331 / 1,167
四章『トマト編』
第331話 トラウマ
しおりを挟む生前のトラウマが蘇る。あれから20年、否、30年近く経とうとしているのに、学校に近づいただけで当時の記憶がフラッシュバックする。
俺が中学校を中退したのは卒業するちょっと前のことだった。
当時の俺は筋トレもしていなかったので、なよなよしていた。
そのせいで、クラスの人たちからいじめられた。
抗ったが、力のなかった俺は早熟のガキ大将にケチョンケチョンにぶちのめされた。
さらには数の暴力だ。タイマンでも勝てないというのに、10倍の戦力差でボコボコにされた。
父親は厳しかった。否。厳しいというよりも弱者を許さない性格だった。なにせ父親は世界最強だった。だからいじめという事実を知っても何も対応してはくれなかった。むしろ『これで息子は強くなれる』と喜んでいた。あの時の笑みは一生忘れないだろう。
母親は父親の言いなりだった。元々そう言うところに惹かれてくっついたんだから仕方のないことだ。と今なら割り切れる。
だが、その時は、俺の全てを否定された気がした。精神的にも完全に孤立した俺は、徐々にすり減っていった。
そんな時だった。
俺をいじめるだけでは飽き足らず。俺が密かに想いを寄せていたクラスの女子をいじめだしたのだ。
多分、俺が好意を寄せていたのを知っていたのだろう。
それが俺の導火線に火をつけた。
堪忍袋の緒が素粒子分解し、超新星爆発した俺の怒りはクラス中の人たちを焼き尽くした。
気がつけば、学校は倒壊していた。奇跡的に死者が出なかったのは、無意識に俺が窓から放り投げていたからだったらしい。
もちろん大事件だ。助けた女の子からも恐怖の目でしか見られないし、いじめっ子たちも病院送りにしてからは会っていない。
当然、俺は引きこもったーー。
「バーガー様!」
「はっ」
アイナがいつの間にか俺をその両手に乗せて顔を覗き込んでいる。俺は視線を逸らす、今は真っ直ぐにアイナの目を見れない。
「どうしたんですか? 具合が悪いんですか?」
「あ、ああ、少し気分が優れない」
「そうですか、わかりました。お医者さんに見てもらいましょう」
「いや、いい、そういうのじゃない」
「バーガー様!」
「はい!」
アイナの大声に俺は驚く。
「バーガー様はすぐ一人で抱え込もうとするところがあります」
「あ、え、そうかな」
「そうです。バーガー様が悩んでいることくらい、ひと目でわかります。ずっと一緒にいるんですから」
そうだよな、アイナからすれば俺は生まれた時から一緒にいる幼馴染パンだもんな。・・・・・・てかそんなに顔に出るのかな俺。
「私にだけは、なんでも話してほしいです。・・・・・・ダメですか?」
ああ全てゲロっちまいたい、「実は刑事さん」と、涙ながらに俺にあった全てのことを話してやりたい。
でも、どうなんだ、トラウマを語るなら転生者であることも話さなければならない。
それは危険なんじゃないか?
アイナがあの女神と接点を持つということになる。
あの女神は危険なんてものじゃない。いつここに転生トラックを突っ込ませてくるかもわからない。
「俺はアイナに隠し事はしたくない」
アイナは俺の言葉を待っている。
「だが、話せばアイナに危険が及ぶ可能性がある」
「そんなこと! 私は気にしません!」
アイナは俺を持つ手を自身の顔に近づける。アイナの顔が俺の目の前まで来る。甘いいい匂いがする。
目がそらせない。
「・・・・・・ダメだ、言えない」
俺は目をそらすのを諦めてアイナの目を真っ直ぐに見る。
真紅の瞳だ。とても美しい。
これまでさんざん危険な目に合わせてきたが、それはやむを得ない状況だったからだ。
この子は大事にしなくてはならない存在だ。無意味にリスクを背負わせる必要は無い。
「学校にはアイナ1人で行ってくれ、俺は行けない」
俺はアイナの両手から飛び降りようとする。
だが、アイナは優しく俺を包み込み離さない。
「アイナ、離してくれ」
「ダメです。バーガー様が学校に行かないなら私も行きません。一緒に宿に帰りましょう」
ぐっ、アイナは学校を心底楽しみにしていた・・・・・・。
俺だって学校に行きたいさ。トラウマなんてものにいつまでも囚われていていいわけがない。
だが怖いものは怖い。肉体があったら吐いていたかもしれない。
「いつまでそこで痴話喧嘩をしているつもりだ」
俺たちは振り返る。そこには白衣に身を包んだ王国魔導師、クレア・クラヴィッツがいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる