現代最強は楽しいハンバーガーに転生しました

黒木シロウ

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四章『トマト編』

第331話 トラウマ

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 生前のトラウマが蘇る。あれから20年、否、30年近く経とうとしているのに、学校に近づいただけで当時の記憶がフラッシュバックする。

 俺が中学校を中退したのは卒業するちょっと前のことだった。
 当時の俺は筋トレもしていなかったので、なよなよしていた。

 そのせいで、クラスの人たちからいじめられた。
 抗ったが、力のなかった俺は早熟のガキ大将にケチョンケチョンにぶちのめされた。

 さらには数の暴力だ。タイマンでも勝てないというのに、10倍の戦力差でボコボコにされた。

 父親は厳しかった。否。厳しいというよりも弱者を許さない性格だった。なにせ父親は世界最強だった。だからいじめという事実を知っても何も対応してはくれなかった。むしろ『これで息子は強くなれる』と喜んでいた。あの時の笑みは一生忘れないだろう。

 母親は父親の言いなりだった。元々そう言うところに惹かれてくっついたんだから仕方のないことだ。と今なら割り切れる。

 だが、その時は、俺の全てを否定された気がした。精神的にも完全に孤立した俺は、徐々にすり減っていった。


 そんな時だった。
 俺をいじめるだけでは飽き足らず。俺が密かに想いを寄せていたクラスの女子をいじめだしたのだ。

 多分、俺が好意を寄せていたのを知っていたのだろう。

 それが俺の導火線に火をつけた。
 堪忍袋の緒が素粒子分解し、超新星爆発した俺の怒りはクラス中の人たちを焼き尽くした。


 気がつけば、学校は倒壊していた。奇跡的に死者が出なかったのは、無意識に俺が窓から放り投げていたからだったらしい。

 もちろん大事件だ。助けた女の子からも恐怖の目でしか見られないし、いじめっ子たちも病院送りにしてからは会っていない。


 当然、俺は引きこもったーー。


「バーガー様!」
「はっ」

 アイナがいつの間にか俺をその両手に乗せて顔を覗き込んでいる。俺は視線を逸らす、今は真っ直ぐにアイナの目を見れない。

「どうしたんですか? 具合が悪いんですか?」
「あ、ああ、少し気分が優れない」
「そうですか、わかりました。お医者さんに見てもらいましょう」
「いや、いい、そういうのじゃない」
「バーガー様!」
「はい!」

 アイナの大声に俺は驚く。

「バーガー様はすぐ一人で抱え込もうとするところがあります」
「あ、え、そうかな」
「そうです。バーガー様が悩んでいることくらい、ひと目でわかります。ずっと一緒にいるんですから」

 そうだよな、アイナからすれば俺は生まれた時から一緒にいる幼馴染パンだもんな。・・・・・・てかそんなに顔に出るのかな俺。

「私にだけは、なんでも話してほしいです。・・・・・・ダメですか?」

 ああ全てゲロっちまいたい、「実は刑事さん」と、涙ながらに俺にあった全てのことを話してやりたい。

 でも、どうなんだ、トラウマを語るなら転生者であることも話さなければならない。


 それは危険なんじゃないか?
 アイナがあの女神と接点を持つということになる。

 あの女神は危険なんてものじゃない。いつここに転生トラックを突っ込ませてくるかもわからない。

「俺はアイナに隠し事はしたくない」

 アイナは俺の言葉を待っている。

「だが、話せばアイナに危険が及ぶ可能性がある」
「そんなこと! 私は気にしません!」

 アイナは俺を持つ手を自身の顔に近づける。アイナの顔が俺の目の前まで来る。甘いいい匂いがする。

 目がそらせない。

「・・・・・・ダメだ、言えない」

 俺は目をそらすのを諦めてアイナの目を真っ直ぐに見る。
 真紅の瞳だ。とても美しい。

 これまでさんざん危険な目に合わせてきたが、それはやむを得ない状況だったからだ。

 この子は大事にしなくてはならない存在だ。無意味にリスクを背負わせる必要は無い。

「学校にはアイナ1人で行ってくれ、俺は行けない」

 俺はアイナの両手から飛び降りようとする。
 だが、アイナは優しく俺を包み込み離さない。

「アイナ、離してくれ」
「ダメです。バーガー様が学校に行かないなら私も行きません。一緒に宿に帰りましょう」

 ぐっ、アイナは学校を心底楽しみにしていた・・・・・・。
 俺だって学校に行きたいさ。トラウマなんてものにいつまでも囚われていていいわけがない。

 だが怖いものは怖い。肉体があったら吐いていたかもしれない。


「いつまでそこで痴話喧嘩をしているつもりだ」


 俺たちは振り返る。そこには白衣に身を包んだ王国魔導師、クレア・クラヴィッツがいた。



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