【完結】つがいごっこ~本物の番と再会したら偽物の番になりまして~

深山恐竜

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第3章

第29話※

 宛がわれたそれは熱く、硬く、大きかった。
 腹を押し広げて、それが挿しこまれていく。 
「あぁ……んぅ、ふっ……」
 しびれるような感覚。
 足先にまで力がはいり、ぴんと伸びる。
「あっ……雅……」
「入りました……」
「……っ」
 昂る雅のそれを感じる。

 さきほど、雅はなにを言いかけたのだろう。
 「僕は――」に続く言葉を夢想する。
 雅も、もしかしたら俺と同じ気持ちでいてくれているのだろうか。
 そうだ。そうかもしれない。
 だから彼は部長をあんなに気にしていたんだ。
 もしかして、雅も俺のことを――。

 そのとき、雅は感極まったように言った。
「泰斗さん、ああ、すごく、いい匂いがする……」
「へ、ぁ……?」
 後頭部を殴られたように、俺は目を見開く。
「俺、匂う?」
 雅は俺の首筋に鼻を摺り寄せる。
「いい匂いです。ああ、この匂い……なんだろう、とても……とても」
 雅の声はどこか浮ついている。
 アルファは、オメガの発情期に発する匂いに狂う。
 オメガのその匂いは発情期にだけ発せられるというが、雅は出会ったときにも、発情期前の俺の匂いを嗅ぎ当てていた。

 俺は背筋が冷たくなるのを感じた。
「……雅、1回抜いて……」
「泰斗さん、もっと、もっとつながっていたい……」
 18歳でアルファとして成熟するまえに俺を番にした雅は、きっとオメガの匂いに慣れていない。
 まして、こんなことをしたら、なおのこと。

「はやく抜けって。お前、オメガの匂いにやられてるぞ」
 真実を知ったら、きっと後悔する。
 知らないうちに、匂いで雅をたぶらかしてしまった。
 まるでだまし討ちだ。

 しかし俺の言葉を無視して、雅はそれをぐりぐりと奥へこすりつける。
「く……っ……」
 思わず背中が反る。
「泰斗さん」
「雅、だめだ……」
 ゆっくりと、具合を確かめるように雅が腰を引き、またそれを奥へ突き立てる。
「あっ」
 俺の声が漏れると、雅は腰を振りはじめた。
「ああっ! やっ……! あっ……」
 浅く、深く、何度も何度も奥を突かれる。
「やめ、ろ、ってぇ……!」
「ああ、いい……泰斗さん……泰斗さん!」
「ば、ばかやろ……っ!」
 雅が乳首に吸い付く。

 雅が動くのにあわせて、ぐちゅぐちゅと水音が生まれる。
「雅、ほんとに!」
 叫ぶ俺を無視して、彼は俺の足を抱えなおすと、いっそう激しく奥を突いた。
 いやらしい水音に、ぱんぱんという肌と肌がぶつかる音が重なる。
「うわあっ……、あ……あ」
「泰斗さん! 僕、僕、もう、気持ちよくてっ……」
「……雅……やめろ、抜いてくれ……っ」
「……いやです」
 雅は俺の腰を高く持ち上げ、そのまま真上から腰を打ち付ける。
「あっ……ああ……ぁあっ」
 目の前に星が散る。

 このままではいけない。
 雅は完全にオメガの匂いにやられて理性を失っている。
 俺は身を捩って這うように逃げ出そうとする。
「逃がさない……」
 しかし、それは容易く雅に抑え込まれる。
 雅を見上げると、彼は鬼のような形相でこちらを見ている。
「ぁっ……」
 喉から、音にならない悲鳴がもれた。
 抵抗しようとした腕は、ひとつにまとめて押さえつけられる。

 雅は低くうなる。
「なんで逃げるんですか」
「俺、なぁ、お前、オメガの匂いにやられてるだろ……1回やめよう、話さないといけないことが、あるんだ……!」
「北小路の! ところに逃げるんですか! そんなの! 許さない!」
 雅は叫んだ。
 そして腰を激しく叩きつける。
 容赦のない挿出だった。ぎりぎりまで引き抜いて最奥まで押し込まれる。
「ああ、あっ……!」

 アルファの激高したアルファの匂いが、俺の動きを縛る。
 俺はもう指一本動かせない。
 壊れた人形のように、俺はただ彼に揺さぶられて喘ぐ。

「泰斗さんっ、泰斗さん!」
「ああっ……あああ! あ……!」
「くっ……」
「ああ、ぁ、ああっ!」
「泰斗さん、出しても、中に、いいですか? いいですよね?」
 雅のそれが腹の奥で大きくなる。
 俺は歯を食いしばる。
「……っ!」
「泰斗さんっ!」
「ああっ!」
 腹の奥に、熱いものが注がれた。





