ドラゴン食堂~異世界転生したら偏食なドラゴンの番になりまして~

深山恐竜

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第1章

第1話 俺の異世界転生がハードモードすぎる件

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 わあああああん!

 俺――小林ヒカルは空気を吸い込むと、思いっきり泣き叫んだ。
 わけもわからず、ただ泣いた。

 ペットの亀(名前はカメ子)とイグアナ(イグ男)を健康診断に連れて行く途中で、トラックがこちらに突っ込んできたところまでは覚えている。
 おそらくそれに轢かれて病院に運び込まれたのだろうが、不思議といまはどこも痛くない。
 しかし、俺の口は俺の意志とは関係なくわあわあと叫び続けている。

 頭の中がぐちゃぐちゃで、一回落ち着きたいのだが、さっきからせわしなく体をこねくりまわされていてちっとも落ち着けない。
 頑張っても目が開かなくて、手足も思うように動かせない。
 ちゃぷちゃぷと水の音がして、それから体の上を布が行き来する感覚があった。どうやら体を洗われているようだった。

 洗われている? なんで? こんなに泣き叫んでいるんだからお風呂はあとにしてくれよ?
 看護師さーん? それともお医者さん? とにかく一回落ち着かせてほしいんだが。あと目が開かないんだけど、これどうなってる?

 戸惑っているうちに、ついに人の声が聞こえた。

「生まれたか。ヒヒッ……」

 妙に下卑た男の声だった。アニメでいうところの、いわゆる鉄砲玉みたいな笑い方をする。
 少なくとも俺の記憶にある声ではない。その声はまた続ける。

「性別は?」
「男の子です。小さいですが、よく泣いて……いい子ですよ」
 別の声――妙齢の女の声――が答えた。

 んん? 男の子? よく泣いて?
 それを聞いて、ふたりが俺のことを話しているのだと気が付く。
 だとすると「生まれた」ってなんぞ?
 俺はもう生まれて早17年。立派な高校2年生だ。生まれたことを語るにはちと遅い。

 俺の混乱をよそに、ふたりは会話を続ける。
「おお、そうかそうか。それはいい。貴重なスキル持ちの血筋の子だ。お貴族さまたちも喜ぶぞ」
「あの、代金は……」
「もちろん、払うとも。さあ、受け取りなさい」
「ありがとうございます」
「さあ、その子をこちらに」

 ――あれ? もしかして俺の売買の話をしている??

 直後、体が湯の中から引き揚げられ、布にくるまれたと思ったら、狭いところに押し込められた。
 思わずひゅっ、と息を飲み込む。それでやっと泣きわめいていた口が閉じることができた。

 お、落ち着け俺。
 わけがわからないが、とにかく逃げた方がよさそうだ。
 目に力を入れる。目を開かないことにはなにもわからない。
 瞼を開けようとしても、いや瞼はもう開けているはずなのだが、やっぱりなにも見えない。

 うう~。見えるようになれ~。見えるようになれ~。なんとかなれ~。
 心の中で唱えると、脳裏に無機質な声が響いた。

『スキル【天眼】を取得します』

 へ? と思った次の瞬間、急に目の前が明るくなった。

 それは不思議な体験だった。
 目で見るのではなく、周囲の光景が映像となって脳に送り込まれてきたのだ。

 こじんまりとした部屋だった。
 窓の外から紫紺の光がうっすらと差し込んできている。ちょうど夜明けのようだった。
 俺はその部屋を高いところから見下ろしている。

 女の人が簡素な木のベッドに寝ていた。ぐったりとしていて、額に汗で髪が張り付いている。
 そしてその傍に、頭にスカーフを巻いた恰幅のいい女の人が3人。彼女たちのエプロンには血が……血がついているよおおおお!?

