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四章『トマト編』

第321話 王さまジョーク

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 呆気にとられた俺を見て王さまは笑った。

「むっふぉ。王さまジョークでーす」
「は。はは」

 わ、笑えない。

「私は、ダオ・トランテス。この国で王をしている」

 と言いつつ王さまは俺の周りに視線を向ける。

「ジゼルにエリノア、お疲れピーポー」
「お疲れピーポー」
「うむ。クレア、この者たちに報酬を」

 クレアが2人に小さな箱を渡している。その箱自体がかなりの値がしそうだ。

「その箱はチップです。裁縫箱にでも使ってね」

 エリノアが小声で「速攻で売り飛ばす」と言っていたが務めて無視する。

 王はさらに視線を動かす。その視線はアイナに向けられる。

「その者は!!!!」
「王さま、声がデカイよ」
「ああ、ごめんごめん。それでそこの者は?」
「俺の幼馴染です」
「ほーん、付き合ってるん?」
「え」

 俺とアイナは石のように硬直する。石化魔法か!?
 メデューサ系王さまなのか!?


 いや、そんなわけない。
 アイナの肩から熱が伝わってくる。

「初心(うぶ)だなぁ。むふぉふぉ、ごほごほ!」
「王さま!?」
「いや、唾が気管に入っただけじゃ」

 紛らわしいなおい。

「で、後ろのパツキンの少女も幼馴染なん?」

 あんたもパツキンじゃないか!

「この子はサガオ・サンライトの妹。ヒマリ・サンライトです」
「おお! サガオの妹か! 噂はサガオからこれでもかと聞いているぞ!」

 どんだけ妹のこと話まくってんだよ。
 気持ちは・・・・・・わかるけど。


 ヒマリは俺たちの横に出てくる、タイミングを見計らっていたのだろう。よし、話すか。

「王さま、その件で話があります」
「るぇ?」

 俺はギムコ村であったこと、そしてサガオのことを話した。


「そうか。サガオが死んだか」

 クレアが冷たい視線を向けて俺に尋ねた。

「勇者様、サガオはダークエルフについて何か話していなかったか?」
「いや、何も」
「そうか」
「なんでダークエルフなんだ?」
「サガオが話したという呪いの魔法陣の件で気になることがあってな」
「気になること?」
「うん。呪いは私たちダークエルフがもっとも得意とするもの。何か関わりがあるのかと思って聞いただけだよ、気にしないでくれ」


 ダークエルフは排他的な種族で、滅多なことでは人里に姿を表さないらしいが・・・・・・この人がジゼルが前に言っていた変わり者のダークエルフか。


「ヒマリよ」


 王さまは玉座から立ち上がりヒマリの目の前まで移動する。この王さまガタイがいいな。中々の筋肉だ。

 この俺の目に適う筋肉は数少ない、ぜひその服を脱いで裸の王さまになっていただきたい。

 って、その事はあとだ。ヒマリは一生懸命に王さまを見上げている。

「君はどうしたい? なんのためにここにきたんだ?」

 いきなり優しい口調になったな。

「私は・・・・・・」

 ヒマリはチラリと俺たちを見る。俺たちはしっかりと頷いてやる。ヒマリはそれを見て王さまに視線を戻す。

「私は聖騎士になりたいです」

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