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第三章「苦愛離暫別(くあいはなれるしばしのわかれ)」
【魂魄・参】『時空を刻む針を見よ』21話「女王葛葉」
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ハルはなにかに閃いて逃げるのをやめた。
すると立ち止まる彼の腹をキザシが刀で横薙ぎし、トキが巨大なマサカリで今にも頭を打ち砕こうとする。
けれど、ハルは自信をもって叫んだ。
「ボクは仲間を信じるッ、キザシとトキがこんなことするハズないッ」
叫ぶと二人は皮一枚で攻撃を止めた。
二人はまったく動かず、しばらくすると砂のようにボロボロと崩れ落ちた。そしてハルを取り巻いた白い空間は、まるで熱湯をかけた雪のように溶け始めると、その先には豊かな緑に包まれた空間が広がっていた。
「ここは……」
「信他の森。第一の扉を開き、第二の試練を抜けた者は久しぶりです」
ハルの前には真っ白な美しい狐がいた。その白狐はハルを見て少し驚いた表情をしたが、すぐに真顔に戻ると、ゆったりとした口調で質問した。
「貴方たちが危険でない事はわかりました。目的はなんです」
「僕たちは法性の兜をお借りしにきました。仲間を助けるために大陸へ渡りたいんですッ」
ハルが叫ぶと白狐は青い目を丸くして驚いたが、虚空から見事な装飾の兜を出現させるとハルに見せた。
「これは易々と渡すわけには参りません。そうですね……最後の試練を与えましょう。これを持つに相応しいかどうか……お前の力を見せてみなさい」
すると白狐は立ち上がると小さな躰を巨大な狐に変化させていく。
それは九つの尾を持つ妖狐、封印したはずの月の病――九尾狐だった。
「な……なんで」
ハルはガクガクと震えて立ち尽くす。禍々しく邪悪な気は今にもハルの魂を喰らわんと大口を開け不気味に笑った。
ハルが恐怖と必死に戦いながら傍らを見ると、折れたはずの釣り竿が元の姿で転がっていた。
(この釣り竿があれば……皐月姫と滝夜叉を召喚できるッ)
ハルは釣り竿を握りしめ、対峙した巨大な九尾狐を睨み付ける。
かつて彼らが力を合わせて封印した妖狐は、この二つの召喚によって力を削いだ。封印した勾玉は無いが……きっと対抗できるハズだ。
「ハルの名において命ずる……出でよッ……」
そこまで叫んで気が付く。目の前にいる九尾狐は澄んだ青い目をしているが、彼らが月へと封印した九尾狐は邪悪な黄色い瞳をしていた。
その事に気付いたハルは詠唱を途中で止め、記憶の泉で捕獲した概念を離して尋ねた。
「君は……葛葉さんでしょ。こんな事しても意味ないよ。九尾狐は封印した……それより、早く兜を貸してッ……仲間が待ってるんだ」
すると攻撃をやめた九尾狐は次第に小さくなり、元の白狐の姿へと戻っていった。
「そうです。目に見えるものだけが真実とは限りません。容易に敵と判断し攻撃するのは正しくありません。他者を信じ慮ることのできる貴方には……法性の兜を持つ資格があるようです」
そう言い白狐は自分の横に浮かぶ兜をハルの両手の上へと動かし、最後に亡き母のように優しく微笑むと一言だけ言って消えていく。
「成長しましたね、ハル……」
「え……」
○
兜を持って再び須羽湖に戻った三人は弁財天に報告に向かった。彼女は驚いたがすぐに狐火を呼び出す準備にかかった。
「それにしても……あの白狐の試練を、こうもあっさり抜けるとは驚きました」
「ヘヘッ、凄いでしょ……でも、あの葛葉さんって何者なの?」
「それは……」
弁財天は躊躇する。今は羽衣の奪還途中だ。余計な事を言い、ハルに郷愁の念を覚えさせる必要もない。彼女は無難なことだけ伝える。
「強力な妖力を持つ白狐です。彼女は敵方の恋人に危険を知らせるため兜を持ち、この湖を狐火で渡りましたが、既に彼には妻がいて、彼女は他の者と泣く泣く結ばれたと聞きます。その時に流した涙が、狐の嫁入りと呼ばれる……この雨です」
シトシトふりだした雨に驚く三人に、天を仰ぐ弁財天は振り返り「急ぎなさい」と言った。
すると法性の兜を持つハルから出現した二つの狐火が、次々と闇に現れ大陸に向かって細長い道を作っていく。
「狐火の間を行けば落下することはありませんが、狐の嫁入り……この特別な雨が狐火を消してしまいます。だから急いで……くれぐれも兜を傷つけてはなりません。効力が薄れて落ちてしまいますよ」
キザシたちは弁財天に礼を言うと、ハルを先頭に狐火が作った道の上を駆け出した。
