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1:バースでの新生活

12:ジェイドの初恋

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シャーロットの父ロバートの同級生ジェイドとシャーロットの母アデリーナの出会いのお話です。





ジェイド デンツが恋に落ちたのは7歳の時であった。

ローヌ王国の北部、海岸沿いに領地を持つデンツ家はスコール王国との交流も多い。スコール王国に父が行くのに、勉強になるだろうと今年貴族学院に入学する次男のジェイドを連れて行ったのは自然なことであった。
スコール王国の父の知り合いの屋敷に到着する。父は、仕事の話もあるから別に行動するからねと、スコール語が堪能な使用人をジェイドにつけてくれた。ややローヌより寒く気候もどんよりと重苦しい感じだったが、驚いたのは、部屋に案内されたら部屋がとても暖かいことであった。

「なんだ、この部屋、とても暖かいぞ」
と驚くと、使用人から
「ジェイド様、スコール国は寒いので暖房機器がローヌより発達しているのです。この暖房機器をストーブというそうですよ」

「へえ、どういう仕組みになっているんだろう」
二人で話していると、

「こんにちは」

とヒョイっと顔をドアから出してきた女の子が微笑んでいる。金髪で青い目をしたお人形さんのような女の子である。「か、可愛い」と心の中で呟く。スコール語で話しかけてこられて驚いたが、ジェイドも簡単な会話はできるように教育されている。

「こんにちは。初めまして。私は、ジェイドと言います。貴方は?」


「私はアデリーナと言うの。ここは、乳母のお家なの。兄様と一緒に遊びにきてたらお客様が来られていると聞いて。小さな子もいるって聞いたので見にきたの」

微笑みながら説明をしてくれる。途中から会話が難しいなと思ったら、使用人が通訳をしてくれた。

通訳をしてくれた使用人を通じてわかったのは、乳母の母に当たる人が体調が悪いとのことで乳母がお見舞いに来るのに付いてきたということだった。普段は、王都よりも北の方に住んでいるらしい。

それから二人でスコール国やローヌ王国について話す。
「まあ、ローヌはここよりもっと暖かいのね。羨ましいわ」

「ええ、夏場は南の地域では海水浴をすることもあるのですよ。そして、果物や野菜、そして魚介類も豊富なのです。バースは花が多くてとても美しいのですよ」
「まあ、素敵ね。一度見て見たいわ」
アデリーナは行ったことのないローヌ王国やバースに興味津々である。

そして、アデリーナには、両親と祖父母、そして兄と弟がいて、今回は兄も一緒にきていること、兄は小さい時から頭が良くて神童と呼ばれていること、代々学者の家系なのだということを説明してくれた。

「へえ、すごいねえ。じゃあ、君も?」
と尋ねると、


「それが、全然!でもまあ、それで良いよとお父様は言ってくれるし、お兄様もその分私が頑張るから大丈夫といってくださっているの。お祖父様は、もしかしたらそのうち素晴らしい才能が花開くかもしれないからなと笑ってくださっているの。まあ、お母様は、お勉強で有名な家に生まれた娘なのにとちょっとお小言を仰ることもあるけどね。」

「ふふふ」とアデリーナは笑う。
「それより、私は、馬に乗って森を散歩したり、お母様と一緒に刺繍したりすることの方が楽しいのですもの。仕方ないわ。」

なんて可愛らしい令嬢なんだ。しゃべっているとドキドキする。これが恋なのかな?とジェイドは思う。

二人で通訳付きではあるが、楽しくはなしていると、
「アデリーナ、どこにいるんだ?」

とアデリーナを探す声が廊下から聞こえてきた。

「あ、お兄様だわ!お兄様、ここよ、このお部屋の中にいるの」
と声をかける。

ドアを開けて入室してきた男の子は、自分よりやや年上の少年だったが、確かに頭の良さそうな少年である。やや暗めのブロンドに青い目をしている。

「アデリーナ、勝手にウロウロしてはいけないと言われていただろう。失礼した。私は、この子の兄で、エドガー クラウンだ。君は?」

「私はジェイド、ジェイド デンツだ。初めまして」

「デンツ殿のご子息か。お父上とは先ほどお会いしたところだ。私より2歳年下とか。よろしく。さあ、アデリーナ、マーサが心配していたぞ。早く戻らなければおやつは抜きになってしまう。急ぎなさい」

「大変! 今日は、マーサがチェリーパイを用意すると言ってくれていたの。ではジェイド、またね」

あっと思った時にはアデリーナが走って出て行ってしまった。

「妹は、落ち着きがなくてね。失礼した。後ほど、夕食の時にお会いするだろう。では失礼する」
アデリーナが出て行ってしまったら、すぐにローヌ語で話しかけてくる。噂通り優秀らしい。

どうしようかと思っているとメイドが呼びにきてくれ父のところに案内される。

「おお、ジェイド、こちらは、この屋敷の主人、プレストン伯爵だ」

「ジェイド様、初めまして。本日は、我が国へようこそいらっしゃいました。お父上とは、仕事仲間でもあり同時にチェスの好敵手でしてな。後ほどチェスをするのを楽しみにしているのですよ。ジェイド様も嗜まれるとか。お父上も将来を楽しみにされておりましたよ。」

プレストン伯爵は流暢なローヌ語で話しかけてきてくれる。

「ありがとうございます。ですが、父にはまだまだ全く歯が立たないので。後ほどおふた方の試合を横から見せていただければ嬉しいです。そういえば、先ほどクラウン家のご子息とお会いしました。彼とチェスをさせていただいても?」

「おや、エドガー様とお会いになりましたか。彼とはやめた方が良いですよ」

「チェスをされないということですか?」

「いえ、全く逆です。強すぎるのでね。必ず負ける相手としても仕方ないでしょうという意味です。私がハンディキャップをもらっても太刀打ちできないのでね。」

「なんと、プレストン殿が全く勝てないというのは驚きですな。さすがクラウン家ですな」

「父上、クラウン家というのはそんなに頭の良い家なのですか?」

「ああ、この国では学者の家系と言われているらしい。」

「ええ、優秀な御一家です。私の妹がエドガー様達の乳母をしているのですが、私の母が体調を悪くしましたので妹と一緒にお子様二人もお見舞いにきてくださったのです。なかなか外国の方が接する事は少ないと思います。」

「では、珍しい機会をいただいたということですね」

ジェイドは、普通なら外国人である自分が会うことがないだろうアデリーナ嬢に会えた自分の幸運さに感謝したのだった。

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