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一章『レタス編』
第3話 転生バーガー
しおりを挟む王国から最も離れた位置に存在するタスレ村。
普段は平凡な村だが、今日に限っては村人たちは賑わいを見せていた。なんと言っても今日は奇跡の日。占いでは本日この村から勇者が誕生すると言われているのだ。
ちょうど出産予定の夫妻が二組いる。片方はエルフ族なので、もう片方の人族から勇者が産まれると皆、沸き立っているのだ。
「ばぁーがぁーばぁーがぁー」
分娩室に産声が響き渡る、出産に成功したのだ。産婆が産まれたばかりの赤子を抱き上げて布で包む。そばに立っていた赤子の父親が駆け寄る。
「どうや!?」
「······」
「バァさんどないしたんや! そない梅干しのバケモンみたいな顔しおって!」
産婆の表情は暗い、父親が布をめくる。赤子を見た父親は口元を手で覆う、だがショックは隠せていない。赤子の母親が二人の様子に気づき声をかけた。
「ど、どないしたん? まさか死んで······」
否、鳴き声がする。死んでいるわけではないとすぐに気づいたようだ。
「いえ、元気な子です」
「そうか、一安心やな、勇者だから男の子やな?」
「え、うーん、これは」
「なんや、女の子なんか?」
産婆は困り果てた顔をしている。熟練の産婆が困るほどの事態が起きているのだ。しかし、産婆も覚悟を決めたのか重い口を開いた。
「元気なハンバーガーです」
「なんやて!?」
村に激震が走った。勇者が産まれる日にハンバーガーが産まれたのだ、その話ニュースは瞬く間に村に広がった。
「50gの子で、性別は不明です。最初はふやけていましたが自然乾燥で乾きました。具材は小さな生肉と申し訳程度の葉っぱです。今はそのまま籠に入れてます。はい、生きてます」
産婆が兵士に説明をしている、王国も勇者の誕生を楽しみにしていたのだ。話を一通り聞いた兵士は、その足で王国まで戻り事の経緯を報告することだろう。
「よぉ見たらお目目あるわ」
「最初は驚いたけど可愛いもんやな」
若き夫婦は籠を覗き込んで一口サイズのハンバーガーを見つめている。
「どっちに似たんや? まさかハンバーガーと浮気したなんてことあらへんよな?」
「あたしが愛してんのはアンタだけやで」
「ふへへ、ワイもや」
俺はどうなったんだ、転生させられたのか? なんだこの人たちデケェ、巨人か? いや、転生ということは俺は今赤ちゃんなのか、なるほど俺のほうが小さいわけか。
むぅ、体が動かない、全身の感覚がおかしい、ホラゲのような操作性の悪さというか。力もまともに入らないぞ。
「お、蠢いてるわ、可愛えなぁ」
「ワイが考えてた名前、この子みたら全部吹っ飛んでもうたわ」
「あたしもや。気取った名前、絶対似合わへんやろなぁ」
どんだけだよ、産まれたての赤ちゃんは猿みたいな顔してるって言うけどさ。いずれはアンタらみたいな顔になるんだぞ! ってあんたら美形だな、じゃあ俺もイケメンに? 人生イージーモードか!?
「バーガーなんてどうや? 安直やけど、ワイはそれしか思いつかへんわ」
「ええと思うで。ハンバーガーを産める人なんて他を探してもこのあたしし以外おらへんやろ」
奥さん、今なんて言いました? ハンバーガー?
俺が自分の姿を確認できたのは数日後であった。
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