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後章
正しくない最善を
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~正しくない最善を~
《人が怪我したら、心配する。誰かが賞に入れば、称賛する。
当然、それを私はする。
けれど、何か違って、私の本音ではない気がした。そう思っているのに、それは本を読んでそう思ったのと同じで、つまりは私にとっての第二者にあった事じゃなくて、フィクションのようなんだ。それに感情移入しているようで、あまり気持ちいい感じではない。
それが明るみになったのは、小学校か…いや、中学校の時?誰かが死に直面した時とか、誰かが真剣に困ってる時。
仕方ないな、これは。とかは思ったりしても、助けたいとか、所謂同情心とかが全く芽生えないんだ。
なんでかは、今は何となくわかるよ。
私は昔、普遍を好んで異常を拒んだ。そのせいで、普段身近にあること以外は全て現実に感じられなくなった。ずっと魔法にかかったみたいだ。
だけど、高校に入学して暫くしてから、時々私はここにいるなって思えることが増えたんだ。ドキドキすることが増えたんだ。
…だけど、やっぱりそれは時々だったから、私は殺されたってことについては怖くない。というか、本当に私は死んだのかな。
首に刃物が刺さったのは、間違いなく夢じゃないと確信できるから。
あ、そう言えば。
最後の最後、耳が聞こえなくなるその前、私を呼ぶ声が聞こえた気がしたんだ。
正ちゃんじゃない誰だっけ、それは……
優しい笑顔で、声が柔らかくて、目が澄んでいて、楽しそうに笑っている顔がかっこよくて、お人好しで、つよくて、それから…
あ。
好きな人の声が、最後に私の耳に響いたんだ。
私は…
もしかして。
もしかしなくても。
好きなんだ、あの人の事。透君の事。
ぐちゃぐちゃで変な気持ちだけど、今となっては私は好きだったんだ。
だからたまに、ドキドキしたんだ。
あぁ、そっか。
そうなんだ。
今更だけど…ちゃんと伝えられればな。
って、こんなことが思えるのも、死んだからなのかもね。最後の最後に私の気持ちに気が付けるのが、殺された私に神様がくれたプレゼント…なーんてね。
って、馬鹿なこと言ってないで、これからを考えないと。死んで尚これからなんて笑えちゃうけど、まずはここがどこから、知らないと。
もしも生きているのなら、どうせなら、好きって気持ちも、伝えてみたいな。
どこかで確信はある。
これはきっと、正しい最善の末だったんだって。私が死んだことも、正しかったって。正ちゃん達は生きているから、それだけで最善なんだ。
…………私にとっては、もしかすると、違ったけれど。》
「ぅわああああぁぁぁぁ!!??!!??」
気がつけば、自分は空で浮いて…ううん、落ちていた。
着々と迫ってくる地面を前に、なんとか体を半回転させて足から着地するよう調整した。
「よっ…と」
なんとか怪我なく地面へたどり着けた…
いや待て、木よりも遥かーに高いとこから落ちて、体どころか足の全てにダメージがないのは、どういうことだ?
それに、ここは…?
自分は辺りを見渡す。辺りは木に囲まれていて、自分が降りたところは偶々何も生えていなかったようだ。
続いて改めて落ちてきたときに見た景色を思い出すと、確かに森に落ちたようだ。
「なんで落ちたんだっけ…そうだ、あの人の光を纏って…」
視界が歪む前、最後に見えたのはあの水色の髪の少女だった。突然現われて、空を救えるって言ってきて、突然魔法?を使ってきて…じゃあここはもしかして、自分の知る世界ではないのかもしれないな。…だとすれば、おそらく透夏さんのノートの異世界、ユミユミが行きたかった世界だろう。
だけどまあ、そんなことどうだっていい。今はとにかく、空をどうにかする方法を…
「…………ァァァァ」
ふと、声が響く。
おそらくここは異世界なんだ、モンスターとかが出たって可笑しくない。
自分はとっさに身構える。…なんにも持ってないけどね!
と、そうこうしているうちにもどんどん声は大きくなっていって、やがてその声の出所がわかる。
…………上か!
「ギャアアアアアアアア!!!!」
「うわああああ!!」
ズサァァァァ!!!!
見上げて、悲鳴を上げて思わず避ける。落ちてきたのは、変わった服を着た誰かだ。雰囲気はずっと知っているものだし、しかも聞き覚えのある声だ。
というか、聞き覚えがありすぎるような…
自分が警戒しつつも近づくと、顔面から突っ込んで砂埃を上げた人はバッと顔を上げて、犬のように顔を左右に強く降る。しかし犬ではないから、それで砂埃がうまく落ちる事もなく、結局手で顔にこびりついた砂を拭くようだった。面白かったから動画か写真に納めたい。
って、そんなことより、これほど自分が写真に納めたくなるような行動をするのは一人しかいないじゃないか!
