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3話
その日、セレガは朝から熱っぽさを感じていた。なかなかベッドから起き上がることができず、ぐずぐずとしていると、メイドが乗り込んできて有無を言わさずに彼をベッドから拉致した。
セレガは風呂に放り込まれ、いい香りのする石鹸で全身を磨き上げられ、伸ばしかけの髪を結われ、豪奢な衣装を着せられた。通常ならばメイドたちの見事な仕事ぶりに舌を巻くところだが、セレガは眉間を押さえて険しい顔をしている。
彼は石鹸の香りや、髪に塗ったオイル、それから衣装に吹き付けられた香水のひとつひとつの香りがやけに鼻に残って嫌な気分になっていた。あまつさえ頭痛までしていた。
「なぁ、今日、休みたいんだけど……?」
「いけませんよ。今日は大事な日なんですからね」
セレガの懇願は一蹴された。セレガはため息をついて鏡を覗き込んだ。そこには派手に着飾った自分がいて、さらにため息を誘う。
「この衣装、派手すぎないか?」
「これくらいでいいんです。ハンストン様の叙勲式なんですよ? 後見のガラケレム家にとって大きな晴れ舞台です。坊ちゃんも、オメガと診断されてから初めての公の場でしょう? 気合を入れなくては」
「晴れ舞台ねえ……」
セレガは眉間に皺を寄せた。
セレガに言わせれば、決して今日はガラケレム家の晴れ舞台ではない。ガラケレム家がハンストンを育てたわけではないからだ。
「ただ拾って餌をやって風呂にいれたら懐いた。それだけでまるで自分の手柄みたいに見せびらかしてさ、滑稽じゃないか?」
「ま、坊ちゃんはいつからそんな小難しいことをおっしゃるようになったのかしら」
セレガは肩を落とした。
ハンストンは騎士に叙されることが決まった。歴史の中にドラゴンを倒した騎士はいても、ドラゴンを使役した騎士ははじめてのことであり、ハンストンの後見にガラケレム家がつくことを求められた。
セレガに言わせると、ドラゴンが何か問題を引き起こした時に責任を取らせやすい末端の貴族として引っ張り出されたとしか思えないのだが、セレガの父は狂喜乱舞した。
それは、ハンストンが年600ゴールドの給金を提示されたからである。ガラケレム家の収入5年分に相当するほどの金を毎年得ることになるハンストンと繋がりを欲して、父は二つ返事で書類にサインをした。
ガラケレム家を興した曾祖父、その家を発展させた祖父と続き、生まれながらの貴族であった父は野心は受け継いだものの、貴族らしい鷹揚さを身につけてしまっていた。
*
王宮の大広場で叙勲式は恙なく執り行われた。叙勲式でのハンストンは素晴らしかった。彼は背筋をしゃんと伸ばして、優雅に礼をした。腰には勇者の剣を佩いている。非の打ちどころのない所作で歩き、膝をつき、国王への忠誠を誓った。
大広間は割れそうなほど盛大な拍手につつまれた。
式が終わった後、セレガは馬車のところでハンストンを待っていた。準備のためにハンストンは前日から王宮に詰めていたが、帰りは一緒にと父に言われていたのだ。
御者と軽口を叩き合っていると、ハンストンがやってきた。
ハンストンは少し小首を傾げたあと、すん、と鼻を鳴らした。
「……セレガ、いい香り」
「ん? あ、ああ。俺は石鹸やらオイルやら香水やらで鼻が曲がりそうだ。ほら、乗れよ。疲れただろ」
「ありがとう」
馬車に乗った途端、セレガは頭がくらりとなるのを感じた。馬車の中になにか得体のしれない蛇が潜んでいて、それに全身巻きつかれたような、そんな感覚だった。
セレガの体はずるずると座席に沈んでいく。
そのセレガが重い瞼を押し上げると、目の前にハンストンがいた。スミレ色の瞳がじっとセレガを捉えて離さない。
「あ……」
その瞳がセレガの体に熱をともした。セレガは熱に浮かされ、ハンストンに手を伸ばした。そしてその中指が頬に触れた瞬間、はじかれたように2人は唇を合わせた。
「ん、ふぅ……」
「あ……」
呼吸を忘れてお互いを貪った。
ハンストンは服を脱ぐ手間も惜しいと、美しい衣装を破り捨て、セレガの上にまたがった。セレガは男に組み敷かれているという通常ならば抵抗したであろう状況を心から歓迎し、自分からベルトを外した。
「ああ!」
セレガはハンストンの股間の熱いものをたやすく飲み込んだ。
「セレガ……」
腰を叩きつけられて、馬車が揺れる。セレガは揺さぶられて、一突きされるごとに理性が溶けていく。だらしなく口を半開きにして、足をさらに開いて奥へと招き入れる。
「あ、ああ、ああ……」
セレガは発情していた。彼は濃厚なフェロモンを撒き散らし、すべてのオメガがそうであるように、尻で男を銜え込み、切ない声を上げて腰を振った。あまりの興奮で、セレガは涙を流した。
「あああ!!」
「つっ、―――う、ああ……」
奥にハンストンの精子を注がれて、セレガは目を閉じた。これでようやく彼の体の熱の高ぶりが鎮まる。
しかし、極限状態にあったハンストンは止まらない。
「あ……まっ……」
セレガが制止するより早く、ハンストンはセレガのうなじに噛みついた。
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