
バチンと再びウインクを見せると、立ち上がって調整者は一回転した。
途端、敷いていたシートが消えたかと思えば調整者はもう浮いていた。
「じゃあ、そろそろいこっかな?」
「着いてきてくれないの?」
「私も忙しいからね。」
スウウと足元から、成仏するように調整者は消えようとする。
「待て、調整者!」
その時、総は叫ぶ。調整者は驚くが、消えることは止めない。
総はそれをわかっていたのか、慌てて頭を下げた。
「ありがとう、色々俺達のためにしてくれて。」
自分も、透も光も、一斉に頭を下げた。
本来人が生き返るなんてあり得ないのに、それを許してくれたんだ、手助けをしてくれた、調整者。
お礼の一つも言えずに消えられては、大変困るのである。
調整者は無言のまま、姿を消していった。
「さて、すべきこともわかった!じゃあやっぱり歩き出そうぜ!」
目的も、すべきこともわかった。後は歩くだけだと総が意気込んだ、その時。
グウウウウウ…………
ふと、豪快な腹の音がなる。
「あ、悪い、俺だ」
そうしっかり報告したのは総だ。食いしん坊だとからかいたいが、すぐに止めた。だって総が今まであまり食べていない可能性は大いにあるから。
けれどタイミング的に、思わず笑いが込み上げてしまう。自分はそれを必死に抑える。
「町で食べさせてもらえるといいけどね」
「というか、調整者に食料もらえば良かったな」
みたいな話をしながら、自分達は歩き出した。
四人並んで、振り返る時間もないからさ。
《消えた。
目の前で、光が消えた。
私は見たんだ。隣には悠太だって、誠だって、卯月さえもいた。まだ起きていないけど、クラスメイトだってそばにいた。
なのにいきなり光に包まれて、次の瞬間には見えなくなった。
「光!?」
「な、なんだ今の…まさか赤弓が!?」
「そんなはずない、こんな魔法みたいな…」
「なあアリス、さっきまで赤弓がいたところにいたんだろ!?案内しろ、行くぞ!」
「そのつもりだよ!こっち!」
案内するほどでもないけど、そんなことより私は早く弓子の部屋へ向かう。
おそらくあの部屋だと思う扉の前にたどり着くと、悠太は私の前に出た。
「お前は下がっとけ!」
同時に、悠太は扉を蹴破る。鍵はついていたはずだけど、一度開けたら暫くは鍵はかからないようだ。
扉が開くのさえ、焦れったく感じる。
ゆっくり開いた。
――開かれた扉の先には、倒れた弓子がいた。
悠太にいわれたことも忘れ、私は悠太がスルーした弓子に近づく。
「どういう…正と空は?いるはずだろ!?」
「弓子さん、息してるけど意識はないみたい!だ、だけど、正ちゃ達の姿、は…」
何もない。
どうしよう?
頭が真っ白に…
そんなとき、悠太はあきれたような声で私を咎めた。
「ばっ、入るなっつったろ…しかしこいつを縛ってから叩き起こしてこの現象について突き止めるか。大丈夫、なんとかなるさ。」
あ、そっか。
悠太、私に気がついて…
私は頬を叩くと、悠太の優しさに答えるために気を取り直して辺りを見渡す。
「縛るもの…縄とかないかな?」
「この部屋には無さそうだな。もっと別の…」
その時、悠太は緩やかに倒れていった。
スローモーションのように。
悠太は辛うじて倒れずに膝をついた。
「ゆ、悠太!?」
慌てて駆け寄ると、悠太はこちらに青ざめた顔で笑いかける。酷い顔色だ。
「あ、ああ、悪い。ちょっと足がもつれただけだ。」
「嘘、倒れたじゃん!」
「そんなことより縄と正達探すぞ。とりあえず赤弓は…そうだ、あのパソコンのコードでくくっとくか。」
悠太は立ち上がろうとするが、中々立てない。
私は代わりにコードで弓子の両手を縛ると、悠太の肩に潜り込んで立ち上がる。
「うわっ」
「いきなりごめん!でも、悠太もう戻るよ!」
「なんでだよ、赤弓に…」
「自分の体調くらいわかんないの!?」
「俺は強いんだぞ!」
「そんなの関係ないし!!」
「関係はあ…ウッ」
「ほら、この様子じゃ頭も痛いんじゃない!?」
「…頭はなんか、怖いくらい大丈夫なんだ」
「それ以外は駄目じゃない!」
私はそのまま立ち上がると、とりあえずこの部屋から出ることにした。弓子の完全なテリトリーであるこの部屋には、弓子がいるだけで罠になり得るものが多くあるだろう。今の弱った悠太じゃ、駄目だ。
悠太は抵抗する気力もないようで、黙って私と足並みを揃えてくれた。
懐かしいいつもの喧嘩っぽい言い合いに、少しだけ私はいつもの冷静さを取り戻せた、と思う。
