前世で医学生だった私が転生したら殺される直前でした。絶対に生きてみんなで幸せになります 2

mica

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2:ロバートとアデリーナ

脅迫と打算

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その後、騎士団から馬車が横転して脳震盪を起こした、医師にみせていると公爵家に連絡がきて、ジェイドは公爵家に引き取られる。本人から事情を聞いた公爵は真っ青になる。貴族令嬢を乱暴目的で誘拐しようとしたのである。しかもそれがスコール国のクラウン家のアデリーナ嬢である。これが公になれば外交問題である、ジェイドは誘拐で逮捕されるし、そうなれば、ジェイドだけの問題ではすまない。

ジェイドの兄のファビアンも一緒に家族会議が開く。

「全くなんてことをジェイドはしたのだ。」
ため息をつく。

「父上、いくら好きな相手だからと言ってあいつのやったことは犯罪です。」
ファビアンは子供の頃からジェイドがアデリーナのことを好きなのを知ってはいたが、よもやこんな事件を起こすとは思わず呆れる。

「騎士団は、単なる事故ですませようとしており、御者の男には金を握らせました。平民が何を言おうが何とでもできます。しっかり脅しておきました。アデリーナ嬢はケント殿に保護され、そのまま彼女の名誉を守るために二人で駆け落ちしようとしたという形をとったようです。クラウン家のエドガー殿もその方がまだ名誉が守られると考えたのでしょう、受け入れたそうです。ところが、ジェイドが協力を頼んだ下級貴族がこちらを脅してきています。」

「なんだとっ。」

「ゲルトランという男爵の息子です。社交界でばらされたくなければまとまった金をよこせと言ってきました。」
ファビアンはゲルトランと面会した時の事を思い出したのだろう。顔をしかめている。

「ゲルトランといえば、確か、ジェイドと同学年だが、停学処分になって卒業式に出れなかった不名誉な奴ではないか。ジェイドのやつ、なんでそんなクズと繋がったんだ。馬鹿者が。」

机をガンと叩く。

「父上、ジェイドを勘当してください。とりあえずゲルトランにはある程度の金をやるしかないと思います。しかし、ジェイドがいる限りその男は強請ってくるでしょう。我が公爵家に禍根を残すというものです。」

「勘当だと?しかしそうしたらあいつは。」

「ジェイドにもまとまった金をやり、エクアかドルミカのような外国に行かせましょう。もうそこから自分でどうにかするかは本人次第でしょう。これはもう自業自得です。」

公爵は、顔を手で覆う。その手から涙がこぼれ落ちてくる。それしか選択肢はないのかもしれない。
いっそ、拐かしがうまくいけばよかったのか?いや、そんな事になれば、ずっとゲルトランという男から脅迫され続けていただろう。

「好きという気持ちは大切ですが、相手から好かれていないのに執着するなんて論外だ。こんなことで身を滅ぼすことになるとは、我が弟ながら情けない。」

ファビアンは、生徒会長まで務めた優秀な弟を誇りに思い、一緒に領地を盛りたてて行こうと決心していたのにと思うと悔しくて仕方ない。

公爵は思う。
ジェイドも愚かだが、ゲルトランという男が唆さなければこんなことをしでかさなかったのではという思いもある。いつか、ゲルトランのやつに天罰が下るに違いないと思うしか今はできない。下手に復讐でもすればあの男は社交界で何を言うかわかったものではない。

いつか・・いつか、あいつに復讐を。

ふうっと大きく息を吐いた後、父親の顔から冷静な公爵家の主の顔になる。

「お前のいう通りにしよう。手配してくれ。」

「御意」
父の決断にファビアンは頷いたのであった。







しばらく社交界はロバートとアデリーナの駆け落ち騒動の噂で持ちきりであった。
当然、キャロラインも女学院で尋ねられるが、知っていることはわずかだ。むしろ、ジェイド様が振られた相手と兄が結婚するのである。初めてその話を聞いた時ショックで気を失いそうになった。

