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六章『ピクルス編』
第1164話 筋肉の宴
しおりを挟む白い空間に立って……いなかった。なんだここは宴会場か、女神は何してんだ?
「乙じゃ!」
珍しく出待ちしてた女神が、これまた珍しく労いの言葉を掛けてきた。
「やれるだけのことはやった、後のことは後進が上手くやってくれるさ」
「ほれほれ飲め飲め!」
「悪い人が出てきても、良い人が出てきて活躍してくれるだろう」
「食え食えー!」
「……なぁ、少しは感傷に浸らせてくれよ」
「そんな湿っぽいことしてる暇があったら歌え騒げ!」
「なんでやねん!」
ふぅ、いいか最後くらい。俺はあぐらをかいて女神と対峙する。
「すげぇ悔しいがあんたに礼を言いたい」
「なんじゃ? 言うがよい言うがよい!」
なんかテンション高いな。
「楽しいハンバーガー人生だった、転生させてくれてありがとう」
「ふーん、いい思いしたようじゃなぁ、あんなことやこんなことを。アイナと言ったな、あの娘」
「ッ!?」
女神が珍しく名前を言った。背筋が凍る、魂の体なのに汗が滝のように溢れ出る。
「やめてくれ、彼女には何もしないでくれ」
「お、なぜ土下座する?」
「転生トラックを突っ込ませる気だろ? 頼む、俺にならどんなことをしてくれてもいい! だから彼女は見逃してくれ!」
「ぷくくくく、死ぬ間際のセリフを吐いてた貴様の命にどんな価値があるのかのぉ?」
「なぁ頼むよ、お願いします!」
俺は泣いていた。そうかだから女神は上機嫌なのか。アイナを殺してポテトにでもするつもりだ、想像しただけで涙が止まらない、それだけは絶対に許さない、拳を強く握る。
「あっはっはっはっはっはっは! 愉快愉快! ならばその握った拳で余を倒せばよいではないか!」
俺は手を解く。
「俺がどれだけ強くなろうとあんたに指一本触れることすらできない、例えブラキリオンと手を組んで戦っても絶対に勝てない」
「筋肉の賢者か貴様は」
「それでも戦えというのなら戦う、頑張るからさ、だからどうか」
「はー、何を思い違いしておる。安心するがよい、あの娘に手は出さぬ、勘違いするでないぞ、元々手を出す気がなかったのであって貴様に頼まれたからではないからな」
「ありがとうございますありがとうございます」
「二度も言うな、また誤字かと思われるじゃろうが」
ふぅ、と一息つく。
「まさか貴様からそのセリフが出るとはな」
「どういうことだ?」
「うるさい! とにかく宴じゃ! いつまで湿っぽい顔をしておる! 八百万は堕天した、この遊び余の大勝利じゃ! ずっと不利じゃったこの勝負も、結局は余の勝利じゃ! あー敗北を知りたいのぉ! ぷははははははは!!」
「一つ聞かせてくれ、これはなんの宴なんだ?」
「そんなこともわからぬのか!」
指を鳴らす、垂れ幕が下りる。書いてある文字を読む。
「『結婚おめでとう!』って、ええええ!?」
「なんじゃ、貴様ら結婚したんじゃろ?そっちでは一年前の出来事じゃが、余はまだ祝ってはおらぬぞ! はぶりよって、それこそ許さぬからな」
「ぶはは!」
「何を笑いよるか!」
「失礼! では僭越ながら新郎の筋肉踊りをお見せいたしましょう!」
「おお! 余興は好きじゃ! 色々神器に触れたがやはり宴よな! よし! やれやれ!」
こうして筋肉の宴が始まった。三日三晩踊り飲み食らい続けた。
「くかー!」
寝ちゃったよ女神、騒ぐだけ騒いで。楽しんでくれたならよかった。自分を殺した女神を楽しませるとか俺もつくづく甘いな。
「さ、俺は死んだんだ、あとは消えるだけ、あの魔法を使った時点でイズクンゾとは相打ちみたいなもんだった、むしろ一年もよくもった、さすがは俺の筋肉だ、よくやってくれたな」
体が消えていく。
「さようなら、みんな。アイナ、愛してる」
俺は光となってーー……
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