私たちはその後もう一度部屋に戻った。
私はやっと携帯があったことを思い出し、手っ取り早く電話で警察と救急車を呼ぶ。
それを待つ間、光を心配する誠と弓子の部屋へもう一度おとずれたが、弓子は死んだように気絶したままで、起きる気配は一向になかった。》
「あー、ようやく皆揃った?やっぱり転移魔法って難しいね、四人もすればタイムラグが大きいや」
まさに歩こうとしてた時、声が脳に響きながら、突如として空中から女性が現われた。
――調整者だ。
「うわあ!!」
「え、なになに、そんなに驚いてくれるの?総ってばリアクション最高だよー」
「いや誰っすか!?」
「調整者だよ」
自分が呟くと、調整者は満面の笑みで頷いた。
「ピンポーン!私は調整者、君達を異世界に連れてきた本人だよ~」
ずいぶんと呑気な人物だ。
出会った時のような強者感は微塵も…
あ。
その時、思い出した。
そうだ、自分は『代償を払う』と言ったんだ。
ユミユミの話とノートから、異世界にいけば空の復活が期待できるということは知っている。
ならば、異世界に呼ばれたのは代償ではなく願いを叶える過程の出来事だ。
問題なのは、なぜ総達がこの場にいるのか…さっきまでは後で話そうとしていたことだ。だけど、『代償』…それが深く関わるのなら。
なんで、そこに頭がまわらなかったんだろうか。
「調整者!まさか代償を背負うのはせーじゅじゃなく、総達がなんて言わないよね!?」
「代償?」
背後で総の声が聞こえたが、そんなのはお構いなしだ。
自分は調整者に歩み寄って問いただした。
「違うよね!?」
「ふふ、正珠が焦ってるなんて、珍し~い!シャシンに収めた~い…なーんてね?」
「うざっ…じゃなくて、答えて、調整者!なんで総達はここにいるのか、教えて!」
必死の形相で睨む。総達が代償を払うことになるのは許容できない。だってこれは自分が勝手に約束したものなんだ。出来ることなら、今すぐ皆は元居たところへ返してほしい。
そんな思いをにやけながら聞く不愉快な調整者は、ずっと大袈裟に頷いてわざとらしい顔をする。
だというのに、自分の質問は全く答えてくれる気配がない。
自分は自分の中の思いきりの形相で睨むと、やっと調整者は空中浮遊で自分の耳元まで近づいた。
「安心して?皆を異世界に連れてきたのは、私の意思。正珠との契約は君と私だけの約束だから、必然的に代償を払うのも君だけだ。」
「そう…良かった…」
安堵する。
けれど総達は全く理解できていないようで、さっきからずっと目を見開いたままだ。
調整者はそれに気がつき、とびきり口角を上げ、こう言った。
「じゃあ皆にも説明して上げるよ!ようこそ、『特質』の皆さん!」
「…つまり、空さんはあの時、亡くなって…調整者さんの召喚で異世界に飛ばされたのは特質って言う、特別な能力を持つ俺たち四人を空さんを生き返らせるように調整者さんが手伝いをしてくれた結果ってことですよね?」
「そうだよ、透!本当は素質人間なら誰でも良かったんだけど、特質人間の方が強いからね!」
調整者は案外簡潔に現状を説明してくれていた。
先程土の上にシートを作り出した調整者は、そこに五人円になって話をすると言って、実際その通りに座っているのだが、それはまるでピクニックみたいで緊張感がない。
そのお陰か、話も大分すんなりと頭に入ってきた。
空に関しては総と光はその事を全く知らず、暫く驚きと悲壮感を隠せないでいたが、しかしそれを今からどうにかするのだから、と今この状況をより前向きに考えてくれているようだ。透もしっかりは知らなかったようだけど、総達と同様、空を助けようと考えてくれている。呑み込みが早いな、皆。
それで、調整者曰く、自分達のクラスメイト全員はどうやら、異世界へ行く素質のある特別な人間、素質人間らしく、その中で特に特別な特質人間たるせーじゅ達が異世界へ行くに選ばれたってわけだ。
「ちょっといいか」
総はまっすぐ手を上げる。
「さっき代償とか言ってたが、あれは?」
あ、やべ、大声で話しちゃってたんだ。光の目がギラリと光った。まずいな、怒られそうだ。
言い訳を云々考えていた自分のとなりで、調整者は両手を叩く。
「あー、代償?あれは正珠と私の話~」
「でも、それが正にとって…
って、あれ?」
心配症の総が首をかしげ、いきなり声を止めた。
「なに、話してたっけ?」
「!?!?」
今の一瞬で、忘れた!?
