81 / 1,167
二章『パテ編』
第81話 モノマ村15
しおりを挟むジンニン村に来てから2週間が経過した。
平穏といいたいところだが、とんでもない事になった······。
俺たち勇者パーティは即席の高台に乗っている。場所は村の外、そして俺たちの眼前には見渡す限りの人、人、人。
そのほとんどが数日前に到着した近隣の村人たちだ。予想を遥かに超える援軍が来てくれたのだ。(ジゼルが看破(ファゾム)の魔法を掛けて回り疲れ果てたのは言うまでもない)
俺たちとともに高台に立つキッドが報告する。
「コンダイ村284名、
ボウゴ村121名、
ブラカ村153名、
マイモサツ村164名、
ジンニン村106名、
燃(レッド)え盛る真(フレイム)っ赤な炎(バーニング)部隊92名。
総勢920名です」
総勢920名の戦力が集結。
1000に近い視線がアイナの手のひらに乗る俺へと注がれる。まずは自己紹介だな。アイナはジゼルからマイクを受け取ると俺に向ける。
「迅速に集まってくれて感謝する。俺は予言の勇者。勇者バーガー・グリルガードだ」
ざわめきが聞こえる。当然だろう、ハンバーガーの姿だとは聞いているだろうが、実際に見るのとじゃ違う。俺だって指揮官がハンバーガーだったら嫌だよ。
この反応を想定していた俺はあらかじめ用意していたデモンストレーションをやることにした。俺はアイナから飛び降りてエリノアに目配せする。エリノアはため息をつく。
「もったいにゃいにゃ」
「やらないと今後に響く、士気を上げるんだ」
エリノアは懐から出した物を俺に挟む。解析をするまでもなく、それはスーの羊羹皮だ(皮といっても前髪の部分なのだが)。プニプニとしているそれを挟み、溢れる魔力を感じながら俺は魔法を発動させる。
「『魂(マテリア)の実体化(ライズソウル)』」
青いハンバーガーの魔人が現れる。その筋骨隆々の上半身を見て、会場が先ほどとは違ったざわめきを見せる。
俺は魔人を操り、ポーズを決める。基本姿勢(リラックス)からのフロントダブルバイセプス! さらにサイドチェストへ移行しオリバーポーズでフィニッシュだ!
会場が沸き立つのを感じる。俺は能力を解除してアイナの手に飛び乗る。
ちなみにスーの羊羹皮は萎むことなく消滅してしまう。元が魔力の塊だからだろう。
「とまぁ、安心してくれ、こう見えても俺は強い」
「バーガー様、みんな安心していますよ!」
アイナが小声で嬉しそうに言った。うむうむ、良きにはからえ。
隣のスーがちぎられて短くなった前髪をいじっている。その気になれば一瞬で生やせるはずだが。あとで甘味を買ってやろう。
「これだけの人数だ、兵糧の問題もあって、このまま魔物村(モンスタービレッジ)に向かう。魔物の特徴や、注意点などは、着くまでに王国聖騎士たちが教えて回る」
村人たちの表情に緊張が走る。再び不安そうな顔を見せる。そりゃそうだ、これから命をかけた戦いに赴くんだからな。そんなことを思っているとジゼルが俺の前に立つ。マイクをアイナから受け取り口元に当てる。なにを話す気だ?
「諸君、私は王国魔導師、ジゼル・ダグラス」
またしても、村人たちがざわめく、感触のいいざわめきだ。王国魔導師はどこでも有名人だ。勇者と魔導師のネームバリューで会場を盛り上げるのだ!
「これから諸君は命を落とすかもしれない」
ジゼルの発言に会場が静まり返る。おいおいおい、温まった空気が冷えちまったぞ、オーディエンスをどうするつもりだ。しかしジゼルはお構い無しに続けた。
「保身に走る者を私は咎めない、咎めないがきっと後悔する。諸君が逃げるということは、諸君が敵を見逃すということは、諸君の村、そして家族が魔物に蹂躙されるという事だ。知っているか? 魔物の人の殺し方を、知識のある魔物なら嬲ってから殺す。生きたまま腸(はらわた)を貪られ、阿鼻叫喚を極めた拷問の末に殺す。諸君は自覚するべきだ、諸君は追い詰められている。我々が魔王に負ければ、王国の民すべてが一人残らずそうなる。餌になりクソになる。いま逃げてもいずれは戦うことになる。私はいま戦う事を勧める、勇者のいるうちに」
ジゼルの演説を聞いて去るものは一人も居なかった。ジゼルはマイクをエリノアに投げ渡す。エリノアはマイクを見てすらいないのにも関わらず、片手でキャッチする。エリノアは「ミーも?」といったジェスチャーをジゼルにするが、ジゼルの視線に耐えきれなくなったのか目線を前に戻す。
「ミーはエリノアだよ、Sクラス冒険者だにゃ。小龍(ワイバーン)倒した事あるし、ミーの周りにいればきっと生き残れるよ」
それだけ言ってマイクをジゼルに投げ返した。エリノアの存在を知らなくてもSクラス冒険者の実力は知っているだろう。村人たちは神妙な面持ちで頷いた。真剣な面構えだ。どうにか覚悟を決めてくれたようだ。
「ま、ミーの戦場は最前線を超えたその先にゃんだけどにゃ」
と、小さく呟いた。エリノアさん、それオフサイドですよ。
「では準備でき次第、ここを出立する! 入念に装備の確認をしておけ!」
キッドがそう締めて、村人たちは各々の装備を最終確認する。キッドがジゼルに近づいて小声で話した。
「最初はどうなるかと思いましたが素晴らしい演説でした」
「本当のことを言ったまで。戦場に来てから知るより、ここで知らせておいた方が幾分かマシだと判断」
「それでもあれだけ言い切る度胸は凄いですよ、俺でも励ましたり檄を飛ばすくらいしかできません。まるで実際に魔物に襲われたことがあるような口ぶりで、村人たちの生唾を飲み込む音が聞こえるほどでした」
「体験したから」
「え?」
「実際に体験したことを話した。私はクソみたいな村でクソのように戦ってクソのように這いずり回って生き残った」
2人の会話を聞いているが、ジゼルの村は魔物に襲われたのだろうか······。そういうプライバシーなところはあまり話さないからな。祖母である占いばあさんもラップバトルで殺されてるし、暗い過去がありそうだ。そう思っているとジゼルが俺に視線を向ける。キッドとの会話は終わったようだ。
「バーガー」
「なんだ?」
「誰1人死なせない」
「もちろんだ、最初に死ぬとしたら、それは俺からだ、俺が死ななければ誰も死なない」
「にゃはは、にゃんだその理屈は、理にかなってにゃいよ」
「い、いいんだよ、こういうのは気持ちの問題だ」
「そうです! バーガー様は私が命にかえても守ります!」
「聞いてた? 俺が最初なの! 俺が死ななきゃ誰も死なないってジンクスをだなー」
「くすくす、バーガー、かっこ悪い」
「スー、こういう時だけ。······モーちゃんも助け出して、誰も死なせずに、この戦いを終わらせようぜ」
「はい!」
難易度がルナティックになった。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる