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よみがえる記憶と足りない情報【中】
しおりを挟む「だからって……現実との区別がつかなくなるほど、のめり込んでなんかいないわ」
『スマホ』のない両手を見つめる。
完全に現実を忘れて疑似恋愛にのめり込めたなら、それはそれで幸せだったかもしれない。
しかし――心のままに選択肢を選ぶほど、なぜか下がっていく好感度。自分の言動ではゲームのキャラにさえ愛されないのかと軽い絶望を感じながら、ならばと逆に王子が気に入りそうな選択肢を選んでみても、成果は芳しくない。のめり込もうにも突き返されるという、悲しい現実がそこにはあった。
それでも攻略サイトで正答を調べることはしなかった。自分の意思が介在しない『恋愛』なんて、虚しさの極みだと思うから。
その結果、あるときは殺害計画の餌食に、あるときはスパイ容疑で投獄され、あるときは拉致監禁と、何度となくバッドエンドを迎えることになったのだ。
「どう考えても失恋の代償が大きすぎるわよ……」
ただの恋する乙女が、王子に一体何をしたというのか。
王子も王子で、結果が出る直前まではまるで両想い達成かのように甘く愛を囁くのだ。
しかしどんなに不条理だろうと、理解できなかろうと、この既視感は受け入れざるをえない。
今しがたこの部屋で繰り広げられた光景こそが、幾度となく目にしたエンディング――『監禁エンド』だったのだから。
前世の最後の記憶は、二日間の徹夜明けで帰宅し、玄関で倒れ込んだところまで。睡眠不足か過労か不摂生か……思い当たる節だらけでわからない。
リリティナとして生きてきた年月の記憶がある今、前世の死について思うことといえば『勤め先が滅んでいますように』くらいのものだ。
過酷な前世を思い出しながら、ふと自分の身体に違和感を覚えて肩を回す。
「肩こりが……ない!? 頭痛も、かすみ目もないわ!」
今世の自分にとっては当たり前だ。当たり前なのだけれど――。
たった今前世の記憶が甦ったばかりだからだろうか、だるさのない『健康な身体』も、仕事をしていない『一人の時間』も、ひどく久しく感じられた。
「私、やっと自由になっ――!」
歓喜に震え快哉を叫ぼうとする私に水を差すかのように、足元でジャラリと鎖が鳴る。
「そういえば監禁されたんだったわね……」
ブラック企業から解放されたかと思いきや、今世は監禁とは。もしや私は前々世あたりでよほどの悪事を働いたのだろうか。
しかし前世の記憶が甦った衝撃で、不安に押し潰されそうだった気持ちはずいぶんと落ち着いた。
改めて、自分の置かれている状況を確認しておこう。
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