総は透に何を言ってたか訊ねていたが、透も光も覚えていない。
調整者を見る。
調整者は…何食わぬ顔で話を変える。
「やだなあ、これからどうすれば良いか、でしょ?」
「あ、そうだった!なんで忘れたんだろ、俺」
――調整者が記憶を操った。
魔法が出てきて今更、驚くことはない。けれどそんな、いとも簡単に変えてしまうのか。
調整者は自分の視線に気がつき、バチンとウインクする。
「大丈夫、もう消さないよ。」と。
お化け屋敷の「怖くないよ」くらい信用ないけど…………今は信じるしかない、か。はぁと小さくため息をついてみたが、それは誰に向けていたわけでもない、単なる疲労からなるため息だ。
「じゃあ話すね。これからどうすれば良いかっていうのだけど、君達には王城に向かってもらいます!」
「王城?」
調整者は頷いて、自分達が進む予定だった道を指差す。
「あの方角へずっとずっと進んでいけば、この世界の中心のお城にたどり着く。王様に会いに行けば、きっと空は助かる。」「…………それだけでいいの?」
「うん、勿論。」
「タイムリミットは?」
「ないよ。けど早い方がいいでしょ?」
「わかった」
「理解が早くて助かるよ~」
とりあえず、向かうべき方角は決まったな。
ただ気がかりなのは、言葉とか文化の問題だけど…
「あ、そうそう、ちなみに君達はこの世界の住民と言葉が通じるようになってるからね」
ナイスタイミングで教えてくれた。
「…心の中、読み取った?」
「まさか。でも気になるだろうってね。洋服だって、衝撃吸収性の高い服をあげたんだよ。君達にある程度は尽くしているように、最低限のことは教えるんだよ、私。」
バチンと再びウインクを見せると、立ち上がって調整者は一回転した。
途端、敷いていたシートが消えたかと思えば調整者はもう浮いていた。
「じゃあ、そろそろいこっかな?」
「着いてきてくれないの?」
「私も忙しいからね。」
スウウと足元から、成仏するように調整者は消えようとする。
「待て、調整者!」
その時、総は叫ぶ。調整者は驚くが、消えることは止めない。
総はそれをわかっていたのか、慌てて頭を下げた。
「ありがとう、色々俺達のためにしてくれて。」
自分も、透も光も、一斉に頭を下げた。
本来人が生き返るなんてあり得ないのに、それを許してくれたんだ、手助けをしてくれた、調整者。
お礼の一つも言えずに消えられては、大変困るのである。
調整者は無言のまま、姿を消していった。
「さて、すべきこともわかった!じゃあやっぱり歩き出そうぜ!」
目的も、すべきこともわかった。後は歩くだけだと総が意気込んだ、その時。
グウウウウウ…………
ふと、豪快な腹の音がなる。
「あ、悪い、俺だ」
そうしっかり報告したのは総だ。食いしん坊だとからかいたいが、すぐに止めた。だって総が今まであまり食べていない可能性は大いにあるから。
けれどタイミング的に、思わず笑いが込み上げてしまう。自分はそれを必死に抑える。
「町で食べさせてもらえるといいけどね」
「というか、調整者に食料もらえば良かったな」
みたいな話をしながら、自分達は歩き出した。
四人並んで、振り返る時間もないからさ。
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