歩道橋の少年

やぼ

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そして

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あの橋まで先に行って、家が
崩れる前に助けられないだろうか。

私がそう思って走り出すと
少年も一緒に走り出した。

そして、その姿は少年から
成人した父に変わっていた。

若々しい、私が子どもの頃に
見た父だった。

強くて、頼もしい男に見えた。

今は、そんな面影もないくらい、弱々しく、痴呆もあった。
そして、倒れた。

「まさと、一緒に助けてくれるか」

「ああ」

橋にたどり着くと、2人で
酷い嵐の中、橋の欄干から、濁流に流されてくるイサムの家を見つめていた。

いよいよ来る。

「イサムだけでも助けたい」
父がつぶやく。

「イサム~、掴まれ~」

身体を身を投げるように
逆さになる父。

私は父の両足を持って、支えた。

嵐で、身体はずぶ濡れで
両手がかじかんで痛い。

父は、身体を逆さまに
手を伸ばす

「イサム~掴まれ~」

イサムくんをイサムくんの父親
が持ち上げて、父は彼の手を
掴んだが、

グガガガ、っと家は橋にぶつかり、崩れた。

「ゆきちゃん、もういいよ」

父の身体が大きく揺れたが
イサムくんは、父の手を離して
濁流に飲まれていった。

「まさと、手を離してくれ」

「何言ってるんだ、父さん。
もう諦めろ」

私は、吹きすさぶ嵐の中で
叫んだ。

父は、足をバタつかせて
私の手を蹴った。

「痛ッ」

思わず手が離れた、と
父は、そのまま濁流の中へ
飛びこんでいった。

父さん。

♫♫♫

耳元で、

携帯が鳴った。

今、父が亡くなったと
母からの電話だった。


終わり。


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