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終わりは始まりの音を奏で【上】
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「こんな所に閉じ込めたからって、何もかもあなたの思い通りになると思ったら大間違いよ!」
迫る手を振り払い毅然と言い放つ。
しかし骨張った男の手は、拒絶など意にも介さず再び迫って私の顎を掴んだ。
暗紫のローブからのぞく手首は病的なほど青白く見えるのに、顎を押さえつける手はびくともしない。
もう一方の手の先では、この世のものとは思えぬおぞましい物体が鈍い輝きを放っている。
「いやっ! いやよ、放して……っ!」
逃れようと身をよじるのに合わせ、足首に繋がれた鎖がガシャガシャと音を立てる。
この無機質な感触にも日ごと違和感を失っていく自分が恐ろしい。
男は、フードから覗く口元に酷薄な笑みを浮かべて言った。
「ここには君と僕の二人きり、どんなに叫ぼうと誰も助けには来ない。そうやって嫌がる君も美しいけれど……そろそろ大人しくして? すべて君のためだ……」
「勝手なこと言わないで! 私はそんなもの絶対に食べな——」
「あんまり抵抗すると、『約束』は守れなくなるけれど?」
「っ……」
男の手を引き剥がそうと抗っていた両手を緩め、力なくぱたりと膝に落とす。
「卑怯だわ」
「君が望んだことだ」
「——ぅぐ!」
それ以上の抵抗がないと見るや、草葉を煮詰めたような深緑の物体が無遠慮に口腔へとねじ込まれた。
舌を蝕む強烈な苦味、鼻腔へとせり上がる臭気。押さえつけるように口を塞がれていては吐き出すことも叶わない。
「んぐ……ふっ、う……っ……」
鼻だけの僅かな呼吸はすぐに限界に達し、ひどい苦味にぽろぽろと涙を零しながら口内の異物を咀嚼する。
強張る喉を上下させてやっとの思いで異物を体内に送り込むと、ようやく塞がれていた口が解放された。
「はぁっ、はぁ……っ」
「よくできました」
満足気にこちらを評する男を、涙の残る瞳でギリと睨みつける。
「こんなことをして、覚えてなさいよ!」
「もちろん、君との思い出は何一つ忘れたりしないよ。——それで? 癒しの力しか持たない聖女様が、僕に攻撃魔法でも放ってくれるの?」
「それは……」
うっそりと笑みを浮かべた男は、空のトレーを手に用は済んだとばかりに立ち上がった。
振り返りもせず出ていこうとする背中に、まだこちらの用は済んでいないと声を上げる。
「待ちなさい! 『約束』はちゃんと果たしてもらうわ!」
「ああ——」
私には越えることのできない扉の向こう。
男はぴたりと歩みを止め、薄暗い廊下を背にゆっくりと振り返った。
「ピーマンを残さずに食べられたら、おやつになんでも好きなものを用意する——って話だったね」
迫る手を振り払い毅然と言い放つ。
しかし骨張った男の手は、拒絶など意にも介さず再び迫って私の顎を掴んだ。
暗紫のローブからのぞく手首は病的なほど青白く見えるのに、顎を押さえつける手はびくともしない。
もう一方の手の先では、この世のものとは思えぬおぞましい物体が鈍い輝きを放っている。
「いやっ! いやよ、放して……っ!」
逃れようと身をよじるのに合わせ、足首に繋がれた鎖がガシャガシャと音を立てる。
この無機質な感触にも日ごと違和感を失っていく自分が恐ろしい。
男は、フードから覗く口元に酷薄な笑みを浮かべて言った。
「ここには君と僕の二人きり、どんなに叫ぼうと誰も助けには来ない。そうやって嫌がる君も美しいけれど……そろそろ大人しくして? すべて君のためだ……」
「勝手なこと言わないで! 私はそんなもの絶対に食べな——」
「あんまり抵抗すると、『約束』は守れなくなるけれど?」
「っ……」
男の手を引き剥がそうと抗っていた両手を緩め、力なくぱたりと膝に落とす。
「卑怯だわ」
「君が望んだことだ」
「——ぅぐ!」
それ以上の抵抗がないと見るや、草葉を煮詰めたような深緑の物体が無遠慮に口腔へとねじ込まれた。
舌を蝕む強烈な苦味、鼻腔へとせり上がる臭気。押さえつけるように口を塞がれていては吐き出すことも叶わない。
「んぐ……ふっ、う……っ……」
鼻だけの僅かな呼吸はすぐに限界に達し、ひどい苦味にぽろぽろと涙を零しながら口内の異物を咀嚼する。
強張る喉を上下させてやっとの思いで異物を体内に送り込むと、ようやく塞がれていた口が解放された。
「はぁっ、はぁ……っ」
「よくできました」
満足気にこちらを評する男を、涙の残る瞳でギリと睨みつける。
「こんなことをして、覚えてなさいよ!」
「もちろん、君との思い出は何一つ忘れたりしないよ。——それで? 癒しの力しか持たない聖女様が、僕に攻撃魔法でも放ってくれるの?」
「それは……」
うっそりと笑みを浮かべた男は、空のトレーを手に用は済んだとばかりに立ち上がった。
振り返りもせず出ていこうとする背中に、まだこちらの用は済んでいないと声を上げる。
「待ちなさい! 『約束』はちゃんと果たしてもらうわ!」
「ああ——」
私には越えることのできない扉の向こう。
男はぴたりと歩みを止め、薄暗い廊下を背にゆっくりと振り返った。
「ピーマンを残さずに食べられたら、おやつになんでも好きなものを用意する——って話だったね」
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