ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁@書籍発売中

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1~10話

家は食べ物ではありません【上】

「もしかして私、ちっちゃくなっちゃった――!!?

 ――なーんてね! 夢でしょ、夢!」

 大袈裟な一人芝居をカラカラと笑い飛ばす。
 突然見知らぬ場所にワープして、そのうえ自分が小さくなっただなんて。
 こんな非現実的な状況、夢としか考えようがない。

 きっと疲労の蓄積した状態でアルコールを摂ったのがよくなかったのだ。
 まさかビール一杯で寝落ちしてしまうとは。

 ……それにしても、一体どこからが夢だったのだろう。
 チェーンの取れた巨大なペンダントトップ――おじいちゃんの遺骨入りカプセル――に視線を落とす。

「夢の中でくらい、遺骨じゃなくておじいちゃん本人が出てきてくれればいいのに……」

 寄る辺ない呟きが、空気に溶けて消える。
 にじみそうになる涙をぐっと堪えて顔を上げると、カプセルをしっかりと脇に抱え直して改めて周囲を観察した。

 明るい空間。
 愛らしいぬいぐるみたち。
 頭上遥か高くには、浮き彫り細工をほどこされた優美な天井が見える。
 うん。これはきっと、『楽しい』夢。

 最近は僅かな睡眠時間にも悪夢にうなされるばかりだったので、こうした楽しい雰囲気の夢というのは実に久しぶりだ。
 これも会社を辞めた効果だろうか?

「せっかくなら、思いっきり楽しまないとね!」

 一人きりの生活でめっきり増えてしまった独り言を唱えつつ、とりあえず手始めにと、目の前のふわふわなお腹にもう一度飛び込んだ。





 もふんっ

「んーっ、この子も抱き心地最高ぅぅ!」

 手当たり次第抱きついて、ふわっふわの毛並みに埋まりながら思う存分頬擦ほおずりをする。
 昔から、可愛いものが好きなのだ。夢の中ならば誰の目を気にすることもない。

「……ん? 屋根?」

 ふと見上げたぬいぐるみ山脈の隙間に、建物の屋根らしきものが見えた。
 どうやらこの空間にはぬいぐるみ以外の物もあるらしい。

 もふもふと毛足に撫でられながらぬいぐるみの間を抜けてみれば、そこには立派な洋館があった。

「すごーい……」

 大きくて瀟洒しょうしゃな、西洋風の館。
 門や庭はなく、いきなりデーンッと建物だけがある。
 チョコレートブラウンの外壁のすべすべとした手触りを確認した私は……おもむろに口を開いて、壁に噛りついた。

 ガチッ!

「ったーい!」

 口を押さえて痛みに悶絶する。

 だって……だって、お菓子の家かと思ったのだ!
 楽しげな夢の中で、大好きなぬいぐるみに囲まれて、美味しそうなチョコ色の――とくれば、憧れのお菓子の家が出てきてくれてもいいはずじゃないか!
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