ドレスデンのドリルきゅん

つなかん

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モネはTwitterをやらない

兄弟喧嘩

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 この世界はなにかがおかしい。私はなんとなく気づき始めていた。いや、異世界トリップしてる時点で色々おかしくはあるんだけど……そういうことではなく。

 毎日描き続けているはずの油絵は一向に完成しない。それに、最近変な夢を見る。本当は異世界転生なんてしていなくて、あやちゃんとオタクをする〝現実〟の夢。笑って、アニメを見て、コラボカフェとか行って、あやちゃんは痛バを組んで、私はBL漫画を描いている。
 絵の具を乾かしている間、することもないので廊下を歩いていた。銃声が聞こえたのはそんなときだった。

「ちょ……なにするんですか!?」
「悪ぃ、存在感ないから気づかなかったわ」

 私のすぐ側を銃弾が掠めたことはすぐにわかった。平和な学校で、こんなことをする人間は限られてくる。あやちゃんの推し、ハインリヒ・シュタイナーがニヤニヤ嫌な笑みを浮かべながら銃をしまうところだった。
 髪は伸び、チャラチャラした装飾品をつけている。初期のビジュアル設定ではありえないことだった。あやちゃんがこんな姿を見たらなんて言うだろう。『そんなハイネも素敵♡』――とか、そんなところだろうか。

 校則のほとんどないこの平和な学院でも、さすがに発砲は許されないはずだ。……てか、なんでこの人ここにいるんですか。涼しい顔で時計を見て首を傾げている。まだ、昼を少しすぎたところだった。

「今なにしようとしました?」

 私のこと殺そうとしたよね、絶対。じっとりとハイネさんを見つめる。あやちゃんも、その顔だけが取り柄だってことを認めていた。農家脳差別主義者でレートだって低いくせに。
 風に揺られてざわざわ木々が揺れた。ハイネさんの長い金髪が美しく靡く。あやちゃんだったらぎゃあぎゃあ新規絵だ! って騒いぐんだろうけど私は違う。推しになら殺されたいとか、そんなこと絶対に思わないし。

「気にすんなよ」
「気にします!!」

 最近見る夢はあやちゃんとオタ活をする幸せなものばかりではなかった。嫌なものもある。……こうやって、誰かに殺される夢だった。外は明るかったり、暗かったりもした。だいたいは銃殺で、ときどきは刺殺だった。妙にリアルで、全身に痛みが走って意識を失うのがこの夢の特徴だった。

「お兄ちゃーん、人殺しならもっとバレないとこでやれよ」

 コツコツ、特徴的なブーツの音がした。リドル・シュタイナーのものだとすぐにわかった。髪を短く切り、私の知っているフリフリの女装姿ではない。
 私は咄嗟に周囲を見渡した。本能で、推しのエルマーの姿を追ってしまう。残念ながらこの場にはいないようだった。しゅん。

「お前みたいなのに居場所ってあんの?」

 私の落胆など露知らず、リドルくんは不遜な態度で言葉を続けた。マルボロ・レッドのタバコを吸う様子は、すっかりサマになっている。
 その指パッチンの音は、何人もの人間を葬ってきたものだった。とんでもない爆風に私が耐えられるわけがなかった。地面に投げ出され、全身を強く打つ。必死に息を吸うと、肺に土埃が入り込んでくる。

 なんとか校舎に背を預けて体勢を立て直す。頭が痛い。今日は踏んだり蹴ったりだ。霞む視界の中で、ハイネさんが無傷で立っているのが見える。防御魔法を使ったのだと推測がついた。
 明らかな殺意をお互いに向けている――兄弟なのに。いや、まぁこの二人ってそもそも不仲なんだっけ。一触即発の空気が流れ、私の入る隙などない。こういうとき、どうするべきか腐女子の私はよく知っている。壁になればいいのだ。黙って壁になる簡単なお仕事なのだ!

「裏切り者には信用がない。でも、人殺しだって似たようなもんだろ」

 ハイネさんは余裕の笑みで弟に対峙していた。こんなこと、今までではありえないことだった。圧倒的能力差があったはずなのに、いつの間に……。リドルくんも動揺した様子で何歩か後ずさった。〝最強〟と言われる彼がここまでタジタジになるなんて珍しい。

「俺は――」
「〝大虐殺の申し子〟だっけ? みんなお前のこと、厄介だって思ってんだよ」

 ハイネさんの性格の悪い笑顔は恐ろしいものだった。いや、あやちゃんが見れば「キャー素敵♡」くらいの反応はあったと思うけれど。

 この二人はずっとこうやって争って生きていくしかないのかもしれない。残念ながら、私の推しCPではないので戦略的撤退をさせていただこう。だって、まともな感性を持っていれば絶対こいつらに関わりたくないと思うはずだから。
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