ドレスデンのドリルきゅん

つなかん

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ファンサもらうまで死ねません

うちわ

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『ハイネ、大好き』
 うーん、大好きだけじゃパンチが足りないかな。『ATMになりたい』、こっちでもいいけど、私はハイネと結婚するからなー。

 もう何時間もコピー用紙を眺めていた。うちわに貼るための、デカデカと文字が印刷されているカラフルなやつ。
 ライブのためにうちわを作る。これってオタクの義務だと思うんだけど。スタバのテーブル席を一人で占領し、MACではなくハサミとノリを広げているのは私くらいなものだ。

 十八時をすぎると、新宿のスタバは客層が様変わりした。あからさまなパパ活女と、冴えないおっさん。どんなに金を積まれても、あんなのにニコニコしたら人生終わりだ。死んだほうがマシ。
 私のほうが若くてかわいいからってチラチラこっちを見るのはやめて欲しい。いくら金積まれてもあんなオッサンと食事するとか無理だわ。ていうか絶対私の父親のほうがお金持ってるし。
 でも、親金でオタクするのは中学生までです! ハイネには汚いおっさんの金なんて似合わないもんね♡

 オタクの中にはそうやってチケットやグッズを積む人間も少なからず存在していた。私がシュレッダーにかけるために個ブロを枯らした、キショい舞台俳優のオタクがその筆頭だ。
 たいてい新幹線レベルのド田舎に住んでいて、突発ライブにすら参加できない雑魚オタク。パパ活して私より弱いとか、雑魚すぎるんですけど。負ける気がしない。はぁ、やっぱりハイネしか勝たん。

 田舎の貧乏人がでしゃばるなんて許せない。それが許されるのはハイネだけです♡ あーあ、農家脳なところもかわいい。うちわに印刷するビジュ、どれがいいかなー。

「なにやってんだろあの子……」

 部活終わりの高校生もスタバにやってくる。同じ制服――嫌な予感がした。今日はうちわを作るためにわざわざシフト調整してるのに、こんなの最悪だ。私がカワイイからってみんなに嫌われる。学校なんて好きじゃない。
 高校生は人生で最も輝いてるって誰が決めたんだろう。絶対キモいおっさんに決まってる。オタクしてるときが一番楽しい。まぁ、私はオタクたちにも嫌われてるけど。スティックのりを握る手に力がこもる。

「パンフの子じゃない? めっちゃかわいい!」

 集団のうちの一人がそう言った。私がかわいいのは周知の事実。だけど、まぁ悪い気はしなかった。一応褒め言葉? だもんね。
 でも、そんなの小さい頃から聞き慣れてる。私は彼女たちに気づかないフリをして、慎重にうちわ製作に打ち込んだ。

 学校のパンフレットの表紙にほとんど拒否権なく選ばれたのは、つい一ヶ月ほど前のことだった。本当は目立つのなんて好きじゃない。どうしても、って頼まれたから出てやったんだ。
 なのに出しゃばりだとか、媚びてるとか、そんな風に陰口を叩かれる。自分たちが不細工なことを棚に上げて。

「オタクじゃなければね~」
「キモイもん」
「外見しか取り柄なーし」

 わざと聞こえるように悪口を言っている。それって絶対性格が悪い。didにも、そんなシーンがあったっけ。私を救ってくれるのは二次元の
世界だけ。
 貧乏で不細工で、頭もそんなによくない下等生物からの嫉妬なんてどうだってい。そう思わせてくれる。安心させてくれる。

 イライラしてスマホを手に取った。いかにハイネが素晴らしいかというパブサをしなければ。たいして貢いでない新規オタクのツイートが目に入る。
 原作はついに第二部に突入し、これまでにない盛り上がりをみせていた。ハイネのレートが上がるのも時間の問題だろう。

 寄宿学校編で好きになりました、とかふざけんなよ私はお前らが差別主義者キメェって散々アンチスレを乱立させてたあのときからずっとリアコしてるんだよ!

 いけないいけない、つい同担拒否の発作が出てしまった。気をつけなければ。平常心平常心。そうしないと、うちわの文字がズレちゃうし。
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