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二章『パテ編』
第81話 モノマ村15
しおりを挟むジンニン村に来てから2週間が経過した。
平穏といいたいところだが、とんでもない事になった······。
俺たち勇者パーティは即席の高台に乗っている。場所は村の外、そして俺たちの眼前には見渡す限りの人、人、人。
そのほとんどが数日前に到着した近隣の村人たちだ。予想を遥かに超える援軍が来てくれたのだ。(ジゼルが看破(ファゾム)の魔法を掛けて回り疲れ果てたのは言うまでもない)
俺たちとともに高台に立つキッドが報告する。
「コンダイ村284名、
ボウゴ村121名、
ブラカ村153名、
マイモサツ村164名、
ジンニン村106名、
燃(レッド)え盛る真(フレイム)っ赤な炎(バーニング)部隊92名。
総勢920名です」
総勢920名の戦力が集結。
1000に近い視線がアイナの手のひらに乗る俺へと注がれる。まずは自己紹介だな。アイナはジゼルからマイクを受け取ると俺に向ける。
「迅速に集まってくれて感謝する。俺は予言の勇者。勇者バーガー・グリルガードだ」
ざわめきが聞こえる。当然だろう、ハンバーガーの姿だとは聞いているだろうが、実際に見るのとじゃ違う。俺だって指揮官がハンバーガーだったら嫌だよ。
この反応を想定していた俺はあらかじめ用意していたデモンストレーションをやることにした。俺はアイナから飛び降りてエリノアに目配せする。エリノアはため息をつく。
「もったいにゃいにゃ」
「やらないと今後に響く、士気を上げるんだ」
エリノアは懐から出した物を俺に挟む。解析をするまでもなく、それはスーの羊羹皮だ(皮といっても前髪の部分なのだが)。プニプニとしているそれを挟み、溢れる魔力を感じながら俺は魔法を発動させる。
「『魂(マテリア)の実体化(ライズソウル)』」
青いハンバーガーの魔人が現れる。その筋骨隆々の上半身を見て、会場が先ほどとは違ったざわめきを見せる。
俺は魔人を操り、ポーズを決める。基本姿勢(リラックス)からのフロントダブルバイセプス! さらにサイドチェストへ移行しオリバーポーズでフィニッシュだ!
会場が沸き立つのを感じる。俺は能力を解除してアイナの手に飛び乗る。
ちなみにスーの羊羹皮は萎むことなく消滅してしまう。元が魔力の塊だからだろう。
「とまぁ、安心してくれ、こう見えても俺は強い」
「バーガー様、みんな安心していますよ!」
アイナが小声で嬉しそうに言った。うむうむ、良きにはからえ。
隣のスーがちぎられて短くなった前髪をいじっている。その気になれば一瞬で生やせるはずだが。あとで甘味を買ってやろう。
「これだけの人数だ、兵糧の問題もあって、このまま魔物村(モンスタービレッジ)に向かう。魔物の特徴や、注意点などは、着くまでに王国聖騎士たちが教えて回る」
村人たちの表情に緊張が走る。再び不安そうな顔を見せる。そりゃそうだ、これから命をかけた戦いに赴くんだからな。そんなことを思っているとジゼルが俺の前に立つ。マイクをアイナから受け取り口元に当てる。なにを話す気だ?
「諸君、私は王国魔導師、ジゼル・ダグラス」
またしても、村人たちがざわめく、感触のいいざわめきだ。王国魔導師はどこでも有名人だ。勇者と魔導師のネームバリューで会場を盛り上げるのだ!
「これから諸君は命を落とすかもしれない」
ジゼルの発言に会場が静まり返る。おいおいおい、温まった空気が冷えちまったぞ、オーディエンスをどうするつもりだ。しかしジゼルはお構い無しに続けた。
「保身に走る者を私は咎めない、咎めないがきっと後悔する。諸君が逃げるということは、諸君が敵を見逃すということは、諸君の村、そして家族が魔物に蹂躙されるという事だ。知っているか? 魔物の人の殺し方を、知識のある魔物なら嬲ってから殺す。生きたまま腸(はらわた)を貪られ、阿鼻叫喚を極めた拷問の末に殺す。諸君は自覚するべきだ、諸君は追い詰められている。我々が魔王に負ければ、王国の民すべてが一人残らずそうなる。餌になりクソになる。いま逃げてもいずれは戦うことになる。私はいま戦う事を勧める、勇者のいるうちに」
ジゼルの演説を聞いて去るものは一人も居なかった。ジゼルはマイクをエリノアに投げ渡す。エリノアはマイクを見てすらいないのにも関わらず、片手でキャッチする。エリノアは「ミーも?」といったジェスチャーをジゼルにするが、ジゼルの視線に耐えきれなくなったのか目線を前に戻す。
「ミーはエリノアだよ、Sクラス冒険者だにゃ。小龍(ワイバーン)倒した事あるし、ミーの周りにいればきっと生き残れるよ」
それだけ言ってマイクをジゼルに投げ返した。エリノアの存在を知らなくてもSクラス冒険者の実力は知っているだろう。村人たちは神妙な面持ちで頷いた。真剣な面構えだ。どうにか覚悟を決めてくれたようだ。
「ま、ミーの戦場は最前線を超えたその先にゃんだけどにゃ」
と、小さく呟いた。エリノアさん、それオフサイドですよ。
「では準備でき次第、ここを出立する! 入念に装備の確認をしておけ!」
キッドがそう締めて、村人たちは各々の装備を最終確認する。キッドがジゼルに近づいて小声で話した。
「最初はどうなるかと思いましたが素晴らしい演説でした」
「本当のことを言ったまで。戦場に来てから知るより、ここで知らせておいた方が幾分かマシだと判断」
「それでもあれだけ言い切る度胸は凄いですよ、俺でも励ましたり檄を飛ばすくらいしかできません。まるで実際に魔物に襲われたことがあるような口ぶりで、村人たちの生唾を飲み込む音が聞こえるほどでした」
「体験したから」
「え?」
「実際に体験したことを話した。私はクソみたいな村でクソのように戦ってクソのように這いずり回って生き残った」
2人の会話を聞いているが、ジゼルの村は魔物に襲われたのだろうか······。そういうプライバシーなところはあまり話さないからな。祖母である占いばあさんもラップバトルで殺されてるし、暗い過去がありそうだ。そう思っているとジゼルが俺に視線を向ける。キッドとの会話は終わったようだ。
「バーガー」
「なんだ?」
「誰1人死なせない」
「もちろんだ、最初に死ぬとしたら、それは俺からだ、俺が死ななければ誰も死なない」
「にゃはは、にゃんだその理屈は、理にかなってにゃいよ」
「い、いいんだよ、こういうのは気持ちの問題だ」
「そうです! バーガー様は私が命にかえても守ります!」
「聞いてた? 俺が最初なの! 俺が死ななきゃ誰も死なないってジンクスをだなー」
「くすくす、バーガー、かっこ悪い」
「スー、こういう時だけ。······モーちゃんも助け出して、誰も死なせずに、この戦いを終わらせようぜ」
「はい!」
難易度がルナティックになった。
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