 どう見てもお産直後の部屋すぎる!
 内心でひぃ~と情けない悲鳴を上げていると、その部屋に似つかわしくない男が視界に入った。
 男はひげ面で、ゲームなら序盤に主人公に絡んでくるタイプのヤンキーに見えた。
 その男は部屋の入口近くに立っていて、片手にバスケットを持っている。
 その小さなバスケットの中に赤ん坊が入れられている。

 そこまで見て、俺はやっと異変に気が付く。
 あれ、全員外国人じゃね???
 この部屋にいるのは全員ほりが深く、外国人みたいな顔をしている。
 平均的な日本人である俺の姿はない……。
 ――あれ? 俺はどこだ?

 そのとき、ぎゅん、と視点が動いて赤ん坊がアップになった。
 おお! 視点が動かせるのかと大発見。
 視点よ動け~と念じると、右に左に視点は自在に動いた。ちょっとゲームみたいでおもしろい。
 たっぷりと部屋をすみずみまで見渡す。

 しかし、やっぱり部屋には俺はいない。いま見ているこれは幻覚なのか?
 だとしたら俺はいったいどこにいるんだ?

 そのとき、また視点がぎゅんと動いて赤ん坊がアップになる。
 ぷにぷにのほっぺ、もみじの手、こっぺぱんみたいな腕。

 ……あれ?
 俺はまた視点を動かす。今度は窓の外を見る。遠くに羊の群れが見えた。
 そしてまた心の中で「俺はどこ」と尋ねる。
 また視点はぎゅんと動いて赤ん坊を映した。

 それを数回繰り返して、やっとやっと俺はそれを受け入れた。

 ――エエエエエエッ!? 俺、赤ん坊になってるううう!?
 
 落ち着け落ち着け落ち着け!
 これはまさかまさかまさか……!

 ――異世界転生ってやつ!?

 違うよな!? 違うよな!? 
 もう一度自分の姿を見下ろす。声を出してみると、同時にその赤ん坊のぷるんとした口から「だあ」と実に赤ん坊らしい声が出た。
 嘘だと言ってくれー!?
 おまけにスキルってなんだ!? 取得しちゃったぞ!? 大丈夫か!?

 パニックになる俺をよそに、男はバスケットを抱えて部屋を出る。
 建物を出ると馬車が止まっていた。
 御者の男は帽子をあげて挨拶をして、それからバスケットをちらと見た。

「生まれました?」
 ひげ面の男は上機嫌で答える。
「ああ。男の子だ。生まれたては高く売れる。さっさと行って売っちまおう」
「ははは。お貴族様はわからんもんですな」
「まったくだ。なんせ赤ん坊の内臓を食べちまうんだから」

 なんて????
 内臓を、なんて????
 食べる????
 フワイッ!?
 えええ? 人生ハードモードすぎないか?? 死ぬのか? 転生直後に死ぬのか?

 一瞬で異世界転生の驚きも吹っ飛ぶ。
 百歩譲って異世界転生はもういい。なんかそれどころじゃない。
 そんなことよりもここから逃げることを考えなくてはならない。

 俺は再び心で祈る。
 いくら俺が陰キャだったとはいえ、Z世代としてゲームくらいは履修しているのだ。
 いまわかっていることは、この世界はスキルが付与される世界で、おまけに祈ればスキルがもらえるということだ。
 ならばやることはひとつだろう。

 動けるようになれ~。魔法が使えるようになれ~。空が飛べるようになれ~。火が吹けるようになれ~。なんとかなれ~。
 思いつく限りの願望を並べ立てる。
 しかし、先ほどの無機質な声はもう聞こえなかった。

 なんっでだよおおおおお!?
 さっきは簡単にスキル取得できただろうが!!