「総!」
そう言ってからしゃがみこんで顔を覗き込むと、そこにはやっぱり見慣れた顔がある。
「…ん?おお、正!!見慣れない服だな!それにしても、さっきまでトールといたはずなんだがいやここどこだ!?」
「忙しそうだねぇ」
「そっちは呑気だな!?」
「まあねぇ」
余裕はないけど、これほど慌てた総を見れば大概の人間は落ち着くだろう。寧ろからかいたい衝動にだって駆られるはずさ。
ともかく自分は落ち着いてきて、そこで初めて服がきていたものと違うことに気がついた。説明が難しいが、とにかく変わった総同様、服装みたい。ただ、着心地はいい。
「あ、でも異世界って感じでいいかも」
「異世界?」
「うん、ここ、異世界っぽい。」
「異世界!?ちょっと面白そうだな!」
…総がこういう時、軽…フラットな人間でよかった。
にしても、と自分は一回転してみる。服が軽くて、動きやすい。
特に…ヒラヒラする半透明のマントが気に入った。試しに右手を水鉄砲の形にして見ると、案外様になる。まさに異世界って感じがするや。
「どお、どうかな総?」
「いいんじゃないか?でもどうやってキラキラは出してるんだ?」
「ん?キラキラ?」
そこで自分は初めて知った。
銃の形を象った自らの指先から、カクカクしたト音記号と…一度か二度か見たことがある丸い光が輝いている。
「これは…」
自分の手から、知らないものが出ている。これって結構ヤバイんじゃ…
「こうしてみると、確かに異世界っぽいな!」
そう言う総は、両手にトライアングルで赤い光を宿している。まわりには、自分よりも小さくはあるが小さな球が光を帯びていた。
「適応能力、高!!」
「ふふん、まあな!」
総が出来るならまあ、それほど気にすることではないのかな…?
というかすごいわからないことが山盛りなのに、いつの間にか不安なんて気持ちが吹っ飛んじゃった。
「あ、そうだ総、怪我してない?顔面から落ちてたでしょ」
「え?確かに…頭から血出てないか?」
「髪が赤いからなんとも…」
「ん、そうか…まあ大丈夫だろ!俺、運良いし!」
――運だけじゃどうにもならないと思うけど。
けどあまりにも自信満々に言うから、そう言うのは止めといた。
にしても総は他人に対しては異常に心配症なくせして、自分には無頓着だな。
そんなことを考えながら、自分は総をまじまじ見ていると、総は少し照れてから両手を合わせ叩いた。
「ともかく、今残された謎は服が違うのと、ここが異世界だとしても、何処か分からないことと魔法みたいなのが使えること!問題は、これからどうするかだな!」
「問題が高層マンションだね」
「最近隣の隣の町に建ったよな」
「全然町の雰囲気似合ってなかったよね!」
…っていかん、話がすぐ逸れる。
「とりあえず、移動してみようよ。ここにいても分かんないし」
「そうだな、ただし音には気を付けていこうぜ」
総は耳に手を当てる。耳がいいから、どこに何がいるか分かるかもしれない。
「どうどう、半径何メートル以内なら安全圏内?」
「俺も人だからな、そんなに正確じゃないぞ…」
期待をさせないように言ってから、暫く総は目をつぶる。
見るに、本気で集中すれば、細かな音も聞こえるらしいな。
「…………うん、半径二…二・五キロくらいは大丈夫じゃないか」
「思ったより正確!さすがは総!」
自分は思わず総に抱きつく。性別的な差はあれど、総に関しては全く関係ないと思ってるんだ。
それは総も同じで、抱きつかれた方も何食わぬ顔をしながら目の前を指差した。
「この先。きっと集落があるぞ。」
「そんなんもわかんの!?」
「直接はわかんねえけど、近くの木とか草の音が人が大勢いるからきっと木が多く切り崩されてる。そのお陰で音の届き方が他と違うんだ。鳥さ…鳥の声も少ない。」
「おおお…」
自分は総の背中を押して、すぐに向かおうとする。
その時だった。
「正、避けろ、上!」
「うん!」
「…うわああ!」
「その声、もしかしてトー」
自分は総の声に驚き、とっさに総の手を引き後方へ飛ぶ。
けれどその後すぐ、総が言いかけた言葉もあって何となく察した。土埃が舞って前が見えないうちから、その落ちてきた人物に予想がつく。
「ゲホッ、ゴホッ、な、何…?」
土の煙が晴れてきた頃、ようやく姿が見える。メロンのような髪色に少し高い声の透だ。案の定服装も変わっている。
両足でしっかりと着地できたみたいだけど、目を右腕で隠しつつ左手で土を追い払う少年はまだこちらに気がついてないみたいだ。
「わっ」
透がまだこちらを見ないうちから、また頭上から声がする。
今度はチャッと上を見上げると、これまた見慣れた髪が揺れている、光だった。
透の真下に落ちてきた光は、見事に透に受け止められて事なきを得る。
「あり、がと」
「う、うん、どういたしまして!それよりここはどこだろう…って、総、正さん!?」
「やっほー!」
「トール!光!怪我はないか!?」
光を下ろしながら透は総を宥めると、続いて服装に目を見開いていた。
光は自分達の中では比較的フラットだけど、右肩には幾重にもなった桃色と水色の連なった球のようなものが備わっていて痛そうだ。
やっぱり皆、ここが何処か、いきなりどうしたのかハッキリ分かんないのか。
自分は心当たりがあるのだけど、今言ってもさらに混乱するだけだよな…空が死んで、調整者が現われて、異世界に連れていったって言われてもわからないし、そもそもなんで調整者は総達も連れてきたんだ?