お兄様がアデリーナ様と結婚するのは幸せで良いのでしょうとも。でも私は?ジェイド様から見たら、憎っくき恋敵の妹になってしまうってことよね。

ジェイドから別れの手紙をアデリーナに渡すように言われその通りに手紙をアデリーナのカバンの中に入れておいた。ジェイド様はそれでアデリーナ様を諦めて、アデリーナ様がスコールに帰国されれば、吹っ切れて私と新しく幸せになれるはずだったのに・・

ジェイドが実はアデリーナを乱暴目的で誘拐しようとしていたことなど知らないキャロラインは、ジェイドがロバートのことを恨んで、私とのことも無かったことにしてしまうのではと心配になっている。

そのあと何度もジェイド様に手紙を送っているが返事は無い。

そうこうしているうちに、ジェイド様が外国へ行ってしまったという噂が社交界で聞こえるようになってきた。

「まあ、アデリーナ様のことがショックだったのでしょうねえ」
とか
「あら、随分、色々と身を持ち崩していらっしゃったという噂ですわよ。公爵家から勘当に近かったとか」

「まあ、何をされたのかしらね。自暴自棄ってことかしら」


ひどい、お兄様たちのせいでジェイド様は傷心のあまり外国に行ってしまったのだわ。私が、ジェイド様と幸せになるはずだったのに・・・

兄は領地の教会で二人でひっそりと結婚式をあげた。母は駆け落ちに近いやり方での結婚に恥をかかされたと言って参列しなかった。父とごくわずかな友人が参列したようだった。キャロラインも母に倣って参加しなかったが、無論、理由はジェイド様のことを恨みに思っているからだ。

一年ほど経ってもまだ婚約者は見つからず、とうとう、女学院を卒業する。どうしようかと考えているときに、舞踏会でゲルトランに会った。

「これは、キャロライン嬢、相変わらずお美しい。一曲お願いしても?」

「ゲルトラン様・・」
渋々ながら了解する。最近では、誘ってくれる男性は、離婚歴のある男性や何人もの女性と浮名を流している男ばかりで真剣に自分との結婚を考えてくれそうな人から誘われなくなっていたのだ。これも、きっとお兄様が駆け落ちなんかしたからだと、キャロラインは成績がわるく綺麗なだけと噂されている自分のことを棚に上げて思っていた。

ダンスをしながら、ゲルトランが、
「キャロライン嬢、私の気持ちはご存知でしょう。随分以前からお願いしていたのですから。いかがですか?そろそろ色良いお返事をいただけないでしょうか?」

グッとキャロラインは何も言えない。しかし、このままでは売れ残りである。

「私は男爵ですが、色々なビジネスをしておりますのでね。羽振りは良いのですよ。領地は無いかわりずっと王都におります。あなたに贅沢させてあげれるというものですよ。」

確かに、ゲルトランが何の仕事をしているのかわからないが羽振りが良いのは耳にしていた。
仕方ない、もう他に相手がいないのだ。兄様は停学処分になったこともあるやつだと反対していたけど、そもそも兄様だって駆け落ちなんて貴族としてはどうかと思うことをやっているのだから。私のことをとやかく言える立場にないはず。

「わかりました。プロポーズを受けますわ。ずっと王都で贅沢させていただけるという言葉、忘れないでくださいな」

キャロラインは、ゲルトランの羽振りが良いのはジェイドとその家族を脅して手に入れた金のおかげだということを全く知らなかった。

胸もでかくて見た目は抜群なこの高慢な女、きっと贅沢さえさせれば自分のいうことを何でも聞くに違いない。ゲルトランはそう考えキャロラインをずっと狙っていたのだった。ロバート、お前は、私の兄上になるのだ、さぞ、屈辱的だろうな。ざまあみろ。そして、いつか、きっとお前を破滅させてやる・・ゲルトランはほくそ笑んだのだった。


キャロラインは、その後ロバートの猛反対を無視して、心優しい父親と王都の母親の了解を手に入れてゲルトランと結婚したのだった。

それが、将来の災いとなることをも知らず・・・・



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