それは空中に浮かんでいるが、踏むと確かに感触がある。三人が進むごとに葛葉がかつて流した涙により、背後の狐火が消えていく。あと戻りは出来ない。
覚悟した三人の姿は小さくなり、闇夜に消えていった。
すると立ち止まる彼の腹をキザシが刀で横薙ぎし、トキが巨大なマサカリで今にも頭を打ち砕こうとする。
けれど、ハルは自信をもって叫んだ。
「ボクは仲間を信じるッ、キザシとトキがこんなことするハズないッ」
叫ぶと二人は皮一枚で攻撃を止めた。
二人はまったく動かず、しばらくすると砂のようにボロボロと崩れ落ちた。そしてハルを取り巻いた白い空間は、まるで熱湯をかけた雪のように溶け始めると、その先には豊かな緑に包まれた空間が広がっていた。
「ここは……」
「信他の森。第一の扉を開き、第二の試練を抜けた者は久しぶりです」
ハルの前には真っ白な美しい狐がいた。その白狐はハルを見て少し驚いた表情をしたが、すぐに真顔に戻ると、ゆったりとした口調で質問した。
「貴方たちが危険でない事はわかりました。目的はなんです」
「僕たちは法性の兜をお借りしにきました。仲間を助けるために大陸へ渡りたいんですッ」
ハルが叫ぶと白狐は青い目を丸くして驚いたが、虚空から見事な装飾の兜を出現させるとハルに見せた。
「これは易々と渡すわけには参りません。そうですね……最後の試練を与えましょう。これを持つに相応しいかどうか……お前の力を見せてみなさい」
すると白狐は立ち上がると小さな躰を巨大な狐に変化させていく。
それは九つの尾を持つ妖狐、封印したはずの月の病――九尾狐だった。
「な……なんで」
ハルはガクガクと震えて立ち尽くす。禍々しく邪悪な気は今にもハルの魂を喰らわんと大口を開け不気味に笑った。
ハルが恐怖と必死に戦いながら傍らを見ると、折れたはずの釣り竿が元の姿で転がっていた。
(この釣り竿があれば……皐月姫と滝夜叉を召喚できるッ)
ハルは釣り竿を握りしめ、対峙した巨大な九尾狐を睨み付ける。
かつて彼らが力を合わせて封印した妖狐は、この二つの召喚によって力を削いだ。封印した勾玉は無いが……きっと対抗できるハズだ。
「ハルの名において命ずる……出でよッ……」
そこまで叫んで気が付く。目の前にいる九尾狐は澄んだ青い目をしているが、彼らが月へと封印した九尾狐は邪悪な黄色い瞳をしていた。
その事に気付いたハルは詠唱を途中で止め、記憶の泉で捕獲した概念を離して尋ねた。
「君は……葛葉さんでしょ。こんな事しても意味ないよ。九尾狐は封印した……それより、早く兜を貸してッ……仲間が待ってるんだ」
すると攻撃をやめた九尾狐は次第に小さくなり、元の白狐の姿へと戻っていった。
「そうです。目に見えるものだけが真実とは限りません。容易に敵と判断し攻撃するのは正しくありません。他者を信じ慮ることのできる貴方には……法性の兜を持つ資格があるようです」
そう言い白狐は自分の横に浮かぶ兜をハルの両手の上へと動かし、最後に亡き母のように優しく微笑むと一言だけ言って消えていく。
「成長しましたね、ハル……」
「え……」
○
兜を持って再び須羽湖に戻った三人は弁財天に報告に向かった。彼女は驚いたがすぐに狐火を呼び出す準備にかかった。
「それにしても……あの白狐の試練を、こうもあっさり抜けるとは驚きました」
「ヘヘッ、凄いでしょ……でも、あの葛葉さんって何者なの?」
「それは……」
弁財天は躊躇する。今は羽衣の奪還途中だ。余計な事を言い、ハルに郷愁の念を覚えさせる必要もない。彼女は無難なことだけ伝える。
「強力な妖力を持つ白狐です。彼女は敵方の恋人に危険を知らせるため兜を持ち、この湖を狐火で渡りましたが、既に彼には妻がいて、彼女は他の者と泣く泣く結ばれたと聞きます。その時に流した涙が、狐の嫁入りと呼ばれる……この雨です」
シトシトふりだした雨に驚く三人に、天を仰ぐ弁財天は振り返り「急ぎなさい」と言った。
すると法性の兜を持つハルから出現した二つの狐火が、次々と闇に現れ大陸に向かって細長い道を作っていく。
「狐火の間を行けば落下することはありませんが、狐の嫁入り……この特別な雨が狐火を消してしまいます。だから急いで……くれぐれも兜を傷つけてはなりません。効力が薄れて落ちてしまいますよ」
キザシたちは弁財天に礼を言うと、ハルを先頭に狐火が作った道の上を駆け出した。
それは空中に浮かんでいるが、踏むと確かに感触がある。三人が進むごとに葛葉がかつて流した涙により、背後の狐火が消えていく。あと戻りは出来ない。
覚悟した三人の姿は小さくなり、闇夜に消えていった。
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