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二章『パテ編』
第49話 羊羹の怪物
しおりを挟む羊羹手前の岩まで接近した俺たちは岩陰から様子を窺っている。声の主と思しき人物は見当たらない。
近くで見るとなおデカいな、外見は半透明の羊羹にしか見えない。
「本当に人がいるんでしょうか? ここから見える範囲ではいませんが」
「エリノア、なにか聞こえるか?」
「いんや、にゃにも聞こえにゃいよ」
「動いてる」
ジゼルの言う通りオバケ羊羹がまた動き出している。そして声が聞こえた。
「いたいよー! もうやなのー!」
声とともにオバケ羊羹がさらに蠢く。
オバケ羊羹の一部が吐出して、ずんぐりとした頭部と四肢が生える。頭部と思わしき部分からは禍々しいドブのような瞳が浮き出る。
「??????ッ!?」
俺たちはどうする事もできなかった。Sクラス冒険者のエリノアも、王国魔導師のジゼルも、弓の使い手のアイナも、そしてハンバーガーの俺も。ただただその様子を眺めることしかできなかった。
「だ、だれっ? ひっひゃ!」
4mはある瞳から粘度の高い液体が零れ落ちる。
「ああああ! こわいのー! だれなのぉー!」
暴れるオバケ羊羹の泣きわめく姿を俺たちは呆然と眺め続ける。中性的な声の主はこの怪物の声だったのだ。
「いたいし、しらない人間がいるし、やー??????」
そこまで言ってオバケ羊羹は地に伏せた。土煙が舞う。その姿は力無くぐったりとしている。
「だ、大丈夫ですか?」
話しかけたのはアイナだ。困っている人がいたら声を掛けてしまう、そういう彼女の優しい部分がつき動かしたのだろう。しかし相手は見たこともない怪物だ。俺は今挟んでいる具材で逃げる算段を考え始める。それと同時にオバケ羊羹が話し始めた。
「だしょうぶじゃないの、いたいの、せなかのてっぺんがいたいの、いたくてつらいの、えーんえーん」
再び瞳から粘液が四方に散る。愛嬌があるように見えるが油断できない。ああ、ダメだ薬草しか挟んでない。
「バーガー様、背中が痛いそうです。癒してあげましょう」
「え、えー、マジでぇ」
「私たちでしか、この子を救えません!」
なんつー真っ直ぐな瞳だよ、俺ならやるって信じてくれてるんだよな。期待に応えるのも勇者の役目か。よし、女神、少ししたら行くから、VR片付けておけよな!
「えっと、いいか大きいのよーく聞け! 今から背中の痛いのを治してやるから、じっとしてろよ!」
「ハンバーガーがはなしてるの! なにこれこわいのー!」
「お前に言われたくないよ! お前だって羊羹みたいな見た目のくせに」
「大丈夫ですよ、この方は勇者様です、きっと痛いのを治してくださいますよ!」
「うぅ、おねーさんがそう言うなら、こわいのがまんするの」
「いい子ですね、それではバーガー様、参りましょう」
「はいよ、薬草をたんまり挟んでからな」
「バーガー、上級治癒(ハイヒーリング)の巻物も持って行って」
「ジゼルありがとう、あむ」
「こんにゃのに登るにゃんて正気じゃにゃいにゃ」
アイナは靴を脱ぎ、袖をめくる。髪を後ろに結ぶ。ポニーテールによって普段髪に隠されていたうなじがあらわになる。白いうなじはとてもセクシーだ。細い首から顎にかけてのライン??????俺の部屋に置き去りにしてきてしまった幾多のフィギュアを彷彿とさせる。
「バーガー様? どうしました?」
「なんでもないさ」
「なんだか、とても切ない顔をしています。何かありましたか?」
「置いてきた家族(フィギュア)たちのことを考えていた」
「絶対に生きて帰りましょう??????ちょっと危険なことを今していますが??????って、それも私が提案したことですよね、ごめんなさい、バーガー様をこんな危険な目に、ただ助けを求められるとどうしても体が動いてしまって」
「なぁに、このくらい屁でもないさ、案外話が通じそうな奴だし、化け物くらい救えなくて何が勇者だ。さぁ、手足のない俺の代わりに登ってくれ」
「はい! この四肢はバーガー様のために!」
アイナがオバケ羊羹の皮膚を掴む。半透明な皮膚は液体のように波を立てるも、かろうじて固形の部類に入るらしく形状が著しく崩れるといったことはない。感触を確かめつつアイナは慎重に登り始める。
「ひぐ、えぐ、うぅ、のぼってるよぉ」
「大丈夫、大丈夫だからね」
アイナはぶにぶにとしたコラーゲンの塊のような皮膚を優しく撫でる。震えが止まるとまた登っていく。
「山登りなんていつ覚えたんだ?」
「小さい頃にバーガー様には内緒で父と練習してました」
「マジか??????」
「ふふ、さすがに冗談ですよ。小さい頃、リンゴの木によく登って内緒でリンゴを食べていました」
「アイナは何気に食いしん坊だからな」
「そんなことないですよ!」
「初対面の俺を食べたじゃん」
「それは1歳の時の話じゃないですかぁ」
「ははは、冗談だよ」
「バーガー様、冗談になっていませんよ」
そんな話をしていると頂上にたどり着いた。俺とアイナは周りを見渡す。それらしい傷はどこにも見当たらない。どういう事だ?
「あのー、お山さーん、何もなってないんですがー」
「うぅ、いたいよぉ、すごいいたいよー!」
「きゃっ!?」
「これは!」
オバケ羊羹の頂上付近の皮膚を突き破り、クリーム色をした3mはある巨大なミミズの魔物が現れる。なるほどな、寄生虫系の魔物の仕業だったのか!
「どうやら、この魔物がこの子に巣食って悪さをしていたみたいですね」
「そのようだな」
「薬草しか挟んでいないバーガー様は私の後ろへ」
「アイナも弓持ってきてないじゃないか」
「私には剣もあります。はぁ!!」
アイナはたった1歩で巨大ミミズまで距離を詰めると素早い突きを繰り出す。巨大ミミズは反応できないまま頭部を破壊される。そのまま40m下に落下する。下からエリノアの悲鳴が聞こえたが無視した。
「??????その剣技はどこで習ったんだ?」
「子供の頃こっそりと、それより治癒を、体液が漏れだしています」
「あ、ああ、これは薬草だけでは足りないな、上級治癒(ハイヒーリング)の巻物(スクロール)も使おう。って、これどうやって使うんだ?」
「発動に必要な魔力を込めると使えるそうです」
俺、魔力ないんだよなぁ。
「すまん、アイナ、代わりにやってくれないか、俺は魔力がないんだ」
「失念してました、私に任せてください!」
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