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三章『ギア編』
第214話 メアリー・ロゼリアス4
しおりを挟む水蒸気の消えたあと、メアの姿はどこにも無く巨大な花だけが残っていた。
俺は花を観察する。茎も葉もねぇ、肉厚な花弁を5つ持つだけの3メートルはある巨大花。
これもラフレシアか? この間の花罠(フラワートラップ)の時と同じだが、サイズが違ぇ。
身構えていた俺だが、ラフレシアは動かねぇ。
時間稼ぎか?
すると会場がざわめき立つ。俺は周りを見渡す。
魔物たちが苦しんでいる。試合場に近い魔物から次々に倒れて口から泡を吐いている。
まさか、
「臭いか」
「その通りよ」
ラフレシアの中からメアが現れた。
「生の肉体を持たない貴方には分からないでしょうけどね、この覇王花(ラフレシア)の放つ悪臭はどんな生き物でも失神させるわ!」
「俺には効かねえって分かってんだろ?」
「毒は効かないけど臭いならって薄い希望に掛けたのよ」
「仮にも絶者候補が希望にすがるんじゃねぇ」
「なんとでもいいなさい! 勝つためなら手段は選ばないわ!」
それは共感する。
「おい、花をしまえよ」
「嫌よ、もしかしたら効いているのに我慢している可能性だってあるわ」
「ねぇって」
「この臭いはどんどん広がっていくわよ、放っておけば魔王城全域に広がるわ!」
さすがに不味いんじゃねぇの? まだ魔王の所にまで臭いは届いてねぇみてぇだけどよ。 臭くて気分を害されたら面倒だ。
そんな時、魔王の横にいるアリス様が叫んだ。
「結界(バリア)を、試合場に結界(バリア)を張りなさい!」
魔王の周りに控えている魔法に優れたローブを着た魔物どもが、試合場に半球状の結界(バリア)を張る。このドーム型の結界(バリア)なら臭いが外に漏れる心配もねぇ。
「魔王様! 申し訳ございません! 私のメアリーが」
「ん? 我は気にしていないぞ、なかなか良い香りではないか」
「魔王様の寛大なる器に感謝いたします!」
「本当にいい匂いだぞ」
その様子をホネルトンは頭蓋骨を歪ませて見ている。それでも言葉を発することはしない。
メアに視線を戻すと、さっきまでの様子とは打って変わって笑みを浮かべている。
「ふふ」
「あん? 何がおかしいんだ?」
「計画通りにことが進むと、どうしても笑っちゃうわよね」
「笑わねぇよ、予定通りくれぇでよ」
「ふふ、ふふふ、なんとでも言いなさい。貴方はもう食虫植物に捕えられた哀れな虫同然なのよ」
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