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序章
第1話 番重岳人
しおりを挟む俺、番重岳人(ばんじゅうがくと)。
無職、童貞、三十路の三冠王。
学生時代は不登の意思を貫き、15年間続けた筋トレの成果で黄金の肉体を手に入れた。
家族からは疎まれ、家庭環境は冷えきり崩壊してしまっている。親の顔を見たのは何年も前の話だ。
このままではいけないと思った俺は、家から出る練習(リハビリ)を始めることにした。
とりあえずコンビニまで行こう、筋トレと同じだ、少しずつ出れるようになればいい、社会復帰を目指して、この惨めな人生からおさらばするのだ!
服装に悩むこと1時間、着なければ迷わないという結論に至り、裸にジーパンというナイスなチョイスで俺は部屋をあとにした。
髪には天然のワックスがかかっており、激しくウェーブしている。外気に触れ、劈く怒髪天が荒ぶる。震える足を筋肉で押さえつけて、一歩また一歩と歩を進める。
コンビニまで何事もなく着いた。どうやらAM2時ごろは空いているようだ。数台のトラックとすれ違ったくらいだ。
入店音とともに店内に入る、久々に見る生身の人間に俺は内心動揺しつつも堂々と歩く。適当に簡易ハンバーガーとスナック菓子を手に取り、レジへ行く。
店員が俺の姿を見るや目を伏せた。彼女もまた俺と同じ境遇なのではと思うと応援したい気持ちが湧いてくる。否、応援なんておこがましい、彼女はすでに働いており社会復帰を成し遂げている、俺より何歩も先に進んでいる。
そう思うと途端に仲間意識が湧いてくる、俺は同士に声をかけることにした。
「お、お互いに頑張りましょう」
「は? あ、はい」
軽快な会話を終えて俺はコンビニを出る。またここに来よう、ここならいい練習になる。ひいては1時間おきにでもーー
俺の意識はそこで途切れた。
「ぐ······ぅ、なん、だ?」
意識を取り戻した俺が真っ先に目にしたのは、鉄の壁? 否、トラックだ、トラックが突っ込んできたのだ。コンビニの店内まで押し戻され壁に激突したのだ。
筋肉がなければ即死だった、筋トレしといてよかったァ。俺は胸筋をなでおろした。
横を見ればレジ越しに青ざめた顔の店員がいた、できれば救急車を早く呼んでほしい。
そう頼もうとした矢先。
『頑丈よのぉ、ならばもう1発じゃ』
這い出ようとトラックを押しのけていた俺が目にしたのはもう一台のトラック。先のトラックの尻を突き、俺を押し潰そうとする。
間一髪でトラックから抜ける、先のトラックは壁にめり込んでいる。逃げ遅れていたらと思うとゾッとする。
店員を見ると出口のほうを見ている。その顔には絶望が張り付いている。もしやと思い、俺も店員の見ている方向を見る。
三台目のトラックが突っ込んできた。
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