うん、これは後で、落ち着いた頃に話をしようか。
となれば総の指した方へ行くのは確定として、はてさて、これからどうするか…まず言葉が通じるかだし。
…うん、それも後で考えるってことでいっか!
「ねえ透、光、とりあえず人がいそうな方へ行ってみない?」
「人?そんなの、わかるの!?」
「正も、ここどこか、わかんないの」
自分は軽く頷くと、光は深くは聞かずに自分が指差した方へ歩き出す。
「いこ。」
「…………」
「どうした、の」
自分と総と透は思わず唖然とする。光の適応能力の強さに驚くしか出来なかったんだ。
だって、こんな状況ですぐに歩き出そうと出来るだなんて、才能だよ。
おそらくこの中で一番冷静さを欠いていると思っていた透もすっかり落ち着いたみたいでこくりと頷き「うん、行こう」と答えている。
――すごいや、光は。
そう改めて確信しながら、自分達は慌てて光を追いかけた。
《人が怪我したら、心配する。誰かが賞に入れば、称賛する。
当然、それを私はする。
けれど、何か違って、私の本音ではない気がした。そう思っているのに、それは本を読んでそう思ったのと同じで、つまりは私にとっての第二者にあった事じゃなくて、フィクションのようなんだ。それに感情移入しているようで、あまり気持ちいい感じではない。
それが明るみになったのは、小学校か…いや、中学校の時?誰かが死に直面した時とか、誰かが真剣に困ってる時。
仕方ないな、これは。とかは思ったりしても、助けたいとか、所謂同情心とかが全く芽生えないんだ。
なんでかは、今は何となくわかるよ。
私は昔、普遍を好んで異常を拒んだ。そのせいで、普段身近にあること以外は全て現実に感じられなくなった。ずっと魔法にかかったみたいだ。
だけど、高校に入学して暫くしてから、時々私はここにいるなって思えることが増えたんだ。ドキドキすることが増えたんだ。
…だけど、やっぱりそれは時々だったから、私は殺されたってことについては怖くない。というか、本当に私は死んだのかな。
首に刃物が刺さったのは、間違いなく夢じゃないと確信できるから。
あ、そう言えば。
最後の最後、耳が聞こえなくなるその前、私を呼ぶ声が聞こえた気がしたんだ。
正ちゃんじゃない誰だっけ、それは……
優しい笑顔で、声が柔らかくて、目が澄んでいて、楽しそうに笑っている顔がかっこよくて、お人好しで、つよくて、それから…
あ。
好きな人の声が、最後に私の耳に響いたんだ。
私は…
もしかして。
もしかしなくても。
好きなんだ、あの人の事。透君の事。
ぐちゃぐちゃで変な気持ちだけど、今となっては私は好きだったんだ。
だからたまに、ドキドキしたんだ。
あぁ、そっか。
そうなんだ。
今更だけど…ちゃんと伝えられればな。
って、こんなことが思えるのも、死んだからなのかもね。最後の最後に私の気持ちに気が付けるのが、殺された私に神様がくれたプレゼント…なーんてね。
って、馬鹿なこと言ってないで、これからを考えないと。死んで尚これからなんて笑えちゃうけど、まずはここがどこから、知らないと。
もしも生きているのなら、どうせなら、好きって気持ちも、伝えてみたいな。
どこかで確信はある。
これはきっと、正しい最善の末だったんだって。私が死んだことも、正しかったって。正ちゃん達は生きているから、それだけで最善なんだ。
…………私にとっては、もしかすると、違ったけれど。》
「ぅわああああぁぁぁぁ!!??!!??」
気がつけば、自分は空で浮いて…ううん、落ちていた。
着々と迫ってくる地面を前に、なんとか体を半回転させて足から着地するよう調整した。
「よっ…と」
なんとか怪我なく地面へたどり着けた…
いや待て、木よりも遥かーに高いとこから落ちて、体どころか足の全てにダメージがないのは、どういうことだ?
