現代最強は楽しいハンバーガーに転生しました

黒木シロウ

文字の大きさ
90 / 1,167
二章『パテ編』

第90話 反省

しおりを挟む

 俺は白い空間にいた。地平線まで真っ白で、こんな所に長時間いたら気が狂いそうだ。目の前にはニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべた女神が腰に手を当てて立っていた。

「よ、久しぶりじゃな」
「ああ、生きてんなら早く戻してくれ」
「まぁ、待て。時間は止めてある」
「そっか。今日はリアルタイムで見てたのか?」
「まぁ、そんなところじゃな」
「ん? なんだ? 今日はやけに素直だな」
「まぁ、な」
「まぁまぁって、まぁまぁおばさんかよ」
「誰じゃそれ?」
「知らん」
「知らんのかい! はぁ、萎えるから、あまりつまらぬ事をぬかすでない」
「すまん」
「んんー? なんじゃあ? やけに素直じゃのぉー? ええ?」
「意趣返しはやめてくれ」
「ふふん」

 女神は満足そうにひらりと身を翻す。そういや、服装が違うな。白と赤の巫女のような服だ。女神の服装は会う度に変わっているから、別段気にすることでもないか。

「なんじゃ、ジロジロ見つめおって」
「後ろに目玉でもついてんのかよ」
「ついておるぞ」

 女神がうなじを見せる。なんとそこには目玉が、

「ねぇじゃねぇか!」
「あるわけないじゃろう」

 たく、綺麗なうなじを見せつけただけかよ。ふざけやがって、網膜に焼き付けとこう。よし焼き付いた。俺が呆れて女神から視線を外すと、白い世界に1点だけ赤黒くなっている所がある。

「なぁ女神」
「なんじゃ」
「あれなんだ?」
「あれ? ああ、あれはなんじゃったかなぁ。コーヒーをこぼしちゃったのかな?」
「いや、俺に聞くなよ。コーヒーのシミには見えないな。もっと大きいものだ。なんか人が倒れているようにも見えるが」
「まぁ、人じゃな」
「また殺したのか?」
「まぁな」
「なんで」
「貴様を殺した時と同じ理由じゃ」

 暇つぶしかよ。可哀想に女神の毒牙にかかったのか。南無三。

「転生させてやらないのか? というか、ここで死んでるのはおかしくないか?」
「······アレは余がまだチート転生にハマっていた時の負の遺産ならぬ勝の遺産じゃ」
「造語を作るな」
「神じゃからな、言葉くらい作るぞ」
「はぁ。それで、そのチート転生者がどうしてここで死んでるんだ?」
「アレはチートの中でも選りすぐりの特別製じゃ、余が与えた超絶チートを駆使してここまで辿り着いたのじゃ、すごかろう!」
「わざわざ女神に会いに来たのか?」
「何を言うか、この領域に到達するだけでもじゃなぁ。······貴様のように易々と余のところに来れる者なぞ他におらんという事じゃ」

 易々じゃないけどな、このまま死ぬかもしれないんだから。

「アレは余に復讐するために、ここまで来たのじゃ」

 復讐ね。そら殺された挙句、命を弄ばれたら復讐の一つや二つ誓うだろうよ。

「貴様は余に復讐とかしないのか?」
「なんで?」
「最近知ったのじゃが、人は殺されると怒るらしいのじゃ」
「はん、万能な女神らしい思考回路だな。俺の場合は『そこまで』って感じだな」
「そこまでか」
「ああそうだ、現代で何かを達成したわけでもないし、ましてや幸せだったわけでもない。ただ······」
「ただ?」
「やり直すならどこでも一緒だなって。異世界で10年ちょっと過ごした、今の俺はそう思ってるよ」
「ふん。カッコつけてはおるがの、貴様はまた夢半ばで死にかけておるのだぞ、今度は戦い抜いて見せよ」
「最初に俺を夢半ばで殺したお前に言われてもな」
「す、過ぎたことじゃ」
「せやな」

 さて、そろそろ戻るか、まだ意識が飛んだくらいだろう。エリノアか、さっき助けた聖騎士が具材を挟み直してくれれば······あ、薬草使い切っちゃったな、大丈夫かな。

「お、復活したみたいじゃ」
「え?」

 赤黒い物体がむくりと起き上がる。鋭い目つきで女神を睨みつけている。うん、アレは次元が違うや。

「勝てるのか?」
「意外じゃな、余に勝ってほしいのか?」
「いや、別に」
「余が死ねば世界が滅ぶ、とか思っておらぬか?」
「え、そうなの?」
「滅ぶわけないじゃろう。余が死ぬ······想像もできぬが、余が死ねば殺した者が、また神になるだけのことじゃ」
「神ね、そら神より強かったら神を名乗ってもいいだろうな」
「そういうわけじゃ、まぁ未来永劫そんな事は起きないのじゃがな」

 俺は魂だけとはいえ現代の姿をしているので、余裕たっぷりに周囲を観察する。あれ、あの遠くにあるブラウン管テレビの山、砂嵐の数が増えてないか?

「なぁ、女神。!?」

 女神とチート転生者が消えていた。否、空中で高速戦闘を繰り広げている! 俺の動体視力でなければ視認することすら不可能だっただろう。

「〇Bかよ!!」

 なんて派手なエフェクトとSEだ。この白い世界全体が揺れている!

 金属バットで鉄の柱を殴ったのような音を立てて、チート転生者が地面に叩きつけられる。その後を女神はゆっくりと降下する。普通に浮きやがって!

「ほとんどの能力を壊してやったのに、仲間を全員葬ってやったのに、まだそれだけ動けるとはのぉ。ま、これで10回目の死じゃ、あと何回復活できるかのぉ? それとも、そろそろ貴様自身を壊してしまおうかなぁ? キャハハハ!」
「さては、まったく反省してないな」
「う、うるさい」
「お前、悪役みたいだよな」
「黙っておれ、いまいいところなんじゃ」
「たくよ、恨まれるような事をすると、ひどい目にあうぞ」
「貴様も、この空間に居ればわかるじゃろうな。暇なんじゃ」
「そうだ、俺さ、人に戻りたいんだけど」
「唐突になんじゃ、嫌に決まっておろう。ハンバーガーの姿でちこちこ足掻いておる姿は見物じゃぞ。······というか戦闘中にゴチャゴチャ喋りかけるでない興が削がれるわ!」
「だよな、聞いてみただけだよ。さ、そろそろ戻してくれ」
「あ、待て待て」
「なんだよ」

 女神はモジモジと後ろ手に手を組んで頬を赤く染めている。

「まぁ、なんだ、その、あれじゃ、殺して、悪かったな」
「ホントになんだよ、急にデレんなよな。なんかフラグ回収したか?」
「いやぁ、ほら、狙って下ネタを言うのは恥ずかしくもなんともないけど、意図せずに下ネタを言った時って赤面するくらい恥ずかしいじゃろ? それと一緒の現象にいま陥っているのじゃ」
「······ああ、人を殺すことが悪い事じゃないと思ってたのか」
「そ、そうじゃ、でも生き返らせるのもなぁ。他の神どもにも目を付けられてての」
「これからは殺すなよ」
「前向きに善処するぞ」

 政治家みたいな事を言ったしおらしい女神を置いて俺は光に包まれる。ちょうど赤黒い執念の炎が再度立ち上るところだった。

 それを女神は嬉しそうに邪悪に顔を歪ませて指を鳴らす。頑張れチート転生者、最強は目の前だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...