 部屋に充満していたアルファの匂いは、彼の絶頂とともに霧散した。
 助かった、と俺は倒れ込んで来た雅の下から抜け出す。
 1度果てたことで、多少雅も落ち着くはずだ。

 俺はよたよたと立ち上がる。
 床での行為は、さすがに関節にくる。
「床は、よくないな」
 そうつぶやくと同時に、俺のそこからごぽりと雅が放った精がこぼれた。
「……うへぇ」
 オメガは男体でも妊娠ができる。
 しかし、いまの俺は雅のキスと匂いで一時的に興奮しただけで、発情期ではないはずだ。
 俺は呼吸を整える。
 
 雅は床に倒れたまま、呆然としていた。
「おい、雅? ちょっとは冷静になったか?」
 彼はゆっくりとまばたきをしたあと、うつろな声で言う。
「……たいとさん」
「ったく……ほら、しっかりしろ」
 頬を叩くと、雅の目に理性の光がわずかにもどる。
「……すみません」
「おう」
「気持ちよくて……」
「いいって……入れろって言ったのは俺だし……ただ……」
「ただ?」
「……なんでもない」
 言葉を飲み込む。
 「雅が雅でないみたいで怖かった」など、言えるわけがない。

 彼のせいではない。
 俺のせいだ。
 俺の匂いが彼をこうさせたのだ。
 俺は深いため息を落とした。
 番なんだから、こうなる危険性があることは最初からわかっていたはずだ。
 何をやっているんだ、俺は。
 すべては俺の不注意と、慢心と、それから嘘が招いたことだ。
 急速に冷静さを取り戻すと、己の罪深さを思い知る。

 ――泰斗さん、ああ、すごく、いい匂いがする……。
 ――逃がさない……。
 ――北小路の! ところに逃げるんですか! そんなの! 許さない!

 うなじに手を当てる。
 あのふだん冷静な雅が、あれほど激昂するとは。
 これが、番というものの力なのだろうか。
 自分の自由欲しさに番を継続したが、それはとんでもないことだったのかもしれない。
 下手をすると、雅の人格さえも変えてしまうような。

 雅は立ち上がる。
「……ベッド行きますか」
「……行かない。もう手伝いはいらない。それに……いま、俺からオメガの匂いがするんだろ。こんなところに来たのも、さっきのも、ぜんぶお前の意志じゃないかもしれない」
「僕の意志です」
「どうだか」
 雅は鼻をすんと鳴らす。
「泰斗さん、発情期が近いんですか」
「……お前には関係ないことだろ」
「……僕に、発情期を任せてみるつもりはありませんか。どういうわけか、僕にもあなたの匂いがわかるんです。きっと、相性がすごくいいのかも」
「だめだ」
「……」

 雅はおもむろに首筋に顔を寄せる。
 そこに歯が当たった気がして、俺はぎょっとする。
 飛び退いて雅を振り返ると、雅はちょっと傷ついたような顔をしている。
 なんでそんな顔を。
 いや、それすらもオメガの匂いがそうさせているのだろうか。

「雅、もう今日は俺に近づくな」
「……は、はい……」
 俺は床に散らばった服を急いで着る。
 つられて、雅も服を――といっても彼はほとんど乱れていないが――整える。

「あの、泰斗さん、シャワーを」
「いい。このまま帰る。お前はここで2時間くらい休んでから帰って来い」
「待ってください、そんな、いっしょに帰りましょうよ」
「だめだ」
 強く言うと、雅は肩を落とす。

「中に出してしまって、ごめんなさい。……怒ってますか」
「怒ってない。俺のせいだ。いまはほら、匂いでお互い冷静じゃないから、別々に帰るってだけだ」
「……すみません」
 彼は泣き出しそうだ。
「雅」
 俺は懸命に笑ってみせた。
「お前のせいじゃない」
「……あなたは、優しすぎます。僕のこと、怒ってくださいよ」
「……優しいかどうか、わかんねぇぞ」

 震える声を振り絞る。
「俺は、お前のことを騙している大悪党かも」
「許します」
 今度は雅が強く言い切る。
「もしあなたが大悪党で、僕どころか世界中を騙していても、僕はあなたを許します」
 彼はまっすぐに俺を見つめていた。
 しかし、俺はその目を見られなかった。
 オメガの匂いが、いま彼を狂わせている。

 俺はため息をついた。
 オメガを抱いたことが彼の自信となってくれたらいい。
 そして、オメガ恐怖症が治ったら、もっといい。
 そして、ほんとうに、幸せになってくれよ。
 俺はそこまで、見届けられそうにないけど。

 こうなってしまったいま、もう俺は雅の傍にいられない。いるべきではない。
 俺は、雅に真実を告げて――別れを告げるときがきたのだ。
 その前に、嘘の後片付けをしよう。
 雅にそっと近づく。
 そして、彼の肩に落ちている茶色い髪の毛をそっとポケットに入れた。
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