それに、ここは…?
自分は辺りを見渡す。辺りは木に囲まれていて、自分が降りたところは偶々何も生えていなかったようだ。
続いて改めて落ちてきたときに見た景色を思い出すと、確かに森に落ちたようだ。
「なんで落ちたんだっけ…そうだ、あの人の光を纏って…」
視界が歪む前、最後に見えたのはあの水色の髪の少女だった。突然現われて、空を救えるって言ってきて、突然魔法?を使ってきて…じゃあここはもしかして、自分の知る世界ではないのかもしれないな。…だとすれば、おそらく透夏さんのノートの異世界、ユミユミが行きたかった世界だろう。
だけどまあ、そんなことどうだっていい。今はとにかく、空をどうにかする方法を…
「…………ァァァァ」
ふと、声が響く。
おそらくここは異世界なんだ、モンスターとかが出たって可笑しくない。
自分はとっさに身構える。…なんにも持ってないけどね!
と、そうこうしているうちにもどんどん声は大きくなっていって、やがてその声の出所がわかる。
…………上か!
「ギャアアアアアアアア!!!!」
「うわああああ!!」
ズサァァァァ!!!!
見上げて、悲鳴を上げて思わず避ける。落ちてきたのは、変わった服を着た誰かだ。雰囲気はずっと知っているものだし、しかも聞き覚えのある声だ。
というか、聞き覚えがありすぎるような…
自分が警戒しつつも近づくと、顔面から突っ込んで砂埃を上げた人はバッと顔を上げて、犬のように顔を左右に強く降る。しかし犬ではないから、それで砂埃がうまく落ちる事もなく、結局手で顔にこびりついた砂を拭くようだった。面白かったから動画か写真に納めたい。
って、そんなことより、これほど自分が写真に納めたくなるような行動をするのは一人しかいないじゃないか!
「総!」
そう言ってからしゃがみこんで顔を覗き込むと、そこにはやっぱり見慣れた顔がある。
「…ん?おお、正!!見慣れない服だな!それにしても、さっきまでトールといたはずなんだがいやここどこだ!?」
「忙しそうだねぇ」
「そっちは呑気だな!?」
「まあねぇ」
余裕はないけど、これほど慌てた総を見れば大概の人間は落ち着くだろう。寧ろからかいたい衝動にだって駆られるはずさ。
ともかく自分は落ち着いてきて、そこで初めて服がきていたものと違うことに気がついた。説明が難しいが、とにかく変わった総同様、服装みたい。ただ、着心地はいい。
「あ、でも異世界って感じでいいかも」
「異世界?」
「うん、ここ、異世界っぽい。」
「異世界!?ちょっと面白そうだな!」
…総がこういう時、軽…フラットな人間でよかった。
にしても、と自分は一回転してみる。服が軽くて、動きやすい。
特に…ヒラヒラする半透明のマントが気に入った。試しに右手を水鉄砲の形にして見ると、案外様になる。まさに異世界って感じがするや。
「どお、どうかな総?」
「いいんじゃないか?でもどうやってキラキラは出してるんだ?」
「ん?キラキラ?」
そこで自分は初めて知った。
銃の形を象った自らの指先から、カクカクしたト音記号と…一度か二度か見たことがある丸い光が輝いている。
「これは…」
自分の手から、知らないものが出ている。これって結構ヤバイんじゃ…
「こうしてみると、確かに異世界っぽいな!」
そう言う総は、両手にトライアングルで赤い光を宿している。まわりには、自分よりも小さくはあるが小さな球が光を帯びていた。
「適応能力、高!!」
「ふふん、まあな!」
総が出来るならまあ、それほど気にすることではないのかな…?
