現代最強は楽しいハンバーガーに転生しました

二章『パテ編』

第１０３話 宝箱３

　俺はまたたびや、レアな巻物（スクロール）、そして骨付き肉なんかで躊躇したりしない（骨付き肉は危なかったがハンバーガー的に骨があると具材として食べにくいのでテンションはそこまで上がらなかった）。

「あれおいしそうなの」
「ンモゥー」

　残ったのは俺とスーと斧牛（アックスブル）のモーちゃんだけだ。

「ダメだぞスー、あれは絶対に罠だから近づくなよ」
「うぅ、わかったの」
「モーちゃん、スーを守ってやってくれ」
「モオ！」

　モーちゃんとはある程度の意思疎通が可能となっている。モノマ村の件でさらに懐いてくれたようだ。

「さて、どう料理してやろうか」

　俺の具材は、薬草３枚に、矢啄木鳥（アローウッドペッカー）の嘴を挟んでいる。この嘴からは魔法矢（マジックアロー）を５回使うことができる。

　これで蜂の巣にしてやると、意気込んだ俺を止めるように、宝箱の蓋が開く。今度は何を出すつもりだ？

「なっ！」

　出てきたのはなんとハンバーガーの具材だ。

チーズ！

パテ！

トマト！

レタス！

　完璧な布陣だ！　俺の求めるものがそこにある！

　あんなものを撃てるわけがないッ！
　頭がくらくらする、ヒールが勝手に宝箱に向かって這い始める。ああ、早く挟ませてくれ！

「バーガー様！」

　アイナが俺の目の前の地面に矢を放つ、火属性付加（エンチャントファイヤー）の矢だ。メラメラと燃える炎を近くで見て、俺は我に返る。頭をふり（つまり全身）、意識をしっかりさせる。なるほど、あれは危険（デンジャー）だ！

　近づく者の欲しい物を、どうやって調べているのかわからないが、あの箱は出してくる。それでは攻撃もできないし、逃げることもままならない。

「ぐぅ、は、挟みたい」
「我慢ですよ！　バーガー様！」

　俺は息を荒くして、標準を定める。念じればカセットテープ女神が勝手に詠唱してくれて、あの箱を破壊することができる。

　つまりトリガーを引くだけなのだ。しかし、このトリガーがベラボーに重い。俺の中のハンバーガーさんが拒絶反応を起こしている。

「ああああッ！　撃てないッよ！　ああッ！」

　だ、ダメだ全滅するぅッ！！

　このままでは埒が明かない、全滅するくらいなら、撃つしかないッ！！


　無理ぃ！！　撃てるわけないじゃないか！　あの赤いの、あれは絶対トマトだ！　この世界にもあるとは思わなかった。もしかしたら、もう手に入らないかもしれない。

　パテだって肉汁が滴り落ちているし、香ばしい匂いがこっちにまで届いてくる。

　それにあのチーズ、この世界のチーズの名産地は王国なのだ。あのとろけ具合、最高級のものに違いない。

　そしてレタスだ、瑞々しくて、まるで数分前に刈り取ったような、そんな新鮮さを感じさせる。大地の恵みをその身に蓄えてるよ！

　取りに行こう。そうだよ、なにも罠って決まったわけじゃない、偶然にも同じ形の宝箱が落ちていて、風か何かで箱が開いて、中身が出ただけなんだ、そうに違いない。

「もぐもぐ」
「え？」

　俺の頭が真っ白になる。は？　え？　ちょっと！
　いつの間にかスーが宝箱からはみ出ている具材を食べている。

「やめろおおおお！！　やめてくれええええ！！　ああああああああ！！」
「むぐっ！」

　俺の大声に驚いたスーが肩をビクッと揺らして振り返る。

「なんで食べちゃったの」
「もぐもぐ、ごめんなさいなの、もぐもぐ、美味しそうだったの」

　スーは口をしきりに動かしている。怒られている間も口いっぱいに広がる旨味を堪能している。そして、

「ぺっ！　ぺっ！　これ不味い！」

　スーは口いっぱいに頬張った具材を吐き出す。ああ、なんてことを！

「もったいないだろ」
「これ違うの！　食べ物じゃないの！」
「食べ物じゃないって······これって、泥か？」

　スーが吐き出した具材が泥に変わっていた。わけわかんないぞ。

　俺が混乱していると、箱が大きく開く。中から除くのは巨大な目玉。

「即死（インスタントデス）」

　箱から発せられる言葉を受けて、スーはパタリと倒れ込んだ。
　今の魔法は即死魔法。至急蘇生処置を施さねばならない。

　箱は確かな手応えを感じたのだろう、その巨大な１つの目玉を大きく歪ませる。

　だいたい分かってきた、こいつは、対象者の欲しいものを泥で作り出すことができるんだ。もちろん偽物だが、近づけさせたり、攻撃を躊躇させるのには十分な効果があるんだ。

　そして近づいてきたところを、即死魔法を使って倒す。即死魔法は精神が揺さぶられている時ほど効きやすいらしいからな。

「ビックリしたの！」

　飛び起きたスーを見て箱は目を見開いた。あそこまで綺麗に決まった即死魔法が跳ね除けられたのだからな。実際は跳ね除けるどころか、クリーンヒットして１回死んでいるんだが、悔しいから黙っておこう。

「ふん！　お前の即死魔法は効かないぞ！　よくも騙してくれたな！　成敗してやる！」

　勇者パーティ総出で戦い、謎の魔物を倒した。

　というか、この世界ではレアかもしれないが、俺のいた現代なら、大体の作品に登場しているミミックという宝箱に化ける魔物だろう。

　俺たちは気を引き締めて旅を続けることにした。