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三章『ギア編』
第246話 スターライト1
しおりを挟むギア到着の半年前。チョウホウ街中央。
私に名前はない。
両親は、私が小さい時に戦争に巻き込まれて死んだ。私の本当の名前を知っている人間はその時に全員死んだ。
「ブルー、考え事か?」
「うん。人は思考する生き物」
今の私は髪の色が青いからと、皆からブルーと呼ばれている。
私のことをそう呼ぶのは、私と同じ境遇の、私を拾った人たちだ。
「思考する、ね、随分難しい言葉を使うようになったな」
「私ももう7歳だから」
彼らは、最悪なこの街で生き残るために弱い者同士でグループを組んだ。
グループ名は『スターライト』。名前の由来はこの街の頭上で一際強い光を放っている星からとったそうだ。スラム街でも一番大きなグループだ。
隣にいる彼は防塵ゴーグルを額まであげて苦虫を噛み潰したような顔をする。
「まだ7歳だ」
「でも戦える」
私は即答する。
そう私は戦える。私は魔法が使える。他の人よりもその分強い、大人よりもずっと。体が小さくたってそれは変わらない事実。
「いいかブルーこの街の常識に囚われるな、井の中の蛙って言葉は知らないのか?」
「知ってる。でもこの街で生き残るならこの街のルールに従うのがマナー」
この男は私を拾った人、スターライトのリーダー。私の親代わり、名前はゴーグル、いつも大きな防塵ゴーグルをつけているからそう呼ばれている。
「ブルー」
ゴーグルが小さな声で私を呼ぶ。今の状況から私は判断する。獲物が来たのだ。
私たちは高いコンクリート製のビルの中にいる、中は建てっぱなしで内装なんてない四角い灰色の空間だ。そこにしゃがんで窓がはめられてない窓枠から手鏡を出す。顔を出さずに外の情報を得るためだ。
ビルの下を魔物が通っている。
あれは魔王軍、九大天王の1人、凝縮(コンデンスト)された星(スター)のディザスターが使役する魔物。
名前は岩石鬼(ロックオーガ)。3メートルほどの巨躯を持ち、岩石で生成されている体は強固。魔法やスキルといった類は一切使えないものの、力任せの攻撃はそれだけでも十分に脅威だ。
ランクはA、その中でも上位に分類される。
「またビンゴだ、お前の『予言』は百発百中だな」
「違う。5回に1回2回当たる」
ゴーグルは防塵ゴーグルを下げて、事前に準備していた大樽を真下に落とす。
私は急いで口元を布で覆う。あの大樽の中には爆薬が込められている。
大樽の落下と同時に起こる爆発。このクソッタレの街にはおあつらえ向き花火だ。
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