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終わりは始まりの音を奏で【中前】
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さかのぼること一ヶ月。
婚約発表を夜に控え最後の打ち合わせにと王太子の元へ向かったはずの私は、見慣れたベッドの上で目を覚ました。
「ここは……私の部屋……?」
ぼんやりと周囲を見渡して呟きながらも、その推測が外れているとの奇妙な確信を抱く。
記憶にある窓はもっと大きく、天井はもっと低かった。
壁紙も調度品も何もかも、限りなく実家の私室に似せて作られた、自分の部屋ではない『どこか』。
「そう、ここは君の部屋だ」
いつからそこにいたのか。ローブのフードを目深に被った男が、扉の方からゆっくりとこちらにやって来る。
「シヴュロス……」
男の名は、シヴュロス=カフィスール。
魔術師の名門カフィスール家の子息にして、史上類を見ないほど強大な魔力を有する王国随一の魔術師。そして私と同じ魔法学院の一年生でもある。
常にフードで顔を隠して他者を寄せつけず、有り余る才を持ちながらも無断欠席を繰り返して三度も留年しているという彼を、最初は近寄りがたい人だと思っていた。
しかし実際に話してみれば、裏庭で迷子になっていた私を助けてくれたり悩みを聞いてくれたりと、少しも偉ぶったところのない繊細で優しい人だとすぐにわかった。
「ここはどこ? シヴュロス、あなた何か知っている? ——ああっ、それよりも早く戻らないと! 今何時!? 急がないとパーティーに遅れちゃうわ!」
ベッドから下りようとした瞬間、左の足首に生じた違和感。その正体を確かめようと振り返った横顔に、シヴュロスが告げる。
「焦らなくても大丈夫。もう君が学院に戻る必要はない」
「どういうこと……? 今夜のパーティーで、レイナード殿下との婚約発表があるの。絶対に参加しなくちゃいけないのよ……」
鈍色の足枷を視界に捉えながら、徐々に強張っていく声で言葉を紡ぐ。
足枷から伸びる長い鎖は、今自分がいるベッドの脚に繋がれているようだ。
この状況は何?
どうして私は鎖に繋がれているの?
ベッドの横に立ったシヴュロスが、真上から私を見下ろす。
「誰も君に教えてくれなかったようだけれど——王太子には婚約者がいる」
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