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1~10話

『可愛い』は正義ですか罪ですか【上】

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 頭上高くにある険しい顔が、すいとこちらに向く。
 透けるようなアイスブルーの瞳が正面に私を捉えた途端、家主はカッと瞠目したきり動かなくなった。

「――――」

「…………」

 強い。眼力が強い。
 険しい顔で目を見開く姿はまるで仁王像のようだ。

 恐ろしい人ではないはずだからと自分に言い聞かせてみても、そんな風に見られるとさすがにたじろぎそうになる。

「――――」

「…………」

 瞬きもせずにいて、目は乾かないのだろうか……。
 こうして自分より驚いている相手を見ていると、段々と冷静になってくるから不思議なものだ。

 他に誰もいない空間とはいえ、いつまでも二人して睨み合っているわけにもいくまい。
 そろそろ眼力で焼かれそうな気もするし。

 僅かな逡巡のち、私は恐る恐る家主へと声をかけた。

「あ、あのー…………お邪魔してます……?」

 夢の中とはいえ、家主にとってみれば私は『不法侵入者』で、そのうえフルーツの『窃盗犯』。
 今もまさにフルーツをいただきに来たところなので、なかなかに気まずいものがある。

「……かっ――――」

 あ、動いた。

「か?」

 表情の恐ろしさに反して怒っている気配は感じないのだけれど、この顔は一体どういう感情なのか。
 言葉の続きを待っていると、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。

「…………ふ、触れる許可をもらっても……?」

 「か」は、どこへ??
 疑問を覚えつつも、寝ている家主に無断で触れていた私に拒否権なんてあるはずもなく。

「危害を加えないのであれば……」

「神に誓って」

 こくこくと必死に頷いた家主が、大きく屈んで私の足元へと手のひらを差し出した。

 ……これは、ここに乗れということ?

 ちらりと家主をうかがえば、目の見開きこそ収まったものの、私の一挙手一投足まで見逃すまいとこちらを注視している。
 一瞬でも目を離せば逃げてしまうと思っているのだろうか。

 長い指に手をかけて、よいしょと手のひらに乗り上げる。
 不安定な足場によろけてペタンと座り込むと、こちらまで緊張が伝わってきそうなほど慎重な手つきで、ゆっくりと手のひらが持ち上がった。
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