 焦る俺を乗せて、馬車はなだらかな丘を下り、森へと入っていく。
 この馬車が目的地につくまでになんとか逃げ出さなければならない。

 落ち着け。
 とにかく、取得したスキルの確認だ。

 ――スキル【天眼】

 名前の通り”見える”スキルだろう。まだ生まれたてで視力がないはずの俺でも部屋の様子を見ることができた。あと、「俺はどこ」と念じたら自分がアップになったことから、見たいものを念じたらそれをアップで見させてくれる、と考えてもいいだろう。

 ……いまのところそれくらいしかわからない。
 ここでゲームならステータスやヘルプ画面でスキルの詳細がわかるはずだが……念じてみてもそれらしいお助け機能は現れない。
 手探りでやっていくしかないようだ。
 
 ぐっと目に力を入れると、再びスキルが発動して馬車の中の光景が見えた。

 馬車の座席は向かい合うようにして4人分。
 ひげ面の男は進行方向を向いて座り、窓に頬杖をついて居眠りをしている。
 私が入れられたバスケットは男の隣、ドアのあるほうに置いてあった。

 次は馬車の外に意識を向けてみる。予想通り、容易に馬車の外を見ることができた。
 馬車の外は見渡す限り森、森、森……人の助けは期待できそうになかった。
 馬車の進行方向を見てみる。
 数学の問題に出て来る動く点Pのように、視点はゆっくりと、そして直線的に動いていく。

 森を抜けると、その先は山になっているようだ。
 山の斜面にぐねぐねと道――といっても馬車がぎりぎり通れるくらいの幅しかない――が通っていて、それが山の向こうにまで続いている。
 山の向こうも見たかったが、さすがに遠すぎるのか、ある地点から遠くには視点が動かせなかった。
 しかし、学校の視力検査なら2.0どころかマサイ族も望遠鏡もびっくりなくらいには見えている。
 陰キャ眼鏡だった俺としてはクリアな視界に驚きの連続だ。

 俺は再び山のこちら側に視点を動かす。
 血眼になって砂利の道、針葉樹林、道草を見て助けとなるものを探す。

 そのとき、ふと道を行くふたり連れの旅人が目に入った。
 彼らは紙を見ながら何事かを話している。
 第一村人発見! と意気揚々と耳を澄ませてみるが、スキル【天眼】は音は拾えないらしく、会話の内容まではわからなかった。ちくしょう。

 しかし、男らの手に持っているものはよく見えた。
 それは手配書のようだった。大きな文字に、イラスト――ドラゴンが描かれていた。
 男らは渋い顔で山を指さし、また手配書に目を落とす。

 ……うん。さすがにわかるよな。
 山にドラゴンがいるってことでは!?
 それは見てみたいぞ!
 だってドラゴン! 異世界転生したんだからな! ドランゴンは男の夢じゃん!
 
 な~んて、呑気なことを考えたそのときだった。
 ぎゅんっ、と効果音が聞こえそうなくらいに急スピードで視点が動き、ある地点でぴたりと止まった。
 そしてそこには。

 ――……ワ~オゥ、ドラゴ~ン。
 スキルのこの機能、忘れてたぜ……。

 そこにいたのはいかにも異世界出身ですといった翼をもつドラゴンだった。
 そいつは崖の下にへばりつくようにいして身を伏せている。
 うろこは鏡のようで、周りの風景を反射して周囲に溶け込んでいる。
 保護色とかいうやつだろうか。何も考えずに見たらドラゴンがそこにいることを見逃してしまいそうだ。
 おそらく、このスキルのおかげで見やすくなっているのかもしれない。

 ドラゴンは目を瞑り、静かに眠っている。
 その体には葉が落ち、さらにその姿を見つけにくくさせていた。
 ――もしかして、隠れてるのかな。
 なんでだろう。
 疑問を抱いた瞬間、また視点がぎゅんっ、と動いた。そしてドラゴンの足元がアップになる。

 おぉ、生傷だぁ……。
 ぱっくりと、痛々しい傷。

 ひぃ、かわいそう。
 しかしいまはそれどころじゃない。スキルだ、スキル。
 さっき「なんでだろう」と思った瞬間にその答えであるこの傷がアップになった。
 つまり、このスキルにはそういう機能もあるということだ。

 ふむ。スキル【天眼】そんなに悪くないかもしれないぞ。

 おかげで逃げ出せるかもしれない。
 俺はうなずき、すう、はぁ、と喉のウォーミングアップをした。



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