というかすごいわからないことが山盛りなのに、いつの間にか不安なんて気持ちが吹っ飛んじゃった。
「あ、そうだ総、怪我してない?顔面から落ちてたでしょ」
「え?確かに…頭から血出てないか?」
「髪が赤いからなんとも…」
「ん、そうか…まあ大丈夫だろ!俺、運良いし!」
――運だけじゃどうにもならないと思うけど。
けどあまりにも自信満々に言うから、そう言うのは止めといた。
にしても総は他人に対しては異常に心配症なくせして、自分には無頓着だな。
そんなことを考えながら、自分は総をまじまじ見ていると、総は少し照れてから両手を合わせ叩いた。
「ともかく、今残された謎は服が違うのと、ここが異世界だとしても、何処か分からないことと魔法みたいなのが使えること!問題は、これからどうするかだな!」
「問題が高層マンションだね」
「最近隣の隣の町に建ったよな」
「全然町の雰囲気似合ってなかったよね!」
…っていかん、話がすぐ逸れる。
「とりあえず、移動してみようよ。ここにいても分かんないし」
「そうだな、ただし音には気を付けていこうぜ」
総は耳に手を当てる。耳がいいから、どこに何がいるか分かるかもしれない。
「どうどう、半径何メートル以内なら安全圏内?」
「俺も人だからな、そんなに正確じゃないぞ…」
期待をさせないように言ってから、暫く総は目をつぶる。
見るに、本気で集中すれば、細かな音も聞こえるらしいな。
「…………うん、半径二…二・五キロくらいは大丈夫じゃないか」
「思ったより正確!さすがは総!」
自分は思わず総に抱きつく。性別的な差はあれど、総に関しては全く関係ないと思ってるんだ。
それは総も同じで、抱きつかれた方も何食わぬ顔をしながら目の前を指差した。
「この先。きっと集落があるぞ。」
「そんなんもわかんの!?」
「直接はわかんねえけど、近くの木とか草の音が人が大勢いるからきっと木が多く切り崩されてる。そのお陰で音の届き方が他と違うんだ。鳥さ…鳥の声も少ない。」
「おおお…」
自分は総の背中を押して、すぐに向かおうとする。
その時だった。
「正、避けろ、上!」
「うん!」
「…うわああ!」
「その声、もしかしてトー」
自分は総の声に驚き、とっさに総の手を引き後方へ飛ぶ。
けれどその後すぐ、総が言いかけた言葉もあって何となく察した。土埃が舞って前が見えないうちから、その落ちてきた人物に予想がつく。
「ゲホッ、ゴホッ、な、何…?」
土の煙が晴れてきた頃、ようやく姿が見える。メロンのような髪色に少し高い声の透だ。案の定服装も変わっている。
両足でしっかりと着地できたみたいだけど、目を右腕で隠しつつ左手で土を追い払う少年はまだこちらに気がついてないみたいだ。
「わっ」
透がまだこちらを見ないうちから、また頭上から声がする。
今度はチャッと上を見上げると、これまた見慣れた髪が揺れている、光だった。
透の真下に落ちてきた光は、見事に透に受け止められて事なきを得る。
「あり、がと」
「う、うん、どういたしまして!それよりここはどこだろう…って、総、正さん!?」
「やっほー!」
「トール!光!怪我はないか!?」
光を下ろしながら透は総を宥めると、続いて服装に目を見開いていた。
光は自分達の中では比較的フラットだけど、右肩には幾重にもなった桃色と水色の連なった球のようなものが備わっていて痛そうだ。
やっぱり皆、ここが何処か、いきなりどうしたのかハッキリ分かんないのか。
自分は心当たりがあるのだけど、今言ってもさらに混乱するだけだよな…空が死んで、調整者が現われて、異世界に連れていったって言われてもわからないし、そもそもなんで調整者は総達も連れてきたんだ?
うん、これは後で、落ち着いた頃に話をしようか。
となれば総の指した方へ行くのは確定として、はてさて、これからどうするか…まず言葉が通じるかだし。
…うん、それも後で考えるってことでいっか!
「ねえ透、光、とりあえず人がいそうな方へ行ってみない?」
「人?そんなの、わかるの!?」
「正も、ここどこか、わかんないの」
自分は軽く頷くと、光は深くは聞かずに自分が指差した方へ歩き出す。
「いこ。」
「…………」
「どうした、の」
自分と総と透は思わず唖然とする。光の適応能力の強さに驚くしか出来なかったんだ。
だって、こんな状況ですぐに歩き出そうと出来るだなんて、才能だよ。
おそらくこの中で一番冷静さを欠いていると思っていた透もすっかり落ち着いたみたいでこくりと頷き「うん、行こう」と答えている。
――すごいや、光は。
そう改めて確信しながら、自分達は慌てて光を追いかけた。
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