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四章『トマト編』

第538話 礼儀杯

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 私の名前はヒマリ・サンライト。
 おにぃちゃんの仇を討つために王国聖騎士団に入団しました。

 王国に来て一年が経ちます。見習いマークが取れません。でもなんとか続いています。今は朝の鍛錬の時間です。

 もちろん私一人じゃありません。師範としておにぃちゃんが所属していた部隊。月(ムーン)の無(ロスト)い夜(ナイト)の副隊長。リトルスモール・ビックソード先生が稽古をつけてくれています。

 リトル先生はドワーフという種族で背が私よりも小さいです。でも私より大きな剣を背負っています。

「ほら余所見するなよ。しっかり剣を振るんだ」
「はい」

 今は剣術の基礎。素振りをしています。この形が綺麗になるほど斬れ味が増すそうです。

「いいフォームだ。正直言ってヒマリはサガオさんに似て才能がある」
「ありがとうございます」
「それにそのなんて言うんだ」

 言葉に詰まったリトル先生の言葉を私は黙って待ちます。

「そのどす黒いオーラというか」
「オーラですか?」

 私は自分の体をみる。何も出ていない。お風呂も朝入ってきた。汗の匂いはするかもしれないけど。

「その年で発していいものなのか・・・・・・俺には判断しかねる」
「何が見えてるんですか?」
「言い方が悪かったな。別に何かが見えているわけじゃない。そういう特異体質はもっていない。ヒマリが発している雰囲気の話だ」
「雰囲気?」
「ああ。それはれっきとした『殺意』というやつだろう」
「殺意ですか?」
「そうだ。今のヒマリはサガオさんの仇を討つことだけがモチベーションと言ってもいい」
「それ以外に何かありますか?」
「そういうところもサガオさんに似ているな。一直線というか、まぁあの人の場合はそれが『勇者』だったんだが・・・・・・。とにかくぶれない強い意思はきっとヒマリのためになるんだろう」

 そう私はおにぃちゃんの仇を討ちたい。その一心でここまで来ました。

「稽古の続きをお願いします」

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